103話
「――そ、れは…………」
っと、女子さんがなんか仰りたそうだ。
まあ、平和な現代社会に生きる一市民としてはオレちゃんの遵法精神皆無なバイオレンス過ぎる言い分に文句や反発があるんだろうね。
或いは、血みどろの汚物なんて見るのも嫌で拒否感や嫌悪感があるとかかな。
今も首横に振ってるし。
「……わたし、には、そんな――」
『そんな』?
なに?
ソコで口噤んで誤魔化そうとするなよ、メンドくせえな。
……ああ、そうか、アレか。ケガ人にトドメを刺すなんて後味のワリーマネはしたくないってワケかな?
んじゃ、照準――からの発動。
「――――ブハッ!! あ!?」
「――え!? ヒッ!!」
真っ黒い炎が汚物と床に染み広がった汚水を覆い尽してから一瞬で鎮火し、ソコから未だにケツマルダシだけど怪我は消えてる汚ッサンと血溜まりが消えて綺麗になった床が露わになる。
ハハ、女子さんのリクエストにお応えして、汚ッサンの負傷を無かったコトにしてやったんだゼ。
さて、コレで『いったんおめーを治せばよォ~~ッ、これでぜんぜん卑怯じゃねーわけだな~~~~っ』ってね。
「さあ、コレなら文句ねえだろ。やれよ。自分の手でやらねえと、いつまで経っても頭ん中にまで付き纏われ続ける羽目になるぞ」
「な、なに言っ――グベッガ!??!!!」
まな板の雑魚がジタバタしようとしてたので、肩甲骨の真ん中辺りをストンピングして昆虫の標本みたく、或いは捌かれるウナギように床の上に縫い付けてやりながら、女子さんを促してやる。
ホラホラ、早く!
さっさと踏み潰して、『スゲーッ爽やかな気分だぜ新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~~~~~~~~ッ』と洒落込もうゼ?
ってか今のセリフで思い出したけど、早その足に引っ掛けたパンツ穿けよバッチいな。
「――――で、できませんっ……!」
…………は~ぁ? できないだ~ぁ?
なに甘いコト言ってんだコイツ?
あ、もしかして、想像力が足りてないのかな?
よし、なら教えて差し上げようか。
「……もしも、の話をしようか。『もしも、ココで何もせず敵から逃げたら』だ。まあ、オレはアンタとコレの関係性を知らねえから、八割方憶測になるけど――」
「――グッ、ギ、お、オイ!! 足を退けろッ!! 教師にこんなことしてただで済モガブッ!?」
うるさい邪魔だ魔物モドキ――そんなふうに罵る手間をこんなのに掛けたくないし、掛けたトコで大人しく黙って貰えるとも思えなかったので、ストンピングを背中から後頭部に変更。
するとまあ、鼻が潰れたのか舌でも噛んだのか、またもや床に血が飛び散っちゃった。
うへ~バッチィ……って、おい、女子さんや。そんなに引くコト無いでしょが。
「――そうだな……まず、オレはアンタとコレがうるさくて文句を言いに来ただけの部外者だから、この場を離れればもう関わる気も無い。でもって、ご覧の通りに自衛手段も持ってる。だから、教師として生徒の個人情報を知り放題なコレが、住所調べて家に忍び込んで来ても返り討ちにできるし、もっと間接的な手段に出ても簡単に覆せる。だが、アンタはどうだ?」
グリグリと手慰みに――足慰み? 踏み慰み? ま、なんでも良いか――踏み躙りながら女子さんの方を見やると、なんか口元に手をやって視線を逸らしてらっしゃる。
うん、どう見ても大丈夫じゃなさそーだ。
こんな状況で、まだ加害者に情が湧くほど余裕があるだなんて。
御自分のピンチが理解できてんだろーか?
「こんな下半身に脳があるようなのとアンタみたいな非力な女子が人気の無い密室で二人きりなんて、何かしらの強制力のある理由が必要だよな。体育の赤点回避とか部活の大会出場枠とかでも盾に取られたか、或いは別で何かしらの弱みでも握られてるのか……ま、要は脅されてるってワケだ。違うか?」
ほぼ確信しながらそう投げつけてやると、女子さんはまるで『なんで知ってるの!?』とでも言いたそうな目でコッチに振り向いてきた。
うんうん、汚物がアウトオブ眼中なようだし、漸く危機感が湧いてきたみたいだ。
遅いよまったく。
ちなみに、赤点枠の授業が体育だったのは、足元の汚物がジャージ姿なトコから体育教師だろうとアタリを付けての発言です。
知ってたワケじゃないよ?
第一、教師の顔とか覚えてねーし。
もしかしたら、実はコレって校内に侵入した不審者ってセンも――ま、どーでも良いケド。
「で、そんな状況でオレがこの場を離れたとしたら、だ。当然オレは自衛の為に『この場に居た痕跡』ってヤツをコレの怪我含めて全て消してから立ち去るワケだが、そうなったらアンタはどうなるのかね? オレが隠滅作業してるウチに逃げ出したとして、またすぐ同じような目に遭うのは目に見えてるんじゃないか? でもって、この下半身脳だって今度こそは邪魔が入らないような環境を作るだけの悪知恵は働かせるだろうから、今回みたいなラッキーは望み薄ってな」
ココまでハッキリ言ってやって、やっと具体的に想像できたらしい女子さんが顔面蒼白になってる。
ま、怖いのは分かるけどさ。
オレも、初めて魔物と対峙した時は、兄さんが傍に居たってのに、無様にパニクっちまっもんだし。
「で、そうなった場合だ。どうせこの魔物モドキのコトだから、画像なり動画なりを撮って強請りネタを増やすだろうな。しかも、ソレはアンタだけに効くネタじゃないぞ。アンタのコトを大切に思ってる人達にとっても致命的な脅迫材料になる」
ゾッと、女子さんの空気が凍り付いた。
きっと、言われて初めて思い至ったんだろうね。
そんでもって、コレが飛躍だとか妄想だとかだなんて言って逃避できるコトでもないと無意識的にでも納得できたのか、微かに女子さんに纏わり付いていた弱気が薄らいだような気がする。
そりゃね、こんな魔物モドキに自分だけでなく大事な人達までもが脅かされるとか、僕じゃなくても我慢できないだろうさ。