106話
「さて、ではココで問題です、ジャジャン! もし、このまま解散したとして、自由になったコレが万一警察に駆け込んでココでされたコトを洗い浚い吐いたとしたら、オレとアンタは一体どうなっちゃうでしょ~か?」
なんて、少~しテンション上げ気味に問い掛けてみると、微妙に面食らったらしい女子さんはチョットだけポカンとしちゃいましたよ。
いや、そっから考え込んじゃってくれちゃってるから、無視されてるとかではないんだけどね?
いや、まあ、うん、自分でもチョ~ット外しちゃったかな~? とは、思わなくも無いんだけどね?
「…………私と君が逮捕される……?」
おう、中々常識的で現実的な答えが返って来たね。
確かに確かに、オレちゃん達がやったことは世間一般的に見て殺人罪とか傷害罪で起訴されて当たり前の行為だったからね……普通なら。
「ぶっぶ~、は~ずれ。正解は、『一応の捜査はされるかも知れないし、オレちゃん達の元へケーサツがジジョーチョーシュに来るかも知れないけど、最終的には特に何もされない』でした~☆」
そーやって、剽軽にピースサインを突き付けながらウィンクまでかまして見せるけど、
「え……? な、なんで、そんな……」
と、疑問を声に出しつつカレーにスルー……
ハイハイ、もう止めますよっと。
「なんでも何も……だって、コレのドコにオレらを罪に問える傷がある? コレのドコが死体に見える? 良いか? まず前提として、犯罪が犯罪足り得る為には法律が定めた違反行為が確認されなきゃならねえんだ。所謂『バレなきゃ犯罪じゃねえ』ってのは、まさにこの前提を突いた法の抜け道ってヤツだな」
などと、父さんから聞き齧っただけの雑な法知識を披露してやると、女子さんは曖昧に頷いて先を促すようにお口チャック。
コチラとしても、こんな初っ端語っただけで満足したりはしないので、さっさと次を続ける。
「で、そーなると、コレがケーサツに駆け込んで『ブッ殺されたんでコイツら捕まえて下さい!』とか『コイツらにボコられたんで逮捕しちゃって下さい!』なんてほざいたトコで、『じゃあ、なんで生きてんの?』とか『どの辺がボコなの?』ってなるだけだ。つまり、ホントにオレ達がなんかやったのか確認できる傷が無いから、オレ達が罪に問われるコトも無い……ココまではOK?」
コクリと頷いてくれたので、そのまま続けていこうかなっと。
「だから、アンタが困るのはコイツに自首された時だな。さっきテキトーに当たりつけたけど、アンタ、コレに弱み握られてんだろ?」
なんて言うと、今までの困惑顔が嘘みたいにキッと睨んできやがった。う~わ、八つ当たりかよメンドくせえ……
「あ~、あ~、止せ止せ、別に詮索する気なんかねえよメンドくせえな。で、まあその弱みを選りにも選ってケーサツなんかに差し出されたら、ショーコブッケンとか言って全国規模で晒された挙句に後生大事にとっとかれちゃうワケだ。な、困るだろ?」
って水を向けると、今度は同じような目力で足元のゴミを睨みだしたよ。
お~、こわ。
「オレとしても、このゴミの犯罪告白で学校が騒がしくなんのはイヤだし、かと言ってココで放置して、そうだな――例えば『その弱みをオレが握ってた風に仕組んで、オレを脅迫犯に仕立て上げる』みたいなカンジで、後で騒ぎの渦中に巻き込まれるような事態も避けたいから、コレに好き勝手されねえようにする何かしらの対策が必要になるってワケ。で、その具体的な内容だが――」
喋りながらオレも視線を下ろすと、またもやゴミとバッチリオメメが合っちゃったゼ☆
なんか、ずっと首振ってるけどなんのジェスチャー?
分かんねえからちゃんと喋れや。
ま、声も聞きたくないからずっと黒炎発動中だけど。
「時に、オレちゃんは触れずにモノを壊したり動かしたりするこの黒炎が使えるんだが、コイツの標的設定ってのは、ネット検索みたいに条件指定した全てを対象にできるんだぜい。例えばそう――『テメエの所有物』って設定にすれば、テメエが持ってるスマホもタブレットもPCもぜーんぶ塵にしてやれるし、紙媒体だってキレイサッパリ消滅させられる。いや、もっと標的を絞って『テメエが収集した他者の弱み』って設定にすれば、クラウドデータだろうが写真だろうがテメエ自身の記憶だろうが全て消し去れる。そーすれば、今後テメエがその弱みを使うどころか思い出すコトすらできなくなるってワケだ。どうだ? 中々ステキだろ?」
って聞いてやると、なんかゴミが首振るの止めて、どっか安心したみたいに胸を撫で下ろしてやがる。
おやおやまあまあ、随分と楽観的だなあ。
まさかそれだけで済むとか思っちゃうだなんて。
ってか、ポケットから黒炎上がったの気付いてる?
別にワザワザモーション見せてやらなくても発動できるんだけど?
「ま、それだけじゃ不十分だ。なにせ一番の切り札を取り上げたってだけで、このゴミ自体は五体満足で好き放題できるワケだからな。拳でもナイフでも車でも、いつでも好きな時にお好みの凶器で襲い掛かれる。うん、メンドい。じゃあどうするか? 簡単だ。何もかもできなくしてやればいい」
言いながら照準を定めつつ、女子さんにもゴミにも見えるように右手を掲げる。
そんでもって、パチンとフィンガースナップ!
如何にもなんかしますよ~って動作に、女子さんはキョトンと、ゴミはガクブルだ。
でもって――
「――――ッッッ!??!!!」
悲鳴は当然足元から。
まあ、当たり前か。
さっきも、たかが腕の一本程度で叫んでたし。
なのに、いきなり顎から足の指先まで全身の関節と言う関節を全て砕いてやったら、そりゃ~多少は騒がしくもなるか。
「まずは関節。人に限らず生き物の身体を止めるには鉄板だな。そんで次は――」
――パチン!!
『――――ッッッ!??!!!』
「声が出ねえように声帯を削り取って、そのまま胃に流し込んでやった。んで次――」
――パチン!!
『――――ッッッ!??!!!』
「今後の医療の発展次第じゃあ、細胞単位での再生治療的なコトもできそうだからな。脳ミソの言語野を直接削った。脳ミソの再生治療なんて、如何にも難しそうで治療費も嵩みそうだからな。コレでまず喋られるコトはねえだろ。んで次――」
――パチン!!
『――――ッッッ!??!!!』
「今度は脊髄内の随意運動に関わる運動神経を上から一センチ間隔で消し飛ばした。これもまあ、再生治療対策だな。んでもって最後――」
――パチン!!
『――――ッッッ!??!!!』
「眼球と鼓膜、まあ、この辺も鉄板だよな。コレで見えず聞こえず喋れず動けずの単なる肉塊だ。あとは――」
――パチン!! ヒュン――……
「オレちゃんってサイキネ的な黒炎だけじゃなくて瞬間移動とかもできるからさ、学校から一番近い病院の入り口前に飛ばしてやった。イロイロ削りはしたが、コレでまあそうそう死なねえだろ。コレでイッチョ上がりだな。御感想は?」
パッチンパッチン鳴らしてた手をワザとらしく払いながら、そう聞いてみると、なんともまあ予想通りにポカンとした表情で唖然としちゃっておりますよ、女子さん……こりゃ、返事を待つだけ無駄かな?
そう思って、軽く鼻を鳴らしながら今までずっと黒炎で塞いでた開きっぱの出入り口に向かい、それを解除したトコで、
「……これで、終わったん、です、か……?」
なにやら『信じられない』と言わんばかりの呆然としたお声が。
とは言え、これ以上付き合う気も無いので、さっさと切り上げるとしましょうか。
「それが感想か。ならまあ、ココで起こったコトはぜ~んぶ夢だったとでも思っとけば良いんじゃね? どうせ話したって、誰も信じやしねえんだからよ」
振り返らずに言い切ってから、今度こそ出入り口を通り抜けて体育館を後にする。
ま、トータルの出費は若干赤字気味だけど、女子さんとゴミのおかげで効率の良い魔力稼ぎも思い付いたから、長い目で見ればプラスかな。
早速、その魔力稼ぎに勤しむべく、僕は女子さんに渡しっぱなしにしてた上着を転移で手元に戻しながら帰路に着きましたとさ、チャンチャン☆