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楽器演奏者の日々

新人ホルン吹き。奮闘する

作者: 雪 よしの

「はい、高柳君は、ホルン決定。ホルンは難しい楽器だけど

頑張ってください」


顧問の伊集院先生の言葉で、僕は、ホっとした。

希望通りのパートに入れたから。


吹奏楽部に入ったあと、パート決めに2週間かかった。

オーディションとかはないけれど、希望のパートに入れない人も多い。


「よかった、高柳君、ホルンは初めてだったよね。よろしくね」

「大丈夫、みんな最初は初心者だから」

「よろしく」


僕もドギマギしながら、

「よろしくお願いします。楽器ははじめてです。」と3人のホルンの先輩に挨拶した。


僕、高柳 翔 は、西が丘高校に入って吹奏楽部に入った。

きっかけは、去年、市内のアマチュアオーケストラの定期演奏会で聞いた

「新世界」という曲の4楽章のホルンが、めっちゃカッコよかったから。

なんていうか、堂堂としてて、それでいて懐が深いって感じで。

僕も、やってみたいと思った。

ホルンは、兄が昔使っていたのがあるので、それを使うつもりだ。


最初に練習日程を教えてもらった。

放課後、出来る者から教室で個人練習。4時からは、パート練習。5時に合奏

という日程。僕を含めて初心者数人は、最初のうちは、合奏の時は見学だ。


僕はパートリーダーの石塚先輩に教えてもらうことになった。

「じゃあ、マウスピース。鳴らしてみよう。楽器はもっていたよな」

はい、って答えたけど、どうならすの?

楽器に息を吹き込んでも、息の音まるだしで・・・


石塚先輩が笑い出した。他の二人も笑いをこらえてる。

「ナイス・ボケだ。まず、マウスピースをこうやって外して。

いいか?金管楽器は大体同じだけど、ホルンもこうやって唇にあてて、

唇は、スキマあける。そして、ブーブーならす。唇を震わす」


僕は先輩のやった通りにするが、ブーブーできるときと、出来ないときがある。

「うん、まず、マウスピースでしばらく練習だな。ホルンはマウスピースが小さい

から、唇の位置がずれないように気をつけろ。」

そして、僕は、しばらくの期間、マウスピース練習だけだった。

リコーダーみたいに、吹けば出るってもんじゃないんだな。


そろそろ楽器をつけて練習、という段階になり、僕は顧問の伊集院先生に

僕の(元は兄の)楽器をみてもらった。


「ほーーすごい。アレクサンダーじゃないか。」

アレクサンダーという声に、ホルンの3人が、え?って顔をしてる。

そんなに高い楽器なんだ。。


「お兄さん、ホルンで音大めざしたとかなの?」

パートの2年生、秋川先輩が聞いてきた。

「違うんです。兄がホルンをやりたいっていったら、両親が、買っただけで。

今は、兄は社会人です。ホルン吹く暇もないっていうか、高校でホルンは、

やめたみたいです。」

僕の説明に、”なんてもったいない、アレクサンダー様を”なんて秋川先輩は言い

石塚先輩は、”使わなかった間だけでも、借りたかった”と残念そう


「ま、本当は楽器を吹くのも早いくらいなんだけど。ホルンは、4人で一組

だから、はやく合奏出来るよう、猛特訓するからな」


それから先輩方の僕への猛特訓が始まった。

楽器だけじゃない。息をコントロールするのに、腹筋トレ。肺活量をあげるのに

ランニング。これは全員が同じくトレーニングする。殆ど体育系部活だ。


パート練習では、ロングトーンを死ぬほどさせられる。

正しい音で、一定の音の大きさで音をのばす。

音を出す時間を少しずつ長くしていく。息が続かないと、頭がクラクラする。

今、合奏で練習してる曲の、音階をひとつづつ丁寧にさらう。

4人がちゃんと音があうように。

もちろん、僕は、そこまで出来ない。指使いと口の使い方は教えてもらったけど、

僕のホルンは、簡単にいう事を聞いてくれない。アレクは我侭な楽器なんだ。

アレクサンダー、の半人前のアレクだ。だから、ちゃんと音が出ないんだ。

最後は合奏にむけて、曲の練習をやった。僕は楽譜を見ながら見学。


でも、何をやってるか、正直、わからない。

・チャ・チャ・チャ・チャ。裏拍の手拍子みたいだ。

これは、裏打ちというホルンの大事な役目だと、秋川先輩に教わった。

一箇所だけ、旋律っぽいところがあっただけ。


運動して苦労して楽器ならして、これだけ?淋しい。

なんか違う。僕の考えていたのと。あの堂堂とした音じゃないし。

僕はがっかりした。つまらないかもしれない、ホルンって。


合奏では、見学だった。先生は曲を2回、繰り返した。

あれ、1回目と2回目、曲の感じが少しだけ違うような、気のせいかな。


「高柳、2回の演奏、どうだった」石塚先輩が聞いてきた。

「よかったです、でも」

「でも、なんだ?」

「なんか、2回目の演奏は、1回目とちょっと違うような・・」

「おし、合格だ。2回目は、ホルンは吹くマネをしただけでした。ははは」


”内声は、メロディをささえる重要なポジションです。それにホルンは木管と金管の

繋ぎ役でもあります。”

伊集院先生の説明が入った


裏打ちの事がよくわからい僕に、先輩が伊集院先生に指導して

もらうよう頼んだんだ。恥ずかしいけど、僕は本当に知らないことばかりだ。


「さて、後は、ホルンパートで特訓するだけだな」

石塚先輩がニヤっと笑う。


部活後、後片付けをしてる僕の所に石塚先輩がきて、楽器を取り上げた。

やおら、あの「新世界」のホルンのかっこいい旋律を吹いた。

それが、とてもいい音なのは、僕にもわかる。僕のアレクは出来損ないと思ってた。

僕は同じ楽器で悪戦苦闘してるから、わかった。先輩、めちゃ上手だ。

こういう音をだしたい。


「新世界の旋律なんて、十年はやいんだよ。バーカ」


先輩の音はすごい、十年後には僕もああいうふうに吹けるなら、頑張ろうと思った









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― 新着の感想 ―
[良い点]  ホルン。  楽器というものにまったくなじみのない私。  音どころか形さえどのようなものかわかりません。  ただ……。  読んでいて、吹くのにとても息が苦しい。  そういうところが伝わって…
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