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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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107話

 ――あの女子さんには今度キチンとお礼を言うべきかもしれない。

 ま、顔も名前も覚えちゃいないけど。

 いや、名乗ってなんかいなかったか?


 でもホント、あの悲鳴が無かったら、非効率に延々と自食還元方式で気絶を繰り返しながら魔力作ることになってたトコだったよ。

 別に必要量の魔力が溜まるのなら方法なんてなんでも良いんだけど、父さんと母さんと兄さんを呼び戻すのなら早い方が良いからね。

 こーりつってのは重要だ。


 その点で言えば、あの()()モドキとの相対は最高に効率的だ。

 なにせ、『ソコに居る』ってコトさえ認識できれば――つまり、目の前で息を吸って吐いてしてんのを見るだけで、それだけで魔力ドバドバなんだから!

 アレが研究所だけでなく身近にも存在してるんだってコトを知らしめてくれた女子さんにはマジ感謝だね。


 となれば、これからすべきコトは明白だ。

 だから――



「――――ってコトがあってさ~、今夜は初陣ちゃんってワケ。ホラ、思い立ったが吉日ってゆーだろ? 思い付いたら即実行、鉄は熱いウチに叩け……まあ、なんだって良いが、よーするにテメエらはオレちゃんの為にココで()()されるんだ、分かった?」


「…………(へんじがない。ただのしかばねのようだ……アハ☆)」


 な~んて、底辺に転がってるスキンヘッドの頭を踏ん付けて腹話術ごっこしてると、漸く解放されたとばかりに廃工場内の空気が微妙に弛緩する。

 いや、確かに話は終わったけどさ、ココからが本番ですよ?


 ってなワケで、腰掛けてた廃材製の檀上に敷いた ()()()()座布団から立ち上がりまして、四枚とも蹴り飛ばし――からの、振った脚を戻す動作で鉤爪引っ掻きを加えてやる。


 そうやって、吹っ飛びながら輪切りになった連中が、壁に着弾して落とした烏賊メシみたく洗い浚いぶちまけられた真っ赤な中身には目もくれず、壇上から跳び降りて居並ぶモブヤンキー(ヒャッハー)共を見据える。


「さて、んじゃまあ、やりますか」


 バサリバシンッと翼を広げて尻尾を一振りし、言葉とジェスチャーで『始めるぞ』と知らせてやると、バイクブンブン騒音ズもやっとコッチの意図を理解してくれたのか、皆してギャーギャー喚きながら部屋中に散り出した。


 そんで、大体五分の一くらいはその辺の廃材とかさっき在るだけ全部ブッ壊したバイクの部品とかを手に()()を囲んで来て、残りは黒炎で覆ってる出入口とか窓とかに駆け寄ってバンバン叩いてる。

 ったく、んなコトしなくたってたっぷり構ってやるし、んなコトしたって出られねえってのに……


「まずは下拵え。卵を割って――」


 息を合わせて各自適当に握った武器を振り被りながら突っ込んできたので、まずはソイツらに拳と蹴りと翼と尻尾を振るい、頭蓋を全部割砕く。


 にしても――ハハ、鈍過ぎ。

 ホントに走ってる?

 一歩進むまでですら鈍過ぎて欠伸が出るよ。

 まるでスローモーション再生だ。

 実はパントマイム中?


 いやはや、今更かつ我ながらフィクション染みた動体視力だけど、実際どれくらいの減速倍率なんかな?

 今度虫の羽搏きとか見てみよ。

 テレビとかで見たスーパースロー映像と同じように見えるんなら、大体数千分の一とか数万分の一くらい?


「――掻き混ぜる。この時、混ぜ過ぎないよう黄身を崩す程度に抑えるコト」


 でもって、残った胴体全部を一纏めに尻尾で巻き取ったら、そのまま身体ごと回して放り投げる。

 狙いは勿論、無抵抗に背中を見せて黒炎を叩いて『糠に釘』を実体験中の五分の四共、その内の窓に散った五分の一。

 頭の分の重量が無いとは言え、それでも数十キロを超える肉塊が水平に飛ぶほどの速度で激突すれば、そりゃまあ人体なんて簡単に弾けるわな。


「ソコに牛乳を加えて、塩コショウを少々」


 で、残りは五分の三。

 まずは、バサリと広げた翼から魔力放出で出入口の黒炎へ落ちるように突撃。

 途中でグルリと体勢を変えて足から黒炎へ垂直に着地すると、手近な五分の一を両手の鉤爪と翼爪と尻尾の先端で引き裂く。


「白身を切るように掻き混ぜて卵と牛乳が混ざったら、熱したフライパンにバターを敷く」


 壁面垂直状態からスーパーボールみたいに黒炎の壁を蹴って――も、『加えられた運動エネルギーに等量のエネルギーを放出して相殺する』って物理干渉の壁だから進めないので、再びの魔力放出。ビューン。


 その勢いで残る五分の二の半分集団へと突撃。

 ()()の身体が掠めただけで肉どころか骨まで弾け飛び、直撃すれば爆発四散……諸行無常。


「卵液を垂らしてフライパン全体に広げ、薄く固まってきたら混ぜるように端へ寄せる」


 壁へ着地する寸前にまた物理干渉の黒炎を足裏に展開して衝撃をゼロにしたら、干渉解除でもっかい魔力放出……

 いや、魔力もったないけど、変身状態で()壁蹴ったら抜けちゃうからね。

 それに、コイツらのおかげで魔力ザクザクだし。


 そんで、今度は軽めの出力で残りの五分の一共の真ん中へ華麗に降り立ってからグルリと一閃。


「引っ繰り返して形を整えたら、フワフワ半熟オムレツの出来上がり」


 部屋中に散らばる赤色を物理干渉で纏めて一固まりにしてから、主観干渉発動。

 部屋の中央、さっき座ってた壇上の前辺りの虚空に浮かぶ黒炎がパッと晴れると、中からさっきミンチにしたった連中が無傷の状態でドサドサと。


「さて、一品だけじゃ味気無いし、もう二、三品くらい行っとこうか」


 そのセリフに、連中は揃いも揃って『何が何だか分からない』って顔してたけど、()()を作り終える頃には皆にも分かって貰えちゃったぜ☆

 ま、熱量なんて魔力で補えるから、メシどころか呼吸すら必要無いんだけどネ。

 ……いやホント()()だわ、死ねば良いのに。

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