011.偶然の一風景
011
「別のクラスだなんて、残念だなーっ」
僕の代わりに我先にと押し合いへし合いを繰り広げてくれた伸と共に、校舎の階段を昇る。
* * * * *
僕達新入生が使うことになる校舎は、校門を入って真っ直ぐ――狭い敷地になんとか校庭を確保しようとしたのだろう、狭苦しく団地の様に並列に三つ建てられた校舎の内の中間に位置する《第二館》である。
校門から入って真正面に見えるのが《本館》。応接室、校長室、放送室、そして三年生と二年生の一部が教室を構える。その奥に見えるのが――といっても、真正面からでは《本館》に被ってしまって実際にはほとんど見ることが敵わないのが《第二館》。二年生の一部と一年生が教室を構える。そしてさらにその奥に位置するのが《副館》。化学室をはじめとした理科系の実験教室や音楽室、書道室などの特別教室が内含される。それぞれの館の間に申し訳程度の芝生などが植え付けられていたが、館と館とが近すぎてほとんど日が当たらないせいか、整備してもすぐに枯れてしまうらしい。
と、ここまでは昨晩、買い物から帰ってきた伸から聞いたことである。伏郎さんだけではなく《ヒメ姉》も通っていたという学校だ。授業参観やらで来たことがあるのだろう。
というか、《ヒメ姉》は一体いくつなのだろうか。
「あ、あたしはこっちだ。またね、ゲンちゃーん」
階段を昇り終え元気よく走り出した伸にヒラヒラと手を振り、その反対方向へと歩を進める。
二階には一年生のA、B、C、D組があり、校舎中央の階段を挟んでA、B組、C、D組という風に区切られていた。A組の彼女は左側へ、C組の僕は右側へと別れることになる。
彼女と同じクラスになりたかったわけでは決してないが、しかし実際に彼女と違うクラスになると少し残念な――というか心細い気分になる。顔見知りがいない場所というのは、中学校の入学式以来、三年ぶりだ――友達だろうとそうじゃなかろうと、顔見知りがいるのといないのでは結構大きな差があるものだ。心細い、と思うだけで、実際のところどうでもいいことではあるのだが――悲しんだところでどうにかなることではない。
ガラガラと教室後方の扉を開けて中に入ると、決して遅いことはないはずだが、大半の生徒はもうすでに教室に集まっているようだった。
当然のように――というかそのために後ろ側の扉から入ったまであるのだが、僕に目を向ける生徒はほとんどいない。皆向けるのは背ばかりだ。
教室の扉に張り出されていた席順を頭に思い浮かべて、自分の席へと座る。左から二列目、一番後ろの席。
鞄を置いて一息つくと、教室の全容が見えてくる。一年C組の教室は、生徒同士で会話している者が教室の大半を占めていた――というのはやはり入学式で感じたように、この地域の小学校中学校で時間を共にしたグループがすでに出来上がってしまっているようだった。それに不安を抱いたように前の方の席でおどおどしながら周りを見回す生徒も何人かいるが、僕はそんなことはしない。格好悪いからってわけじゃ――ないじゃないんだけれど、なるようになると思っているからだ。
ならないようになるわけもない。
ガラリと、教室後方の――ここからしたら真横に位置する扉が開けられる音。また誰かが入ってきたのだろう。未だに空いている机の数は三、四個といったところか。なるようになるとはいえ、せめて最低限のこと――クラスメイトの名前と顔とがそれなりに一致するようにはするべきだろうと、その予習にでもと僕は扉の方へと顔を向けようとして。
向けた。
バッと、無意識に顔を戻してしまった。最初から扉の方なんて向こうとも思っていませんとでも主張するかのように、それはもうあからさまに。今教室に入ってきた生徒の顔なんか全く見えなかった。もう一度やり直したいくらいと思うくらいの失態だった。そしてそんな不審な行動をした自分を恥じているのか、体が火照ってくる。
隣に、座っていた。
入学式のときと同じように、同じ彼女が、同じ本を読んで、座っていた。




