04・冗長
04
「エリゼ、いるか?」
扉を開けると、上から声がした。
やっぱり、上にいるらしい。
「いる。何、芙佐?」
「アイス、いるか」
「いる、来てよ芙佐」
諒承を得て、俺は鉄階段を上がる。風が心地良い。
校舎で一番高い場所で、エリゼは涼んでいた。ビーチチェアに腰掛けて長い足を投げ出してる。
「ほい、アイス」
「ありがと、なに、どうかしたの?」
「んにゃ、用は無い。単に購買で、お前好きだったろってさ」
ソレに、顔を見たかったのもある。
「ふふん、いい心がけ」
「お前、誰がコレ入れたと思うんだ」
「ソレくらい当然………ん、それでどしたの、コーハイチャンなんか連れて…何、マグメイルでも行くの?」
俺はそこで、後輩が上がって来てる事に気がついた。お前、パンツ見えるかもしれないのに、良く上がったな…そう思ったが、それよりもエリゼの問いに俺は答えた。
「お前、忘れたか」
つまらない話、つまらない事実。もとより彼女が忘れる訳がないのだが、それを言うのは何らかの意図があってだろう。実際、彼女は底意地の悪そうな微笑を浮かべて言った。
「ああ、そそ、そだったうん」
言って、胸ポケットから、煙草を取り出す。
マールボーロのミントだ。職員室からガメた奴だろう。入手場所なんて決まっている。
生徒も持ってるかもしれないが、それよりもループ開始時に職員室で拾った方が早いし。
「最近、行かないし戻ってこないしね、みんな。戻って来ても教室ゾンビになるし」
エリゼは、その片目で俺を見る。中学時代の怪我。変色した瞳が俺を見つめる。
「俺はお前がゾンビにならないのが不思議だよ」
視線をそらし、言う。
「やだー、なにそれ面白くない。暇つぶしの手段なら色々あるもの」
でかいラジカセを、彼女は蹴った。カセットテープまで使える奴。
「何処で見っけた?」
「んー拡張組が行けるようにした、表の民家倉庫から。いいよ、90s」
「お前はそうだもんな。何聞いてんの?」
「電気グルーヴのシャングリラ…なに、その顔。芙佐だってギター弾けるでしょ?」
頬を掻く。
そんな時に、森久保の声がした。
「せんぱーい、戻りましょうよ」
いたな、そう言えば。
「森久保、じゃ、戻ればいいべ、お前いらね」
「べって…しかもイラネ?何ですか、雑くないですか私の扱い」
「おこちゃまだからな」
「おきゃちゃまってなんですかー!!」
事実だろうが、俺は黙っていたが内心思った。そして、意外な事にエリゼが俺を援護した。
「そだよ、芙佐。ちびっ子いでしょ?」
「ああ、そだ小さいもんな、おーよしよし、帰れ、ハウスだハウス」
じとりと、森久保は視線で訴える。なんだよと、俺は言おうとして、エリゼに袖を引っ張られた。
「…あ、そだ、芙佐」
「なに?」
「こないだ戻ってきたグループに着いて知らない?」
「…誰?」
「ほら、腐肉…コロッセオ踏破のパーティー」
話題が、思わぬ方向に転がった。どうでも良い話題だ。
「お前もか」
「お前もって、なあに、誰かから聞かれた?」
「コイツ」
「ああ、そ、ちびちゃんから…でねーちょっと、話題になってんの」
「何が?」
俺が聞くと、彼女は煙草に火をつけながら言う。
「ん、いや、そのね。腐肉を倒したのは、リーダー。って電影部が放送したじゃん?」
「そだな」
話しが長くなりそうだし、日差しも暑いしで、俺はエリゼの近くに座った。
「でね、ところが噂になってんのよ。腐肉を殺したのは、別の奴だって」
「ほぉ…そら、荒れるな」
「でしょでしょ?」
「それで、エリザは何が気になる訳」
一番の疑問。それに、彼女は次の用に答えた。
「んー、嘘つきは行けないなーってそれだけ」
「嘘つけ、お前がそんなもんか」
煙草を抜く。そんな事、思っても無いくせに。
「ヤダ、手癖悪い」
「うっせ。でだ、俺はお前が、そんな野次馬根性でいってねーと勘ぐるんだわ」
アイツの吸う煙草の先に、煙草を押し付け火をつける。ミントの呼気が肺と舌に充ちる。不味いんだよな、だけど吸えるから不思議だ。
「え、そんなに信用ない?」
「ビッチが言っても説得力がな」
「えーひどい、ギャルって言えよ芙佐。…ってね、本題だけど」
エリゼは煙草を捨てる。
「そのパーティーの一人が殺されたわけ」
俺は、思わず顔を森久保と見合わせた。