040.幕間
040
その部屋は、少し前まで物置として使われていた部屋だった。
今は一人の少年が使っている。
外開きのドアを開けると、まず目に入ってくるのは洋服掛けだ。縦長の鏡がつけられているが、どうやら割れている。ガムテープでグルグルと補強がなされていた。
その洋服掛けの下には、熊の刺繍が施されたクッションがしまいこまれている。屈 伸が買ってきたそれは、男子高校生が使うにはどうやら少し抵抗があるようだった。
次に目に入るのは机と、その脇の小さな本棚。机の脇には中ぐらいの大きさのリュックサックがかけられている。通学に使うもののようだった。本棚には教科書と、最近はやりのマンガが数冊。小説は《こころ》や《羅生門》が置いてある――が、その様子を見る限り全く読んでいないようだ。学校の授業で使用する予定なのだろうか。
学校から帰ってきてすぐなのか、机の上はキレイなものだった。
机のすぐそばに、一人の煌びやかな女性が立っているように見える。
その煌びやかな女性は――屈 折姫は目の前に座る少年に、「きみはきみでいていいんだ」と言葉をかける。
目の前の少年は――鏡 現は、「ありがとう……ございます」と、ボロボロと涙をこぼしながら礼を言った。
そしてそのすぐ隣に座る少女は、二人の会話に向かって構えていた電話を耳元に戻し、その向こうの相手と話を始める。
「七枚目、聞こえていましたか? 今のが概要です。大体は想像通りですか……問題はありませんね」
少女は話す。あくまで普通に――その場にいいる誰の耳にも届くくらいの声で、話し続ける。
けれどもしかし、その場にいる誰も、少女の声には気づかない。
「はい、はい。……はぁ、《試してみたいこと》ですか? 五枚目についてはそのあとで……? はい。わかりました。とりあえず今日のところは家に戻ります」
少女は通話を切ると立ち上がり、鏡 現と屈 折姫の間を抜けて、そのまままっすぐ部屋を出た。
誰もそれには気付けない。




