105話
「――ほいっ、元通りっと。さあ、続けようか」
ボッと黒炎でウェルダンにして、いつの間にか上から下まで白髪状態になって反応も鈍くなって来たゴミをまたピッカピカの無傷にしてやりつつ、肩で息をする女子さんへそう投げ掛けると、声を出すのも億劫なのかコクリと頷き返すだけだった。
まあ、無理も無いか。
ソコで無傷なのに伸びてる真っ白丸出し野郎の腕に巻かれた時計が正しければ、かれこれもう二時間以上はヤり続けてるハズだからね。
そりゃあ、疲れるハズだ。
何せ小っちゃいとはいえダンベルを持って、一生懸命運動し続けてるんだから。
うんうん、やる気があるようで何より――だけど、なんかもー、あーもー、この魔物モドキも何度も何度も息の根止まったハズなのに、まったくさっぱりこれっぽっちも気が治まらない。
魔力ドバドバだよ、ドバドバ。
まあ、理由の心当たりはあるけどね。
こーゆー、魔物モドキに限ってGみたく『一匹見たら三十匹は居ると思え』なんてカンジの言葉が当てはまるからさー、まだ見ぬ同類共の存在を予感させられてイライラが膨れ上がってんだろうなきっと。
ホラ、あの研究所にもた~くさん居たし?
――ハァ、ハァ、ハァ……
「…………フム、もう無理か。んじゃ、終わり終わり。今日はこれで御開きな」
うん、やっぱりあんまりにも『ゼェハァ』うるさいから、僕の方から言い出しちゃったよ。
でもまあ、実際、これ以上続けたトコで変わんないでしょ?
どんだけヤッても白髪の傷も死も無かったコトになるんだから、物質的には完全に無意味だし。
だからこそ、この行動によって何を感じて、何を思い、何を得たか――そーゆー、主観的で精神的でハートにソウルでスピリチュアルな感覚こそが重要なのでせう。
「……っ、ま……まだっ、やれ――ますっ」
「いや、んなコンジョーロンはいいから、それよりどうよ? コレでもう、こんなのに怯えずに済むんじゃねえのか?」
「そ、それは……」
それは?
ん~ん?
なんで微妙に困った顔……?
…………あ、そりゃそっか。
幾ら叩きのめしても、白髪になっただけでこのゴミも無傷チャンなんだから、後で報復――なんてのは十分に考えられるか。
それこそ、二度とやり返されないようにもっと苛烈で陰湿なカンジで。
ふ~ん、へ~ん、ほ~ん……そ~だな。
そろそろ、オレちゃんも遊びたくなってきたコトだし、おゆうぐになってくれるかにゃ~あ?
な~んて思って、ヘロヘロ女子さんから外した視線をおゆうぐへくれてやると、丁度バッチリオメメが合っちゃったゼ♪
しかもなんか、まるで『やっと終わってくれりゅの~?』って期待してそうなカンジの――もう生き返さねえぞクソが。
「さっき言ったコトと矛盾するようで悪いが『悪意は折れない』――コイツはオレの持論で経験則だがな、今のトコは外れた試しがねえ。それはオレ自身もそうだし、オレが今までブチ殺してきた魔物共にも当て嵌まるコトだ」
言いながら、傷一つないクセにまともに起き上がることもできないらしいゴミの頭上へと足を運ぶ。
するとまあ、ゴミっちゃんってば面白いくらいにガタガタと震え出すもんだから、ついつい腕を踏ん付けちゃって、そのまま魔力たっぷりなストンピングがブチッと床を叩くと、
「――――ッッッ!!!!!!」
なんて、無音の悲鳴が零れる。
ま、無音なのはオレの黒炎が未だ展開中なおかげだけども。
ってか、今まで何度も死にまくったクセに、未だ腕を潰し切られた程度でピーピー喚くとかどうなん?
そんなん慣れるっしょ?
「手足を捥がれようが『殺す』と叫び、喉を抉られればありったけの憎悪で睨み付け、頭蓋を砕かれれば暗転する最期まで呪詛を残す――別にコレは特別な感情じゃない。ただ、許せねえものを前に拳を握り、気に喰わないものに唾を吐き捨てる、そんな当たり前で簡単なコトだ。なにせ、オレ程度に――どころか、あの魔物共にすらできたコトだからな」
そうそう、あの魔物共ときたら、共感性と想像力が皆無な所為で『次は自分もそうなる』ってコトに考えが及ばねえのか、目の前で同胞をブッ殺してみせても、その死体を投げ付けてやっても少しも怯まねえんだよな~。
なんて、ワラワラと向かってくる魔物共の群れ相手に削って退いて削って退いてを繰り返した魔界生活初期を思い出しつつ、またテキトーに照準と発動を繰り返して黒炎で捥げた腕を治す。
うんうん、上出来上出来♪
だ~いぶ|主観干渉を応用した事象改変《この手の使い方》が板に付いてきたね。
なんか、使えば使うほど洗練されてくって言うか、消費魔力も発動時間も使うたびに少なく短くできてるし。いや~、練習し続けた甲斐があったってモンだ。
「で、だ。その理屈で行くと、当然コレにも適用されるってワケで、となればこれから先アンタはコレに復讐される可能性があるワケだ。幾ら今さっきで精神的にも物理的にも『反撃』って選択肢を得たとしても、四六時中じゃあ不安にもなるわな~」
内心だけじゃなく実際に頷きながら女子さんの方を見遣ると、やっぱり図星だったのか不安そうな御顔が。
ああ、ああ、分かるさ、分かるとも。
こーゆー、クズでカスでゴミみたいな生きてる価値も無いような連中ってのは、標的本人だけじゃなくその周囲の人とか物とかも平気で壊そうとするからな。
そんなのに付け狙われるとか、腹立たし過ぎて今すぐ皆殺しにしてやりたくなるもんな。
「だが、この法治国家でその不安を取り除こうと思っても中々に難しい。今さっき散々ヤッたように殺しちまうのが一番後腐れねえけど、んなコトしたらブタ箱行きな可能性大だし、万一逃れても無駄に精神負荷が掛けられて不健全だ。だから、他に方法を考える必要があるワケだ」
まったく、なんでこんな無価値ニンゲンの為にそんな手間を~、とは思うケドね。
それも、その手間を掛けさせられるのが一方的な被害者だった女子さんと、根本的に無関係なオレなんだから理不尽感がパないよね。
ま、もうその方法は考え付いてるんだけどね~☆