魔王たまご期①勇者はのろわれたかもしれない
とりあえず、とんでもないことになったが、たまごの状態で放置しておけば問題ないだろう。
・・・と思っていたのが甘かった。
このたまご、飛び跳ねながら俺についてくるのだ。
どういう構造かわからないが、とにかくどんなに速く走ろうと、たまごのくせにバネのようにきれいに弾んでついてくる。
ためしに魔法で魔王城に出てみたが、振り向くとやっぱりたまごがある。
「何かのホラーかよ・・・」
どうやら意地でもついてくるようになっているらしい。
そして、かわいそうだがたまごを割ろうと攻撃したのだが、打撃は防御魔法にははじかれて、簡単な魔法攻撃とはいえ、そっちは吸収されてしまい、壊すことができなかった。
壊すこともできない、捨てることもできない。
もはや呪いのアイテム状態である。
こうなったらもう、このまま連れていって誰かに呪いの解除をしてもらうしかないかもしれない。
とりあえず、王都へ帰還しよう。
▼勇者クロウは帰還の魔法を唱えた。
視界はゆがみ、王都城下町前の入口の門前にたどり着いた。
門番は最初警戒をしたようだが、俺の姿を見るとすぐに槍を垂直に立てて、敬礼をした。
「勇者クロウ殿、無事のご帰還何よりです」
「魔王を倒したので王に報告を行いたい。そして、ちょっと相談事があるので、王宮魔道士にも会いたいと伝えてくれ」
「わかりました。只今伝令を飛ばします」
門番の一人が走って物見塔へ行き、伝令の魔法鳩を飛ばした。
魔法鳩は王宮魔道士の魔法で調教された使い魔だ。人の言葉を理解して迅速に城まで情報を届けてくれる便利な鳥だ。
今伝令を持って行ったので、返事が返ってくる間少々時間があるだろう。
鳩は迅速でも、人間には何かと準備がかかるものだ。
「体を清めに、拠点に一旦戻る。伝令への返事がありしだい伝えに来てくれ」
そして俺自身も汚れた旅の格好のまま城に上がるわけにはいかないので、一旦拠点にしている家に戻ることにした。
拠点は城下町の中心部より少し外れた場所にある2階建ての広い庭付きの家だ。
一人にしてはずいぶんと広い家なのには理由がある。
ここには俺以外にも住人がいるからだ。
玄関のドアベルを鳴らして俺は家の中に入った。
吹き抜けになっている玄関ホールの階段から声が下りてくる。
「よぉ、おかえりクロウ。大丈夫か、怪我はないか?」
赤茶けた髪に青い瞳の痩せ型の男、こいつはシーフのカイトだ。
「お前とは違うから大丈夫だ」
カイトは「ちげーねぇ」と笑う。カイトはついこないだ巧妙に仕掛けられたトラップに気づかずにうっかりと落とし穴にはまりかけて、回避したはいいが、その際に足をくじき、怪我のため戦線を離脱していた。
「リトは元気か?」
「ええ、元気よ」
カイトに聞いたつもりだったが、奥から別な声が聞こえてきた。
ひょっこりと顔を出したのは金髪に緑の瞳の小柄な女性、彼女はクレリックのリト。
リトの腕の中にはおくるみにくるまれたまだ産まれて間もない赤子が抱かれていた。
彼女の戦線離脱の理由はこのカイトとの間に産まれた子供のためである。
そう、俺はもともと3人パーティーだったのだが、リトが妊娠出産のため離れて、暫くカイトと二人で頑張っていたのだが、カイトも怪我をしたため、俺のソロ活動となったわけだ。
そして、結局魔王城にも一人乗り込むことになったとうなんともいえない状況だったわけだ。
まぁ、しょうがない。
恋路を邪魔するヤツは・・・なんとやらというし、実質前衛は俺一人だったわけだから、アイテムを積み込めるだけ積み込んでいけば、短期決戦でなんとかなったしな。