表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠り姫シンドローム  作者: ひなつき
1/1

sleepwalk girl and loneliness boy


夢遊病が社会問題化。


とんでもないこのフレーズがぐるぐるして出来た設定およびお話です。



申し遅れましたがこのひなつき、初投稿作がまさかの連載という明らかに間違えた感があります。短編ちょこちょこあげるべきでしたね。

ラストもその途中もしっかりありますので尻切れとんぼにならぬよう頑張ります。

…前書きの使い方あってますよね?


それでは楽しんでいただけたら幸いです。

人が夢を見すぎたせいか、なんなのか。



その夢は世界に感化して、少しずつ影響力を持ち始めていた。



世界はそれに気づくのが遅かった。しかし、人々には全く違うかたちでその事実は世界に感染する。







20XX年、日本にて。

若い少年少女から20代の男女の約4割が睡眠障害、夢遊病にかかる時代。

夢遊病とはいえ、こんなことになるより前に語られた夢遊病とは意味合いが違う。

興奮状態、過度なストレスにより起こる無意識下での行動後、睡眠に戻るがその記憶はすっかりなく、その行動がおこるのはノンレム睡眠の1〜3時間のみである。無理に起こそうとすれば危害を加えてくる例もあった。

が、これは過去の話だ。当代の夢遊病は、過剰型、放浪型、無分類に別れる。行動がおこるのに時間的制限はなく、ノンレム睡眠もレム睡眠も関係はない。夢遊病の症例は分類化出来得るほどの統一性がないため解決法も見いだせない。現在の対策はもはや夢遊病患者の放浪(初期症状として認められるが、それもないままに無分類の夢遊病を発症するものもいる)を防ぐべく寝室と名のついた箱に閉じ込めるか、ベッドにくくりつける他ない(ただの寝室では鍵がついていても器用にドアから出ていってしまう)。


しかし、その対策にも難点があった。寝室と名のついた箱は快適さ重視のためか患者はすやすやと寝てしまう。

ベッドにくくりつけると大体の患者の身体に異常が出る。


そして、政府がとった行動は安易で、しかし確実だった。


睡眠障害"夢遊病"患者のための施設設置。


ただ"夢"をみていた少年少女は、強固な箱に閉じ込められて、病を治すため外を見ることを許されなくなった。



そうして全国的に知られるようになった"夢遊病"患者は、通称"眠り姫"と呼ばれるようになった。





その施設設置から今年で16年になる。施設の数は各都道府県にひとつ、五つの主要都市にひとつと増加傾向にあった。

治療とはいえ、ただ箱で大人になるのを待っているのみ。30代に近くなると自動的に病が治るということに研究者たちが思い至ったのは施設設置から約7年半の初秋であった。しかし、特例はある。従来の夢遊病に対する治療法では不可能だが、カウンセリング等でゆっくりとだが3年で施設を出たものもいる。



そして、また今日もなんてことなく世界が回る夜七時。

一人の夢遊病の少女が行方を眩ました。

彼女は前例のない無分類、放浪型の複合性夢遊病患者であり、無分類の主な症状に会話、異常な身体能力の発揮があった。

重要サンプルとして研究者から目をつけられていた少女が姿を眩ましたとあって施設は大わらわになった。





その頃、

その少女は空き家に転がり込んでいた。とある青年が一人暮らす空き家の隅で、布団までしっかり敷いて、眠っていた。








秋の夜長といっても一日が24時間以上になるわけではない。仕事が仕事なので深夜帰宅はもはやいつもの事だ。

しかし、

「誰これ」

見知らぬ小娘に空き巣に入られ、あろうことか睡眠までとられるとはなんとアホらしいことか。

しかも家に1つしかない布団を悠々と使っている。布団をひっぺがして庭に転がしてやると思ったが、昼はまだ残暑厳しいとはいえ夜はそれなりに寒い。少しの良心が邪魔して結局完徹を選んだ。畜生眠い。少女は今時珍しい白いワンピースだ。随分お気軽な空き巣だなと思って改めて見ると、半袖の袖口に【東京都夢遊病患者集中治療施設】と書いてあった。おや、あの眠り姫の。こりゃ面倒なことになりそうだ。

「おはようございます」

「うぉっ!!」

突然少女は開眼して機械的に起き上がった。そして、こちらを認めると。

「すみません、ここどこなんでしょう……あ、もしや貴方人拐い?きゃー古い」

「勝手に侵入しといて何様かテメー」

「ちょっと、なにも盗んじゃいませんよ」

「ポケット叩け」

ポン、と叩けば小さいポーチがころり。少女は心底驚いた顔でなにこれと見つめている。

「お前、"眠り姫"?」

「あ、はい。世間一般でいう"眠り姫"、それも前例のない無分類、放浪型の複合性夢遊病患者、栗生(クリュウ)ひなです」

にっこり笑って自己紹介してくる少女に、どうも空き巣じゃないらしいと判断を下して。

「貴方はどちら様ですか?」

吾妻晴斗(アガツマハルト)。ここの家主だよ不法侵入者」

だが、のほほんと挨拶はできない。眠り姫だからと犯罪に対する情状酌量になった前例はなく、例外なく夢遊病患者集中治療施設送りにされる。栗生の場合戻ることになるが。栗生が自身で称した複合性夢遊病はこれまで現れたことはなく、新聞で騒いでいるのは晴斗の知識にはあった。晴斗の仕事上、世間に疎いのは致命傷とも言えるので情報収集は怠らない。

自己紹介を済ませたところで当面の懸念材料が片付いたとして栗生を押し退けて布団を回収する前に、先ほどの小さなポーチを拾って中身をしげしげ見ているのを認めて自制が追い付かずに栗生の頭を叩いた。

「鍵開けでもしてるんですか」

「は?」

だってたくさん細い針金入ってるんですもん。と1つ取り出して見せる栗生に今度こそ頬をつかんで引っ張る。当たりは当たりだ。否定はしない。今回晴斗が彼女の身元を知るだけで懸念が片付いたことにしたのは警察がよってくるのをふせぐためだ。鍵開けと言っても空かずの間の鍵だって仕事に入っている。空き巣紛いのことをしているのはあくまで副業。しかし、このご時世に空かずの間などなく、過去にとことん興味のない人間はそれごと破壊して新たに快適空間を作り出すばかり。空き巣紛いに主軸が揺らいでも仕方あるまい。

身よりはあるものの家庭内暴力の酷い、ヒステリックな母と二人暮らしだった晴斗は早々に家を捨ててきたので、どんな汚い生き方でも生きているだけマシなものという考えに忠実だ。罪悪感は二の次で、当面の食いぶちが最優先。

「もしや、警察にご厄介になったことは……」

「ねーよ」

「カツ丼が出ると期待していたのに出たのは水だけだった絶望感がわかりますか?」

「わからないし知りたくねーよ!」

「残念です」

「知るか!!」

そう叫んで今度こそ布団を回収する。あっと弱々しく作られた声に苛立ちが増す。

予想とあまりに違った彼女の様子に混乱する。施設の子供は脱け殻のように人間性に欠けると聞いていた。それが人権侵害だなんだとTVの討論番組に取り上げられていたのも見たことがある。夢遊病患者集中治療施設の設立および研究所の設立案を通した党の党員が裏返った声で施設の異常性を語るのをみてばかばかしくなったのも記憶に新しかった。この目の前で吾妻さん吾妻さんとうるさいバカのように冗談どころか会話もしない機械のようなイメージを持っていたのだが、どうも全く違ったようで。一方的なイメージだが、しかし世間一般的なイメージでもあった。

複合性夢遊病患者。無分類と放浪型の複合。自分の知識にはカバーできない世界にオーバーヒートしそうだ。

「吾妻さん、お話ししましょうよぉー」

布団を頭まで被って聞かないフリをした。








翌日、(というより晴斗の帰宅も早朝だったので翌日の昼だが)栗生は正座したまま枕元にいた。数時間前の記憶の復旧までの間、驚愕で彼女を見たまま固まってしまった。あ、ご飯作りますね、と気を効かせたのかなんなのか、立ち上がる栗生に待ったをかけるのも忘れた。

「あ、いやいい。なんか今胃に物を入れたくない」

「だからそんなに案山子みたいな体型なんですか」

「誰が案山子だ」

けらけら笑う栗生に毒気を抜かれて起こしていた体がまた布団に沈む。しばらくぶりの会話に調子が狂う。久しくなかったこの感情がくすぐったくて、晴斗も笑っていた。

「吾妻さんはどうして鍵開けを始めたんですか?」

ほかほかのご飯と味噌汁が卓上に並ぶ。

「……望まれたから」

「え、それじゃわかんない」

「この量じゃこれが限界だな」

そんなつもりはなかったが、それだけで全て教えるのは癪だったので、えーだのあーだの騒いでいる栗生を置いて咀嚼を始める。他人のいる食卓が久しぶりすぎて視界の端でふよふよ揺れている栗色の髪に目が行く。

「お前、帰らないの」

栗生が目を見開いて手を打った。どうも今の今まで忘れていたらしい。脱走もまた前例のない事態(あっても揉み消してきた)なので施設の人は困っているだろう。忘れてしまえるとは随分ふわふわした脳みそらしいとバカにしながら味噌汁を啜る。

「そのですね、私、戻りたくありませんので、しばらくお世話になりたいというかなんというか」

「ふざけんな」

「いえあの、場所がわからなくて」

「え?」

「私、東京都夢遊病患者集中治療施設にいたのはわかるんですが位置がわからなくて」

栗生が言うには、施設に入る人間は必ず施設の位置を知らされずに送り込まれるのだという。脱出を防ぐためか、それとも他の思惑があるのか。パソコンで調べてみれば治療研究所のことしかヒットしなかったので彼女のいっていることは正しい。しかし、困った。

いくらなんでも施設から脱走してきた少女を抱えるのは仕事上問題があり、できることならさっさと送り返したかったのだがこうあってはどうしようもない。一般人の情報収集能力では追い付かない次元の話だ。八方塞がりどころか光のない闇のど真ん中で脱出しろと言ってるようなものだ。

「吾妻さん、そのですね、」

「お前、帰りたくないの」

「は、」

「なんで帰りたくないの」

「あそこ、酷いんですよ。朝から晩まで心理テストしたりゲームしたり。字面みたらのほほんとしてますけど実態はモルモットにされてるだけなんですもん」

集中治療施設と研究所に横の繋がりがあるのは周知の事実だが、モルモットという実験台を思わせる言葉で現せられると生々しい。彼女の話によるとこうだ。

一面真っ白な内装に白衣姿の研究員がちらほらといて、誰も彼もクリップボード片手に難しい顔をしている治療施設という雰囲気の欠片もない空間に、夢遊病患者たちは住む。5人一組で部屋は構成され、常にその5人組で識別されるが、施設から出たり事故による死亡者が現れた際には別の部屋から補充される。患者たちにはほぼ自由はなく、昼食後の一時間の自由時間しか別の5人組とは交流も許されないのだ。

「それで、帰りたくないのは、今みんなが施設の破壊を目論んで動いているからなんです」

「……は?」

「死亡者って言いましたよね。たまに一人呼び出されたりするんですが、そのまま帰ってこないケースがほとんどで」

「要するに、事故を装ってるってか」

「はい」

全く、若いのに随分壮大なことだ。

朝ごはんも片付けて、今日の依頼をこなすために腰をあげる。眠気覚ましに大きく伸びをして、視界の隅できょとんとしている栗生を見下ろす。

「お前、どうすんの?」

「あ、ここにいます」

「寝んなよ」「はい。生憎眠くありませんから」

よし、と吾妻は立ち上がりコートを手に取る。いつも通り、手筈通り、仕事をしにいく。

「栗生ひな、だっけ」

「はい」

「一応施設について調べてくるが、なにか要望は?」

「ありません。あ、吾妻さん」

「ん?」

「夕御飯、何にしましょう?」

「……ハンバーグ」

「また幼稚なものだしますねぇ」

「悪かったな!行ってくる!」

「はい」

軽快なやり取りのあと、施設にいた故に出てこない"普通の台詞"を教えてやる。

「お前、そこは『いってらっしゃい』だろ」

「あ……そうでした」

栗生ひながいつから夢遊病患者集中治療施設に入れられていたかは知らないが、本当に懐かしげな笑顔でいう。その表情に見知った誰かの影を見つけかけて慌てて見逃した。もう思い出したくもない誰かさんの、片鱗。

(何の因果なんだか、なあ)

「いってらっしゃい、吾妻さん」

「おう」

施設の普通は普通じゃない。幼い頃から常識を育たせずに来させた子供らはいつ気付いたんだろうか。

そしてまた、栗生も。栗生ならすべてを病のせいにできるから、仲間内に送り込まれたのだろうか。常識もなく、ただ逃げろ、と外の世界へ送り込まれたのだろうか?外の世界は優しくない。子供らのいた白い世界よりはマシだろうが、それとは別のところで優しくない。剥き出しの牙か、透明なトゲかの違いでしかないのだ。

透明なトゲにめったやたらに刺されていろんなものを落として、それでも生きていかねばならない。

そんな痛みが、あの施設にいる子供らに分かるだろうか。

吾妻はもう、刺さるところもないくらいに刺されて、世間ずれを起こした心はキリキリと痛むばかりだ。いつもいつも、無表情にいないと泣いてしまいそうなほど。

(それでも、倒れたくないのは、なんでだろうな)


どんなに辛くても吾妻晴斗はひとりきり、仕事へ向かう。



後書き。


楽しんでいただけましたか?

イエス、ならひなつきは大喜びします。

それではまた別の世界で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ