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偏ったお兄ちゃんは、妹の蒙を啓けるか

登場人物

お兄ちゃん:二十五歳、実家暮らし、彼女(幼馴染)アリ 微妙に偏ったものの見方をする癖がある

妹:十四歳 彼氏無し お兄ちゃんの彼女とはとても仲良し お兄ちゃんの弱みなどに関する情報は瞬時に並列化が行われる 意外と末恐ろしい妹


 お兄ちゃん、お兄ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……



 なんだい、妹よ? 可愛い妹の疑問とあらば、俺がたちどころに答えてあげよう。

 ……ま、知っていることなら、だけどね。



 今日、学校でね。模擬選挙っていうのをやってみたんだ。



 模擬選挙? そりゃまたなんて無意味なことを……



 えっと……、なんで無意味って言い切れるの?



 選挙のやり方なんて殊更予行演習なんてしなくても、その場に行けば簡単に分かることだからね。模擬選挙なんぞやるくらいなら、選挙会場への道順を確認する方がよっぽど有意義ってもんだよ。

 それにしても高三なら分からなくもないが、中二で模擬選挙をやるなんて珍しいね。



 あ、それはね、高等部で模擬選挙をやるためにあれこれ準備をしたから、せっかくだし中等部でも利用させてもらおうってことになったみたい。



 なるほど、学校側が準備にかけた時間を勿体ないって思ったんだろうね。これで今の中等部の生徒が全員卒業するまで、やる必要はなくなったね。

 おっと話が逸れた。それで妹よ、聞きたいことっているのは何だい?



 あ、そうそう。お兄ちゃんは、ちゃんと選挙に行ってるんだよね?



 そりゃ勿論さ。今まで一回たりともサボったことはないよ。



 だよね、さすがはお兄ちゃん! それでね……考えてみると、ボクも四年後には選挙に行くんだなーって思って……



 ハッハッハ、何を言ってるのかね妹よ。「妹」とはすべからく十四歳で成長が止まる生き物なのだよ。故に、永遠に十八歳になることなどないのさ!

 なぜならば、少女が少女として最も美しくあるのは十四歳だからだよ。かのナボコフ氏が提唱した「ニンフェット」というのは、俺的定義では子供と少女の端境期であり、それはそれで美しいものだが、「少女」としての美しさとはまた別物であるという結論に……



 ……お兄ちゃん。お兄ちゃんのことは大好きだし、いろんなことを知ってて凄いなって、尊敬もしてるけど……。そういうところ、ちょっとキモいなって思うよ?



 カハッ……(喀血) 妹よ、なかなか強烈なツッコミだね。

あ、でも俺にならともかく、他人には「キモい」なんて言葉を使ってはいけないよ。



 うん、大丈夫。ちゃんと学校では猫被ってるから。……も~、話が進まないよ、お兄ちゃん。



 おっと、すまない妹よ。選挙の話だったね?



 うん。なんかボクには政治って全然ピンと来なくて……

 選挙って、あの板にたくさん貼ってある立候補者から選んで投票するんだよね? あんなに沢山の人達からどう選んだらいいのかなーって、思ったんだけど……



 ほほー、政治に興味を持って来たんだね。それは重畳。



 これって、興味を持ったことになるのかな?



 なるさ。本当に政治に無関心な人は、そんな疑問すら抱かないだろうからね。

 ……ただ、その疑問はなかなか深いものだから、一言で答えるのは難しいね。



 そんなに難しい疑問なの?



 まあ、これは極端な例だけど、選挙ポスターの顔で投票する人を選んでしまうような人もいるからね。……そういう選び方はどう思うかね? 妹よ。



 えーっと、流石に顔で選ぶのはどうかなぁ……。不真面目な感じがしない?



 なるほど。……でも人柄は顔に出るともいうし、上辺だけの美辞麗句や、ひたすら「お願いします」を連呼するだけの選挙活動なら、そんなモノは無視してむしろ顔で選んでしまう方がいいかもしれないよ?



 お兄ちゃん、本気で言ってる?



 俺が思っているわけじゃないよ。かなーりコジツケ臭いけど、そういう理由づけも出来なくはないってことさ。

 実際問題、不真面目という話をするなら、「選挙に行っても何も変わりゃしない」なんて無関心を気取って選挙に行かない方がよっぽど不真面目だからね。



 うーん、ボクにはどっちもどっちな気がするような……



 いやいや、これは雲泥の差があることなんだよ。

 そうだね……じゃあ妹よ、そもそも選挙とはいったい何をするものなのか、分かるかい?



 え!? えっとそれは、政治家を選ぶこと……、じゃないの?



 残念。それでは及第点はあげられないね。

 代議制民主主義に於いての選挙というのは、有権者が自分の政治的な意思を表明する機会なんだ。政治家なんていうから、政治を生業なりわいとする職業のように聞こえるけど、彼らないし彼女らは民意の代弁者に過ぎない。だから代議員と呼ばれるんだよ。



 でもお兄ちゃん。やることは、その議員を選ぶための投票でしょ? 意思を表明するって言っても……



 その疑問も分かるけどね。まあ、人数が三桁程度の小さな集団ならともかく、国政で民意の一つ一つを取り上げていては、とても議論になんてならないからね。

 だから選挙っていうのは、立候補者の主張を吟味して、自分の政治的主張に最も近い人に投票することが重要なんだ。



 そっかー。お兄ちゃんはいつもそうやって選んでるんだ。やっぱり、お兄ちゃんは凄いね!



 もちろんだとも! ……と言いたいところだけど、残念ながら候補者一人一人の主張なんていちいち確認してないねぇ。



 …………お兄ちゃん(ジト目)



 ハハハ、妹よ。そんな表情をしてはせっかくの可愛い顔が台無しだよ。

 ……ゴホン。まあ、さっき言ったのはあくまでも理想論だ。自分が投票する選挙区内だけでも候補者の数は結構な数になるし、その一人一人の主張を確かめるには時間も手間もかかるからね。

 それに事実上、有権者が選べる選択肢はそう多くない。



 あれ? 選択肢は立候補者の数だけあるんじゃないの?



 見かけ上はね。……でも、候補者は大抵どこかの政党に所属していて、候補者個人の主張が政党の方針に採用されるとは限らない。と言うか、幹部でもないただの下っ端議員は、党の方針に従うしかないだろうからねぇ。



 ……世知辛い、ってこういう時に使う言葉で合ってる?



 合ってるが……十四歳の少女が使う言葉ではないような……

 まあ、そんな世知辛い政治状況では結局選択肢は政党の数と等しい。さらに極論すると、政権を担っている与党か、それとも野党かという二択でほぼ決まってしまうと言えなくもない。

 これといった支持政党を持たない人は、その二択で絞った上で、他よりまし(・・)と思える政党の候補者を選ぶということが多いんじゃないかな。



 ていうかお兄ちゃん。じゃあ、さっき言ってた理想論は何の意味もないってことになっちゃわない?



 いやいや、そんなことはないさ。単に適当に投票するのではなく、自分が政治に関わっているという意識を持てば、心構えが変わるからね。



 心構えって言ってもなー。そう言う精神論って、なんかお兄ちゃんらしくない気がする。



 その通り、良く分かってるね。だからこれは単なる精神論じゃない。

 例えば……そうだね、自分が票を入れた政党が馬鹿げた法案を通して、世間から非難されたとするよ。その時、ちゃんと心構えがあるなら、その非難は自分にも向けられているものだと認識できるからね。



 それはおかしいよ。……だって法律を作ったのは政治家でしょ?



 いいかい、妹よ。繰り返しになるけど民主主義に於いて政治家などというものは、所詮民意の代弁者、もっと露骨に言うなら単なる使いっ走りに過ぎないんだ。だから有権者は政治家のやったことに対して、少なくとも一票分は責任を負っているんだよ。



 うーん、模擬選挙をする時には全然考えなかったけど、選挙って責任重大なんだね。選挙に行かない人って、そういう責任を負いたくないからなのかな?



 選挙に行かないのも選択肢の一つ……と、言えなくもないけどね。ただ、政治的な意思表明の権利を放棄したわけだから、政治家を非難する権利も同時に失うことになるね。



 そっか、政治に参加してないんだから、それは当然だよね。



 では、妹よ。その辺りのことを踏まえてちょっと質問だ。政治の腐敗とは何だと思う?



 えっと……政治の腐敗って言うと、ニュースで結構聞くよね。政治家がワイロを貰ったりとか、なんかヘンなことにお金を使ったりとか……。あれ? でも、その政治家を選んだのは有権者だから……。うーん、なんかこんがらがっちゃた。お兄ちゃーん……



 ハハハ。確かに政治と金の問題、まあ政治資金の不正な運用が取り沙汰されるときに、良く政治の腐敗という言葉が使われるね。

 でもそれは、その政治家個人が腐っているだけの話なんだ。所詮俗世を生きる人間なんだから、そりゃ金に汚い品性下劣な奴だっている。まあ、そう言う人間が含まれる比率が高すぎる気もするけど……



 その人に投票しちゃった人は、そういうお金の問題にまで責任を感じなくちゃいけないのかな?



 個々の問題についてはさておき、そんな人物を議員にしてしまったということには責任を感じるべきだろうね。

 とはいえ、普段から親しくしている友人でもない候補者のパーソナリティなんて、たとえ演説を聴きに行ったり政見放送を見たりしたとしても、判るわけがない。どうせ清廉潔白で真面目な人間を演じているに決まっているんだから。



 さすがお兄ちゃん、ボッコボコだね……。じゃあ、政治の腐敗っていうのは、どういう事を言うの?



 そう、それだ。つまりそういう腐った人間だと知っている(・・・・・)のにも関わらず、何度も当選させてしまうような状態を政治の腐敗と言うんだと、俺は考えているよ。



 え~~(笑) お兄ちゃん、そんな中身が腐った人が当選するはずないよ~



 どっこい! これが当選しちゃうんだな~

 本当に失笑モノの話だけど、何某かの問題が発覚(・・)して議員を辞めた人間でも、ほとぼりが冷めたころに「みそぎが済んだ」なんて本来の意味を冒涜するようなことを言って立候補して、あっさり当選するなんてことが当たり前のようにある。ちょっと時間を置いただけで、下劣な品性がそうそう変わるわきゃ無いのにね。

 恩義があるだとかなんとか訳の分からないことを言って、政治家としての適性を疑われるような人間を当選させてしまうなんて、これぞまさに政治の腐敗だね!



 う~ん、お兄ちゃんの言う通り適性の無い人に投票するのはおかしいと思うけど、恩義があるっていうのは、立候補した地元に貢献してくれたってことでしょ? だったら投票しちゃう人の気持ちも分からなくはないんじゃ……



 あー、そう考える人も多いんだけど、実はそこが大いなる勘違いなんだ。



 え? 何を勘違いしてるっていうの?



 民意の代弁者に過ぎない政治家が地元に何かをもたらしたのであれば、それは民意にこそ力があったということだからさ。もちろん実際に働いた政治家に感謝するのは当然だけど、それは単に労働力に対して「お疲れさま」という程度でいいんだ。

 そもそも恩義というならば、それを感じるべきは政治家の方だよ? 何しろ政治家を政治家たらしめているのは、有権者の「清き一票」だからね。つまり政治家とは、なった時点で有権者に還しきれない負債を抱えているんだ。



 そっか、落選しちゃったら政治家でもなんでもなくなっちゃうんだもん、票を入れてくれた人には恩義を感じなくちゃダメだよね。

 ……でも考えてみると政治家の人って、選挙の前は有権者にペコペコ頭を下げて笑顔で握手をしたりするけど、当選したらなんだか急に偉そうになるよね。



 ハハッ、なかなか手厳しいね、妹よ。まあ、当選してから二~三日程度は腰を低くして、感謝してるフリ(・・)くらいはするんじゃないかな?



 ……手厳しいのはお兄ちゃんの方でしょ、もう!

 ねえ、お兄ちゃん。じゃあお兄ちゃんの考える政治の腐敗は、どうやったらなくなるのかな?



 それは実にシンプルな方法でできる。政治家に思い知らせてやればいいんだ。仮に過去にどんな功績があったとしても、政治家としての資質に疑義があったり、訳の分からない法律を作ったりしたらあっさり落選するってね。そしてちょっとほとぼりを冷ました程度じゃ、返り咲くことも出来ないんだっていう恐怖心を植え付けてやるのさ。



 でも、それじゃあコロコロ政権が変わっちゃうことになるんだよね? それって良くないって話じゃなかったっけ?



 長期政権にはメリットもデメリットもあるし、何度も繰り返しているうちに政権交代のノウハウが出来上がるから、必ずしも悪いことじゃないと思うけど……、それも一理あるね。だけどそれは大した問題じゃない。支持政党を変えるつもりがないなら、同じ政党の別の候補者を選べばいい。



 ……その政党から一人しか立候補しなかったら?



 なーに、選挙前に「問題を起こしたあの人」には絶対に投票しないっていう空気を作っておけば、勝てそうな候補者が擁立されるさ。



 あ、そっか! お兄ちゃんの言いたいことが分かったよ。議会に民意を届ける人なんだから、別に誰でもいいってことなんだね。



 おー、分かって来たじゃないか妹よ。そう、政治家なんて「その人」でなければならない理由は皆無の、いくらでも代えのきく存在なんだ。……まあこちらの思惑通り別の候補者が出るとは限らないから、その時は潔く議席を失ってもらうしかないね。



 潔いって、こういう時に使う言葉なのかな……?

 でも、お兄ちゃん。どうしてそんな勘違いが起きるの。



 いろいろと理由はあると思うけど、つまるところ政治家は偉いっていう思い込みが問題なんだろうね。



 えっと……、政治家は偉いんじゃないの?



 うーん、妹よ……、お前もか。

 じゃあ、政治家とは何者なのかを端的に説明している台詞が、とあるスペースオペラの金字塔に出て来るから、それを引用しよう。……ちなみに、このスペースオペラについては話し始めるとキリがなくなってしまうから、詳細はまた別の機会に。そういえば、最近新しくコミカライズされているから、もしかしたらまたブームが来るかもしれないと俺はちょっと期待して……



 お兄ちゃーん、逸れてる。逸れてるよ~



 おおっと、危なかった。

 ……で、その作品の中に出て来る政治家がこんなことを言うんだ。「政治家とはそんなに偉いものかね?」ってね。政治家とは税金を公平かつ効率よく再分配するという仕事を与えられているだけで、社会の生産には何ら寄与していない。いわば社会機構の寄生虫とでもいうべきものにも関わらず、それが偉そうに見えるのは宣伝の結果としての錯覚に過ぎない、ってね。



 き、寄生虫なの? 政治家が?



 ハハハ、その部分は物語の主人公が政治家をこき下ろすのに使った表現を、言われた側の政治家がそのまま使ったものだね。ただ、集めた税金を再分配するシステムを運用する人が、給料(歳費)としてその一部を抜き取ってるんだから間違ってはいないね。極端で悪意を感じる表現ではあるけど。



 あ、話の流れで出てきたんだ。

それにしても、宣伝の結果かぁ。もしかして、偉そうに振る舞ってるのもそういうことなの?



 そうそう、それもあるだろうね。

 不思議なもので、普段から下手したてで腰の低い相手がやってくれたことは「ああ、サンキュー」くらいで済ませちゃうけど、なんだか偉そうにしている人間がふんぞり返って、これこれこういう成果をもぎ取って来てやったぞって言われると、凄く感謝しなきゃいけない気になってしまうものだからね。

あとは……、政治家が自分たちのことを「先生」なんて呼ぶのも宣伝の一環かもしれないね。



 そういえばテレビで政治家がインタビューに答える時、他の政治家のことを「○○先生」って言うことがあるよね。あれはボクも不思議だなって思ってた。なんで先生なんだろ?



 さあ……俺も由来は知らないなぁ。まだ普通選挙が行われていなかった時代からの名残なのか、単に地元に多大な貢献をしてくれた政治家を「先生」と呼んでおだてたのか。なんにしても寄生虫を先生呼ばわりとは、可笑しな話だね。



 お兄ちゃんってば……



 俺だって彼らないし彼女らのことを、本当に寄生虫だと思っているわけじゃないよ? ただ、「先生」呼ばわりは実に滑稽なんだと強調するには、効果的な比喩だからね。

 ま、寄生虫って表現は置いておいて、政治家っていうのは民意の代弁者に過ぎないってことと、税金を再分配する仕事に従事しているだけの存在だってことを覚えておけば、宣伝に惑わされて変な錯覚に陥ることはないんじゃないかな?



 うん、大丈夫だよ。……というか、寄生虫って言葉のインパクトが強くて、忘れられないよ……



 よし。じゃあついでにもう一つ、政治家の行動原理というものを覚えておくといい。

 ……では妹よ、政治家が常に一番に考えていることは何だと思う?



 え? えーと、それは政治家なんだから法案のことなんじゃないかな? 広い意味では……、この国の未来の事?



 それも考えてはいるだろうけど、残念ながら優先順位は二番~四番ってところだろうね。彼らないし彼女らが最優先で考えていること、それはズバリ「保身」のことだよ。



 保身……って、お兄ちゃん。政治家になっちゃうと命を狙われるの?



 そういう意味で狙われている政治家も中にはいるのかもしれないけど、今はそっちの命じゃない。「政治生命」という意味での保身だよ。これを覚えておくと、政治家の行動の裏にある考えが透けて見えて来るんだ。



 そういうものなの? ……例えばどんな?



 例えばさっきの自分たちを偉そうに見せる宣伝も、保身から来る行動だよ。自分たちは偉いんだって思わせることで、次の選挙も有利に運ぼうとしているんだ。言い換えると、落選したらただの無職になってしまうことを必死に隠している。保身以外の何物でもないだろう?



 あー、そっか。そういう見方も出来るんだね。



 あとは……そう、少子高齢化対策なんていうのも胡散臭い言葉だね。



 お兄ちゃん。この国が少子高齢化社会なのは事実なんでしょう?



 紛れもない事実だね。……ただ俺が言いたいのは、高齢化社会の問題に対策をとっても、少子化の解決には繋がらない、一緒くたに扱うのはおかしいってことだよ。例えば晩婚化と少子化だったら纏めて考えるのもアリだと思うけどね。

 さて妹よ、この国の未来を考えるなら少子化と高齢化、どちらを優先して対策を練るべきだと思う? ああ、どっちも重要な案件には違いないから、両方っていう答えは無しだよ。



 両方はダメかー。えーっと……、未来のことを考えるなら、やっぱり少子化対策の方……かな?



 なるほど。……で、その理由は?



 理由は……このまま少子化がどんどん進んじゃったら、人口が減って国が成り立たなくなっちゃう……ような気がするんだけど、違うのかな?



 ううん、その通り。良く考えられたね、妹よ。

 ……と、このように十四歳でもちゃんと考えれば分かることなのに、なぜか少子化対策は遅々として進まず、一方で高齢化社会に適した法案は次々と成立している。さて、その理由はなぜなのか?



 えーっと保身の話をしていたんだよね……、政治生命……、選挙……票? お兄ちゃん……、もしかして……



 気が付いたようだね、妹よ。

 ……そう、高齢者に対する対策を取った方が、次の選挙の票に直結するんだ。逆に少子化対策の方は微妙だ。若者は数自体が少ないし、その中には別段子供を欲しいと思っていない人も当然いるからね。仮に対策をとった結果出生率が上がっても、その子たちが票に結びつくのはまあ二十年程度はかかる。そうなると場合によっては、もう政治家自身が死んでいるという可能性だってあるからね。

あと恩を売るならドライな若者よりも、義理人情に篤い高齢者の方が効率がいいとも考えているんだろうね。



 ……それって、酷い話なんじゃないかな?



 その通り、選挙のことしか考えていない最悪の考え方だ。だけどそんな下劣な考え方を晒すわけにはいかないから、少子高齢化対策なんて一緒くたにして、さも両方考えているかのように見せているのさ。



 なんか、知らなきゃよかったような気もするし、知っておいた方がいいっていう気もするし……フクザツな気分だよ、お兄ちゃん。

 あ……でも、お兄ちゃん。じゃあ、世論調査で反対が九割になるような法案を強引に通しちゃったりするのはどうしてなの?



 お! そこに気が付くとは素晴らしい、妹よ。なかなかいい目の付け所だ。

 確かに政治家はたまにそういうことをするね。ただそういうことをする時は、次の選挙まで間があるって時に限られるんだ。



 時間をおけば選挙に勝てるって思ってるの?



 法案を通すまでは大騒ぎをしても、実際通してしまえばその後はすぐに忘れるだろうとタカを括っているんだ。残念ながら、一時的に急落した支持率も、結局時間をおけば元に戻ってしまうことが多いというのも事実だからね。

 つまり、保身のことばかり考えている臆病者の癖に、本質的には有権者をバカにしているんだ。度し難いことに。



 お兄ちゃん、そんな人たちに政治を任せちゃって大丈夫なの?



 いや、大丈夫じゃないところまで来ているから、社会のあちこちガタが来ているんだろうね。とはいえ、投票しないわけにもいかない。結局、真っ白ではない選択肢ばかりでも、比較的まし(・・)だと思えるのを選ぶしかないよ。



 あ! お兄ちゃんが立候補すればいいんじゃない?



 わはははは、それは一度も考えたことがなかったな~



 え~……。私、ちゃんと票を入れるよ?



 それはとても心強いね。だけど妙な表現になるけど、政治屋さんというのは新規参入が難しい業種だからねぇ。まあ、そんな状況だからこそ、空気が澱んで腐ってきているわけなんだが……



 う~ん、残念だなぁ。……じゃあ、もしもの話でいいから、お兄ちゃんが立候補するなら、どんなことを訴える?



 ……そうだね、やっぱりここは「政治改革」を訴えるのが定石だろうね。



 割とフツーだね、お兄ちゃん。もっと過激なことは言わないの?



 妹よ……、過激なことばかり言う扇動政治家は三流以下だよ。

 ただ、単なる「政治改革」ではつまらないからちょっと捻りは加えよう。政治改革とはつまり有権者一人一人の意識改革であると訴えて、政治家とは全然偉くなどない社会機構の寄生虫的存在であると連呼しよう。



 ……お兄ちゃん、それ好きだね。いっそ新党も作っちゃう? ソーシャルパラサイト……とか?



 あっはっは、微妙に中二病っぽくていいね。

 ……で、公約としては、当選した暁には徹底的に腰を低くして、自分は有権者の使いっ走りであることを世間にアピールして、政治家の地位低下(・・)に努めると約束する。……ああ、定期的に自分に罵倒をぶつける、政治家こき下ろしイベントでも開こうかな。



 妹としては、あんまり見たくないイベントだなぁ……



 確かにね。でも本来、政治家になるっていうのはそんなもののはずなんだ。高い地位になるどころか、票をくれた人たちに対して多大な負債を抱えて、議会までお使いに行くようなものだからね。そして支持者の声に応えられなかったり、信頼を失うようなことをしたりすればあっさり捨てられるっていう、とても不安定な存在なんだよ。



 う~~ん、やっぱりお兄ちゃんは立候補しなくていいよ。そんなお兄ちゃんは見たくないから。



 優しい子だね、妹よ。お兄ちゃんは嬉しいよ。

 ともあれ、自分が選挙に行くときの参考にはなったかな?



 もちろん、とっても勉強になったよ。でも、余計難しい問題になっちゃった気もする……



 そうだね。でもそうやって考え続けて、選挙に臨むことがとても大事なんだよ。



 うん、頑張って考える。ありがとう、お兄ちゃん。



 いえいえ、どういたしまして、妹よ。



この物語はフィクションであり、特定の団体や人物に支持や不支持を表明するものではありません。

エッセイ的要素もありますが、あくまでも妹の疑問に対しお兄ちゃんが自分の思想に基づいて答えている会話劇です。

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