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出会い

 それは私が中学二年生の時の話。

 私の中学校の二年生は毎年職業体験といって色々な仕事場で仕事体験(と言う名のタダ働き)を一週間すると言う行事がある。

私は保育園に行くことになり、少し憂鬱だった。

子供は苦手だ。直ぐ泣くし、我が儘。相手をするのも面倒臭い。

でもまあ授業の一貫と考えれば耐えれるだろうと思っていた。


 当日、保育園に行くと保育士の先生方が温かく歓迎してくれた。

私が担当するのは年中のようで、教室の扉の上には可愛いキリンの看板と一緒に『きりんぐみ』と書いてあった。

因みに年長は『らいおんぐみ』で年少は『うさぎぐみ』だった。

年中の教室に入ったとき、皆私のことを興味津々といったようで見ていた。

何と言うかそんなにジロジロ見られていい気がしない。

教室をぐるっと見渡して、一人の園児に目が止まった。

 他の子とは明らかに違う金色に近い茶色の髪の毛の男の子。

名札を見ると平仮名で「みやこ しょうた」と書いてあった。

しょうた君は私にまるっきり興味が無いようで、絵本をずっと読んでいた。

私も「目立った容姿だなぁ。」位にしか思わなくて、他の園児に引っ張り回されていた。


 暫くして園児達は絵を描き始めたのでやっと息をついた。

すると、肩をトントンと叩かれたので後ろを振り向くと、しょうた君が絵本を抱えて立っていた。

「どうかしたの?しょうた君。」

「せんせぇ、絵本読んで。」

 自分で読んだら?と言う言葉が喉まででかかって、慌てて引っ込める。

仕方がないからしょうた君を膝の上に乗せ、絵本を読むことにした。

題名は『醜いアヒルの子』

何故これを選んだ。

お前はどちらかと言うと生まれたときから白鳥だろ。

そう思いつつも読んでいると、読み終わる頃には皆が集まっていた。

そして隣にいた園児が

「せんせぇ、次これ読んで!」

 と催促をしてきて結局その日は時間になるまで本を読まされた。


 翌日も、その翌日もしょうた君は絵本を持ってきた。

「次はこれ読んで。」

「……しょうた君、皆と遊ばないの?」

 これは切実に思ったこと。他の子と遊んでくれ。そうすれば私の負担も少しは減るから。

「どうして?センセぇは僕のこと嫌いなの?」

 しょうた君は私の膝の上で大きな黒い瞳を悲しそうに伏せて抱き着いてきた。

「そうじゃなくてね、ほらしょうた君にもお友達いるでしょ?

お友達と遊んだら?」

「……友達なんていないよ。

皆僕の髪の毛が普通じゃないから話しかけてくれないんだ。」

 髪の毛って言ったって少し色素が薄いだけじゃない。

そんなのよくあることじゃないの?

私もクリーム色の髪の毛だからよく「染めてる?」と聞かれるがこれは地毛。

お祖母ちゃんが同じ髪色だから遺伝じゃない?と済ませている。

「しょうた君、先生もしょうた君みたいに他のこと違うよ。

でも先生は他のこと遊んでるよ。」

「だってせんせぇは大人だもん。」

 中学生です。中学生は大人じゃないわ。

「大人とか関係ないよ。

友達になるには自分から声をかけるんだよ。」

 普通はそうやって友達を作るもんだと思うんだけど……

にっこりと笑ってあやすようにしょうた君の頭を撫でながら話しかけると、しょうた君は顔を真っ赤にして顔を埋めてきた。

「えへへ、せんせぇだぁいすき!」

「ありがとう。」

 幼稚園児の分際でませてるなぁ。


 最終日になる頃にはしょうた君は皆と混ざって遊んでいた。

幼稚園児だから仲間はずれとかはそうそうないだろうし。

これからも仲良くできるだろうと思った。

 そしてついに最終日。

皆と別れるなか、しょうた君は大きな声で叫んだ。

「せんせぇ!僕、大きくなったら先生と結婚する!」

 本当に驚いた。

しょうた君が結婚できる年になるまでは大体14年はかかる。

その頃には私は結婚していてもおかしくはないだろう。

だから私は適当に返事をした気がする。



 あれから今年で14年目だ。

何故こんな話を思い出したのか、そして何故この話が夢に出てきたのかわからないが、取り敢えず時間を確認しよう。

………朝の8時。朝礼は8時半から。電車で今からなら20分でつけるだろう。

問題は10分で支度できるかどうか……

 急いで着替えてメイクをしていく。

もう28だし、少しはメイクを濃くするべきだろうか?

今のままナチュラルメイクでもそんなに違和感はないがやはり肌年齢とか結構気になる五林(イツバヤシ) 璃夢(リム)28歳独身。

この名前は実際好きではない。

名前の由来は可愛かったからだそうだ。

もう少しましな理由でつけてほしかった。

 まあそれはさておき、何とか電車に遅れずに乗り込むと同僚の中野(ナカノ) (イツキ)が座ってスマホを見ていた。

「樹、おはよう。」

「ん?おお、璃夢じゃん。おはよ。寝坊でもしたのかよ?」

 樹は女性社員から人気が高い男性社員ダントツ一位のイケメンだ。

だからといって私は付き合いたいわけでもない。

ただ見てるだけで目の保養になると言うやつだ。

樹も私が恋愛感情をもって接していないとわかっているので結構気軽に話せるらしい。

「うん、まあね。昔の夢を見てて。」

「へえ、どんな夢?」

「何か中学二年生の頃の夢で、幼稚園児に大声で告白された夢。」

「ははっ!なんだそりゃ。」

 樹は本当に無邪気に笑う。

そんな子供っぽく笑うところも女性社員から人気を集めるポイントだ。

「あ、そういえば璃夢知ってるか?

今日うちの部に新入社員が来るんだと。」

「え、そうなの?知らなかったなぁ……」

 うちの部は結構面倒臭い物ばかり押し付けられることが多いのでそれ相応の実力を求められる。

と言うことはダンディーなオジサマとかだろうか?

「それが何と、ぴっちぴちの18歳。高卒で来たんだって。」

「高卒ぅ?!」

 ここが電車内と言うことを忘れて思わず叫んでしまった。

やばっと思ったときすでに遅し。周りからの視線がいたかった。

しかし高卒でうちの部に配属されるとは……どんだけ優秀なんだその人は。



 そのあと少し雑談して会社に向かった。

自分のロッカーについて気がついた。周りの女性社員がいつも以上に色めき立っている。

もしかして高卒の新入社員が関係しているのだろうか?そう考えていると朝礼の時間になった。


 部長の前に並ぶと、部長の後ろに背の高いイケメンがいた。

きっと彼がその高卒の新入社員だろう。

やはりスペックが高い人間はイケメンが多いんだろうか……

部長も何気にイケメンなのだ。

「えー、皆知っているだろうが今日から新入社員が我々の部に来た。

紹介しよう。宮古 翔太君だ。」

「えっと、よろしくお願いします。」

 え、みやこ しょうた?

みやこ しょうたと言えば中二の頃に幼稚園でなつかれた男の子とそっくり同じ名前じゃないか!

「えーっと、じゃあ宮古君は五林君に世話をしてもらおうかな。

五林、頼んだぞ。」

「え?!私ですか?!」

「なんだ、いやなのか?」

「い、いいいいえ。そう言うわけでは……」

「じゃあ、頼んだぞ。」

「は、はい……」

 何故私がこんな目に……

「よろしくお願いします、璃夢センセ。」

 や、やっぱりぃぃぃぃ!

こいつ、あの時大声で告白してきたしょうた君だ!

「ヨ、ヨロシク……」

 私、やっていけるのか?



 翔太君に仕事を殆ど教え、食堂の確認序でにお昼を食べることにした。

周りからの視線が耐えなかった。まあこんな平々凡々がイケメンの隣で昼食を食べているんだから。

「璃夢センセ、お久し振りですね。」

「あー、うん。ソウダネ。

取り敢えず璃夢センセはやめて。

せめて先輩にして。」

 こいつは何を考えているんだろうか。

私への当て付けか?にしてもここまで手を混む必要はない。

「……何でこの部にきたの?

君は高卒なんでしょ?もう少し大学で学んでもよかったんじゃ?」

「え、何言ってるんでずか。

小さい頃約束したでしょ?

『僕、大きくなったら先生と結婚する!』って。

だから迎えにきたんですよ。センセっ。」

 彼はとても楽しそうに微笑んできた。

迎えにきた?約束?まさか本当に守ってくるとは……

「私が結婚してる可能性は考えなかったの?」

「別れさせます。」

 まさかの即答だった。

もしかして私はとんだ問題児に好かれたんではないだろうか?


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