表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の中にあなたはいますか  作者:
《1》僕のサイノウ
13/59

013.脳筋類




013


「鏡君どうせ暇っしょ?帰りにどっか寄っていこうぜ」


 千さんの椅子から立ち上がると、手首をクイと傾けて、風下は僕に呼びかける。なかなかに失礼な物言いだった。間違ってはいないけれど。

 教室の中で独り寂しそうに――なっていたかは知らないが、座っていた僕を憐れんで声をかけたというわけでは、ないのだろう。声をかけてやった、という恩をわかりやすい形で被せているだけだ。中学の時の鈴木だか佐藤だかも大体はそんな感じだった。不良というのは得てして、そういうもので――面倒見の良い兄貴みたいな不良は、不良じゃないと言ってもいいくらいだ。

 とはいえ、無理に断って気を悪くされてもなんなので彼の後に続く。

 ゲーセンでも行こうぜ、ゲーセンー、と鞄を振り回す彼の後に続く形で校舎を出る。まだ十二時半くらいなので太陽は真上から僕達を照らしつけている。

 この学校の生徒は多くが自転車通学のようで――それは風下も例外ではないようで示し合わせる必要もなく、僕達は流れるように駐輪場へと向かう。その相貌から、彼はバイクで通学でもしているんじゃないのかと少し思っていたのだが、そこまで攻めるつもりはないらしい。

 《本館》を過ぎ、校庭で部活動を行う二、三年生を横目で流し見ていると、僕たちの真後ろに一本の影が差す。百八十㎝はあるのではないかという身長の、針金の様な男が僕たちの後ろにピタリと付いてきていた。着る制服は風下と同じようにワイシャツ。こっちはカーディガンを着ているということはないけれど、チラリと見ただけでもサイズがあっていないことが分かる。試着もせずに買ったのだろうか。

 目が合ったような気がして、前を歩く風下の方に向き直る。彼は後ろの男なんて気にも留めていないようだった。後ろの男どころか、誘った僕のことまで忘れているんじゃないかというような振る舞いで、相も変わらず駐輪場へゆるゆると進む足を緩めない。

 もしかすると後ろの男に気付いていないのか。

 考え直してみれば、大した状況じゃないのかもしれない。だって、そう、僕たちの後ろについてくる彼も、同じように駐輪場に向かっているだけなのかも――どころか、普通に考えたらそうだろう。

 僕は何を神経質になっているのやら。千さんの件があって、どんなことにも異様で異常な気持ち悪さが付きまとってしまうとでも勘違いしていたのだろうか。

 

 * * * * *


 駐輪場に着いても、後ろの男は付いてきていた。いや、彼も自転車を取りに来ているんだろうという予想通りならそれだって不自然なことでは全然ないのだけれど。

 しかし彼は不自然だった。

 僕は僕の自転車を、風下は自身の自転車を取りに行くという段になって、風下の真後ろに付いて行って、自転車も持たずに帰ってきた男は、やはり明らかに不自然だった。

 そんな不自然の中、「えー鏡君ヘルメット被るんだ、かわいー」と茶化してくる風下に対して僕が自然に対応できるわけもない。僕の誤魔化し切れていない目線が通じたのか、風下が気付いたように自らの後ろに立つ男を指して言う。


「あぁ、言ってなかったっけ。こいつ、ノーっての」


 続けて彼は《ノー》に鍵を渡して、「先帰っといて」と告げる。

 《ノー》?

 能、脳、濃、と僕の頭を《ノー》が駆け回る。風下の兄弟かなにかだろうか。

 そんな少しの混乱の間に《ノー》は僕の元へと歩いてくる。

 何事かと思ったが、どうやら彼は徒歩で帰るようだった。伸みたいに俊足な風には見えなかったが、もしかしたら風下の家は学校から近いのかもしれない。近くはなくとも、遠くはないのかもしれない。


 軽く肩を引いて道を開けると、彼はそのまま僕にぶつかってきた。


 っえ。


 突然の事で、軽く思考が停止する。

 咄嗟に彼の方を見ると、さも不思議そうにキョロキョロと辺りを見回していた。

 まるで、見えない何か(・・・・・・)にぶつかったかのように。

 一瞬彼と目が合った気がしたが――さっき校庭でも合わせたはずのその目は、僕を捉えてすらいないようだった。明後日の方角を見るようなその目の焦点機能は、僕に対して全く用をなしていない。

 憂いなど微塵もないその目は――ただ真実味を帯びたその目には、本当に僕のことが見えていないようだった。

 何が起こったのかわからずに茫然としていると、彼は何事もなかったかのように佇まいを直して駐輪場を後にした。


「あぁ? ノーの野郎、どうしたんだ一体……」


 頭をポリポリと掻きながら、自転車を押して来た風下が僕に視線を向け、「大丈夫か?」と聞いてくる。

 少しぶつかっただけで別に転んだりしたわけじゃないので、怪我をするようなことはなかったが、また――隣に座る千さんに気付けなかったときと同じように、微かな違和感が僕の中に燻る。

 実際はちょっとぶつかっただけだというのに、だ。


「悪ぃな、後でよく言っとくからよ」


 そう言って自転車に跨った彼に続くようにして、僕達は学校を後にした。


 * * * * *


 彼の先導で自転車を走らせる。ゲーセンなんて正直あまり気乗りしなかったが、僕はここらに来たばかりだし、この辺りに何があるのかを知る良い機会なのかもしれなかった。

 そういえば、《ノー》というのは、どういう意味の名前なのだろうか。本名というわけでもないだろうが。


「ノーってのは《筋無し脳筋》の略だよ。あいつ一人じゃなんもできないからな」


 それって、ただの馬鹿ってことじゃないのか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ