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イディの魔導書  作者: アーネスタ・サヴァン
王の誕生
2/4

彼が街を壊した理由。



外道。それすなわち道から踏み外した者。武道、魔道、人が極めるべき道を、踏み外し、本来道の先にあるべき物を、無理に強奪した者。故に罰は大きく、一つの例外なく命を啜らねば生きてはいけない哀れな存在である。



_____聞いた話ではそういうことらしい。納得だ。道理で異常に腹が減るわけだ。これが罰。啜る命の催促が飢えとなって押し寄せてきていた。

あまり長くは我慢出来ないだろう、そう思うと次第にこの軍隊へ怒りが湧いてきた。此奴らがもっと早く助けに来ていれば?それなのに、何故、食事を摂る自分に妬みをぶつける?


先程までは「仕方のないこと」と割り切っていた部分が許せなくなっていた。同時にこれは飢えが短気にならせているのだ、と、自分を抑え込み、剣を抱き、横になった。



2___________________________________



次に眼を覚ましたのは街の中であった。詳しくいえば街の中の奴隷市の檻の中。彼は奴隷として売られていた。目の前に立つ商人が何やら大きな声でこの商品(つまりは自分)がいかに優れているかを言っているが、よく分からない。ただ腹が減って仕方がない。どうしてこうなっているのか分からないが、そんな疑問は強烈な飢餓感に塗り替えられた。

今すぐ剣でこの商人の命を奪ってやりたいが、首に繋がれた鎖が邪魔で、ここからでは剣と腕を足した所で届きそうになかった。


するとあまりに腹が減り過ぎて、意識が朦朧とし、倒れ込んだ。



3______________________________



朦朧とした意識の中で、自分は誰かに買われたようだった。

馬車に乗せられ、運ばれ、しばらくするとコロシアムのような建物の中に入っていく。


そしてすぐさま檻に入れられ「出番は今夜だ」とだけ言われた。


(巫山戯るな)


そう思った。感情の昂りは強くなり、獣のように牙を剥いた。


「…そんなにっ!」


自分を檻に入れた男は此方を振り向いた。呆れたような顔をしていた、が。


「そんなに、待てるか!今すぐだ、今すぐ出せっ!」


直ぐに表情を変え、ニヤリと笑った。いい買い物だった、と表情が語っていた。


男は何も言わず、檻を開け、彼をコロシアムの猛獣用控えに連れて行った。本来ならば次はコロシアム最強の魔獣キメラと剣闘士の一騎打ちの予定だったが、気が変わった。

すぐさま近くにいた係員に呼びかけ、試合内容、賭けの変更を上に連絡するようにいった。男の目には、次の試合が良いショーになるのが見えていた。



4______________________________



試合が始まった。ガヤガヤと観客が騒ぎ、田舎村では見ることの叶わなかった魔力灯が辺りを照らしていた。


でも、そんなことはどうでも良かった。向こうから、観客に手を振りながら歩いてくる貴公子然とした男が、あまりに恋い焦がれて止まない、美味しそうな匂いを振りまいていたから。


きっと彼は、そのあまりある才能でたいした苦労もなく、生きてきたのだろう。だから、いいのだ。あの男爵とやらと同じだ。恐怖を刻んで振り掛けてやると、なんとも形容しがたい充足感が得られるのだ。


「あぁ、美味しそうだ。」


不意に声が漏れた。向こうもああ見えて警戒を怠っていなかったのか、ビクリと身体を震わせて、今度は油断なく腰に差した剣を構えてきた。


四肢に力が入り、獣の様に低姿勢で構えた。剣は右手で掴み、地面に触れそうだ。痺れを切らした観客が、自分に瓶を投げつけた。


それを好機とみた男が一息に間合いを詰め剣を大上段から振るった。鋭い剣だった。が、それだけだ。自分のこの構えに対処しきれていない。


脚をバネにして、懐に飛び込む。向こうは咄嗟に蹴りを入れるが、それを予期しない程自分は馬鹿でもなく、結果は必然、彼方は右足を無くし、蹴りに使った左足はズタズタに切り裂かれた。


どうやら人は、逃げられないということに大変な恐怖を感じるらしく、また、出血で徐々に死に近づいていくのにも恐怖を感じるらしかった。


少しずつ上質に、美味しそうになっていく。でも、やり過ぎると途端に枯れてしまうから、恐怖の盛り上がりが最高潮で、首を撫でるように、骨を断つ感触を味わうように、剣を振るった。


「ご馳走様。」


漸く、飢えが退いた。





5______________________________






そんなことはなかった。

自分を檻に入れた男に「良くやった」と言われ、気を良くして檻に入ったが、しばらくするとフツフツと、自分を売り飛ばしたであろう兵士たちに怒りが湧き、それがまた飢餓感に変わって現れたからだ。


すると、何故自分は復讐もせずに檻にいるのだろうと疑問に思った。鎖に繋がれているから?手足を動かすように、自然に剣に魔力を通すと蒼色の炎が剣に纏わりつき、鎖に向けて振るえばしばらくすると熔解し、檻に向けて四角く切り取るように振るえば自分が通れるくらいには穴が開いた。欠点といえば鎖が千切れるまで首が少々熱かったことだが、その火傷も直ぐに治った。


このとき初めて彼は自覚した。

「俺は、馬鹿だったのか?」と。


そう思うと腹が立ったので、近くにいた猛獣の檻を溶かし、開けた瞬間飛びかかってくるような奴には熱した剣を叩きつけ、街に放った。ムカムカしたから。ただそれだけ、といっても彼にはそれでも十分な理由になったのだ。


しばらくして、冷静になり、自分には頭の良い家来が必要だと思い立ったのは、夜中に突如魔物の襲撃を受けて街が半壊した光景を見てからだった。




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