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僕の中にあなたはいますか  作者:
《1》僕のサイノウ
27/59

027.どくはく




027


 鏡現は鏡家の長男だ。

 彼には自分というものがなく、自分という者がいない。

 いつも状況に流されて、自分を蔑ろにしてしまっている。そしてそんな状況にすら、流されてしまっている。

 それはただの――普通のことのはずだった。誰だって傷つきたくないし、誰だって自分より大事なものなんてない。人それぞれ、守り方が違うだけで、守る対象はいつだって自分なのだ。


 例えば屈家長男――屈伏郎は自分を消した。選択を拒絶することで、己の力で未来を切り開くことを放棄した。言うなれば、自分を自分で殺してしまうことで、他者に殺されることから守った。彼の自我はもう二度と日の目を見ない。彼の差異能は、そういう風にできてしまっている。


 例えば屈家長女――屈折姫は自分から目を背けた。酷く不格好な自分を見ることを拒絶し、世界でさえ、まともに見ることを止めた。他者が見る彼女は彼女ではなく、彼女の見る他者は他者ではない。


 例えば――だから、鏡家の長男である鏡現にしたって、それらの一例でしかないのだ。

 各々思うところあれど、一括りにして、まとめ上げられる。彼の場合はそれすらも危ういのだが。


 鏡家長男――鏡現は自分を写した。自分に写した。自分を守るため、傷つかないために、他者を自分に写し取った。他者が見る彼は彼という一個人ではなく、他者自身である。

 そういう差異能が、育まれてしまった。

 その差異能は誰に頼まれることもなく、《自分》を救う一心で――彼に根深く巣食っていた差異能は、いつしか自分というものさえ、《自分》の一部分として取り込み、差異能そのものと融合させて、消し去った。

 他者を写すのに、自分なんていらない。

 そのあとには《自分》だけが残る。

 形而上の、形骸化した、虚ろな、無為な、不確かな、不安定な、概念の様な、観念的な、《自分》だけが。

 《彼》だけが。

 《彼》はふと考えた。

 いや、考えるまでもなく、写し続けていく中で自然とそれは生まれてきた。湧いて出てきた。

 自分というものが、《自分》の中にはいない。

 そういう、自己の不存在に気付いてしまった。

 

 例えばそれが、屈伏郎のような差異能だったならば、話は違っていたのだろう。自分を消し続けることに躍起になる差異能だとするならば。

 

 でも違った。

 鏡現の差異能は――《彼》は、他者を写し取る差異能だった。

 だから写し取った。

 感じとる部分を。

 内側の部分を。

 昔あった、自分と呼ばれるような部分を、《自分》で作り直した。写し直した。

 誰もを写し取って、《彼》の中に生まれたのが――写し出されたのが、彼だった。




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