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僕の中にあなたはいますか  作者:
《1》僕のサイノウ
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004.ゴミ出しと投げ出し




004


 夕飯を食べ終えて、食器洗いを手伝おうとしたのだが、「いいよいいよ! 今日来たばっかりで疲れてるだろう? 入学式ももうすぐなんだから、部屋の片づけでもしてたらどうだい。」と気風の良い感じに断られてしまったので、先刻の約束の通り、僕は伸と共にゴミ出しに行くこととなった。

 玄関の扉を開けると、夜になって流石に冷えてきた空気が頬を撫でる。もう一枚くらい羽織ってこようかと思ったけれど、ゴミ出しくらいに一々厚着をするのもどうかと思ったので、そのまま両手にゴミ袋を持って家を出た。


 * * * * *


 ゲンちゃんはさ、と前を歩く伸が振り向きざまに声をかけてくる。


「高校では部活、どこに入るつもりなの?」


 大方陸上部に入るであろう彼女は、そんなことを言った。

 中学時代の僕は、部活動には所属していなかった。運動は別に嫌いじゃなかったけれど、中学二年生になって、クラスの鈴木だか山田だかが部活なんざバックれようぜと言ってきたからだ。

 因みに一年生の頃にはタイミングを逃してしまって、帰宅部で通していた。

 だからここで彼女が陸上部に入ろうよと言ってくればきっと僕は陸上部に入るだろうし、高校に入ったら一緒にセパタクロー部に入らない? 強豪校なんだよ。と言ってくればきっとセパタクロー部に入るだろうと思う。

 そこがどんな厳しい強豪校であろうとも、だ。


「あたしはさ、陸上部に入ろうと思ってるんだ」


 知ってるよ。部屋に飾ってあったよね、ユニフォーム。なんて言おうものならまた怒られてしまうことだろう。勝手に部屋の中見ないでって言ったのに! とかなんとか。


「陸上しか、能がなくってさ、あたし」


 そう言って彼女は後ろ手に組んで空を見上げる。夜空だ。人々の手によって摘み取られた星はなりを潜め、月だけが煌々と世界を照らしている。

 ふと、夕食の時から気になっていたことを聞いてみることにした。《フク兄》と《ヒメ姉》が不在であることについては言及していたけれど、彼女の父親――僕のおじさんにあたる人物がいなかったことについてはなにもなかったからだ。


「え? パパ? ……あーっ、ゲンちゃん、聞いてなかったんだ。伯母さんもそれくらい言っておいてくれればいいのに」と、母さんに対して口を尖らせながら彼女は続けた。




「パパは家を出て行っちゃったの。随分前にね。

「あ、いや、悪い人じゃなかったんだよ?パパが浮気してー、とかそういうことじゃないの。

「……なんていうか、付いていけなくなっちゃったって感じなのかな。

(つい)ていけなくなった。

「あたしのことをどう思っていたかはもうわからないけど、フク兄とヒメ姉のことは、多分嫌いだった――嫌い、じゃあないのかな。やっぱり、付いていけなくなった、が正しいんだよね、きっと。

「パパは良くも悪くも《普通の人》だったから――真面目に仕事をして、結婚して、優しい息子と可愛らしい娘に囲まれた、慎ましやかな生活をおくりたかったんだと思う。

「だから、普通じゃないフク兄とヒメ姉を見て、それを矯正しようともしないママにも、付いていけなくなっちゃったんだよ。

「ママは良くも悪くも放任主義な人だからね。無理して付いていこうなんて気負わなかった――それが、ママとパパとの違い、なのかな。




 付いていけなくなった――とは、どういうことだろうか。と、続くかと思っていた話の終わりに気付いて考えを巡らせる。出て行ってしまった父親のことについて聞いてしまって悪いという気持ちもあったが、もっと詳しく聞きたいという気持ちも少なからずあった。

 それは同時に、まだ会ってもいない《フク兄》と《ヒメ姉》への関心でもある。怖いもの見たさというのか――何が伸の父親にそこまでさせたのか、何が彼を付いていけなくさせたのか。

 着いたよ、という声に僕は顔を上げる。思っていたよりも深く考え込んでしまっていたようで、気付けば僕はもう家の前に立っていた。両手に持っていたはずのゴミ袋は、すでに捨て終えられていた。


「ね? 近かったでしょ? 月曜日があたしの担当だから、ゲンちゃんは水曜日にお願いできるかな。フク兄がやってくれることもあるんだけど、滅多に帰って来ないからさ。ちなみに今日みたいに土日に出す場合は順番で交代交代ね」


 言うと彼女は玄関の扉を開けてただいまー、と言いながら家の中に入って行った。

 …………。聞きたいこともまだまだあったし、その点については残念だったけれど、今、僕はもっと困っていることがある――ゴミ捨て場までの道、覚えてないや。




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