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僕の中にあなたはいますか  作者:
《1》僕のサイノウ
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009.シュトゥルム・ウント・トラック




009


 翌日――転居三日目の朝は快晴だった。

 叔母さんによっててんこ盛りの食事を「入学式なんだから、パワー付けないとね!」とガッツポーズと共に無理やり詰め込まれて気分が悪くなってきた。入学式にパワーなんて要らないだろうに。

 鏡の付いた洋服かけの前で、ここに来る前に揃えておいた詰襟の学生服に袖を通す。学校からの制服に関する指定は無かった。詰襟、ブレザー、セーラーなど《制服》として一般に認められているものならばその形式は問わない、ということだったので、中学校のときの制服を寸法調整してまた着ることになってしまった。

 去年から使っているスニーカーの紐を結んで玄関を出ると、外で伸が準備運動をしながら僕のことを待っていた。

 因みに彼女の制服は、襟の部分に二本のラインがはいった半袖のワイシャツに、紺色で短めのスカートというような感じだった。爽やかな笑顔と相まって、可愛い。


「遅いよ、ゲンちゃん。もう八時過ぎてるよ! 遅刻しちゃうよ!」


 はい、と僕の胸に彼女の学生鞄が押し付けられる。どうやら運べということらしかった。やれやれと受け取って玄関脇に用意されていた自転車の前かごに僕の荷物とまとめて放り込み、昨晩プレゼントされたヘルメットを装着する。

 似合ってるじゃん、と笑う彼女には悪いが、ヘルメットというものは結構恥ずかしい。学校生活に慣れたら徐々にフェードアウトしてもらうとしよう。

 男ものだと見受けられる自転車は、叔母さん曰く「元夫が昔、フクの奴のために買っておいたんだけどね、あいつは乗れって言わないと乗らないし、使っちゃっていいよ」とのことだった。

 自転車に跨ると、伸が僕の隣に並んだ。そういえば彼女はどうやって登校するのだろうか。


「あたし? あたしは徒歩だよ」


 膝をグッグッと伸ばしながら――《屈伸運動》をしながら、伸は言った。あまりに清々しく言われてしまったので流しかけたが、徒歩? 学校までは、遠くはないが近くもない――徒歩四十分ほどだと聞いていたが、間に合うのだろうか。


「徒歩っていうか、徒走かな」


 言って彼女はクラウチングスタートのように両腕をコンクリートにつき、腰を高く上げる。咄嗟に目を逸らしたが、どうやらスカートの中にはもう一枚、スパッツが見え隠れしていたので、見られても問題ないようだった。

 しかし、徒歩――徒走、だったか、だとしても間に合うのだろうか。自転車は一台しかないが、荷台があるし、二人乗りで……いや、でも初日から二人乗りで登校というのはいかがなものか。


「じゃ、ゲンちゃん。鞄、お願いね!」


 その言葉が僕の耳元に届いた瞬間に、そこにはもう、彼女の姿はなかった。

 瞬間移動でもしたのかと一瞬目を疑ったが、道の先に目をやると、数十メートル先を走るその姿が確認できた。肉体に加速装置でも搭載しているらしい。……《陸上以外に能が無い》なんて言ってはいたが、陸上の能が有り過ぎる。

 ――《あれ》とぶつかりでもしたら、主人公の男の子は全治数か月の入院ものだろう。

 彼女が転校しないことを祈るばかりだった。




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