008.入学前夜のプレゼント
008
部屋で寝転がって伏郎さんのことについて考えていたら、もう日も暮れる時間帯になっていた。
なんて言うと、誤解を招いてしまうかもしれないが。なにもずっと僕と伏郎さんとの合致点について、平行世界を頭の中に浮かべて、まるで想い人のことのように恋々と考えていたなんていうわけではない。
半分は夢うつつで――いや、ほとんど寝ていた。午前中の掃除で疲れてしまったのだろうか。昨日といい今日といい、僕はどうも慢性的な睡眠不足らしい。きっとそれは体力不足といって差し支えないだろうけれど。
直接床で寝てしまっていたからか軋む体の節々をググッと伸ばし、部屋に大の字を作り上げる。――午前にもこんなことをしたような気がする。
微睡む既視感の中で天井を何の気なしに見つめていると、一階からインターホンとともに「たっだいまー!疲れたー!」という元気な声が響いてくる。友達とのショッピングは相当楽しかったようで、治まりきらず、収まりきらないテンションが家に帰ってきても溢れ続けているようだった。そのまま溢れ出るテンションはドタドタと階段をかき鳴らし、とうとう僕の部屋の前にまで到達する。最終ダムが決壊し、伸が僕の部屋へと流れ込んできた。
「ただいまーっ、ゲンちゃん! ――ってあれ?寝てるの?」
寝てない寝てない、とゆっくり体を起こすと、なら良かったと満面の笑みをたたえた彼女は持っていたビニール袋をどさりと床に置き、中からいくつか、何やら取り出す。
「じゃーん!」
可愛いでしょ、とでも言いたげに彼女が取り出したのは、少し大きめのクッションだった。真ん中に熊の刺繍が施されている。もう高校生だというのにどうかとも思ったが、まぁ女子の部屋に置くのであれば良いかな、と思い直す。
「何言ってるの、ゲンちゃん。これはここに置く用だよっ」
彼女はバスケのチェストパスのように、上半身だけを起こす僕にそのクッションを投げつけてくる。ここに置くって、まさかこんな可愛らしいクッションを僕にプレゼントということだろうか。
「そう! ゲンちゃんにプレゼント! 大事に使ってねー!」
頼まれてもいないのに勝手に買ってきた物を押し付けて、彼女は楽しそうだ。再びビニール袋をあさりだした彼女には、まだ隠された武器があるようだった。次は何を投げつけてくる気だ?
もったい付けて彼女が次に取り出したのは、赤黒く、丸みを帯びた、十分な破壊力を持っていそうな――ヘルメットだった――ヘルメット?
「そう、ヘルメット! ゲンちゃん持ってきてないでしょ ?うちから高校までってそんなに近くないからさ、やっぱ自転車にはヘルメットでしょ! ちなみに自転車は玄関の前に出しておいたからね!」
ビッと楽しそうに親指を突き出す彼女を見てしまっては、このヘルメットは着けざるを得ないようだった。




