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05 飛来

「はぁ、やっと終わった…」

 最後のパーツを上で待つトラックに運びこみ、今日の作業は終了だ。結局二人とも戻って来ることはなく、ほとんどを自分一人でやる羽目になった。

 重い足を引きずって倉庫に戻る。

「あ、終わった?」

「うん」(今ごろ登場しても遅せーよ!)

 瑠未が缶ジュースを持ってやってきた。

「ほれ」

「サンキュー」

 缶ジュースを受け取り、豪快に飲んだ。

「屋上行かない?」

 瑠未が言った。

「なんで?」

「いいから、いいから」

 強引に龍也の手を引っ張った。


 ビルの階段を駆け上がり、屋上の扉を開く。ふと、気がつけばもう夜になっていた。雲一つなく、星が輝いていた。

 瑠未が手を離し、ゆっくりと歩いていく。やがてコンクリートの床に寝そべった。その横に龍也もあぐらをかいた。

「乙女座」

「え?」

 瑠未がぼそっとつぶやく。

「ほら、あそこ。青く光ってる星があるでしょ」

「あれってしし座じゃないの?」

「しし座はその隣のやつだよ。じゃなくて、大三角の下の方にあるやつ」

「あー!あれか。分かった分かった」

 龍也が空に指を指して言う。

「ホントに分かってる?」

「分かってるよ。俺だって多少は宇宙のこと勉強してんだからな」

 ふぅ~ん、と頷き起き上がる。一口ジュースを飲むとまた寝そべった。そして瑠未は龍也に問う。

「緊張してない?」

「なにを」

「明後日のことに決まってるでしょ」

「あぁ、そっか。ん~、まぁ、してないって言ったら嘘になる」

「ふふっ、明日になったら緊張するのも忘れるくらい忙しくなるよ」

 瑠未は笑ってそう言った。

「お前は緊張してないの?」

 逆に龍也が聞く。

「してるよ。とっても」

「してんのかい。つっても既に二回フラグメントしてんだろ」

 そう。もう既にこの宇都宮支部では二回のフラグメント作業を成功させている。

「初めてだろうが、三回目だろうが、責任の重さは変わらないでしょ」

「責任か……」

 龍也も考える。もしこの隕石を破壊出来なければ大きな被害が出ることは確かだ。

「そんなこと考えなくていいんじゃね」

「え?」

 瑠未が聞き返した。

「責任とかさ、そんなの考えてたらキリないじゃん。俺なんてただでさえ破壊任務もあるのに、それと同時に一緒にいるみんなの命だって預かってんだから」

「いや、そこは責任感じてよね」

 瑠未が突っ込む。

「やっぱり?」

「あ・た・り・ま・え」

 そう言ったあと、二人は笑った。

「さ!そーろそろ夕飯の時間だ。先行くぜ~」

「あ、ちょっと!先行かないでよ!」


 車の窓の外に見える景色はすこし異様だった。

 全ての建物が風避けのバリケードですっぽりと覆われ、その間にはいくつものレーダーが同じ方向を向いて立っている。

「もうすぐで着くぞ」

 運転手の黒田が片手でハンドルを操作しながら言った。もう他のメンバーは自分たちの仕事があるため先に行っている。

「了解です」

 そう言って、龍也は前方を見た。河川敷の運動公園には多くの作業員と数人のアトラスの制服を着た人たちがいる。明日へ向けて各々準備に取りかかっているようだ。

 車が止まり、黒田から降りていいと言われると龍也はスライドドアを開けた。車を降り、そのまま佐伯のもとへ向かう。黒田は車を停めに行った。

 佐伯もそれに気づき、龍也に近づいてきた。

「今到着しました」

「おう、ごくろうさま。とは言っても大体準備終わっちゃったんだよね」

「あ、そうなんですか」

「うん、まぁ、周りの様子でも見ておいでよ。因みに龍也の立ち位地はあそこね」

 そう言うと佐伯はゴールのないサッカーコートの中心を指差した。

「分かりました」

 龍也はその足でサッカーコートへ向かった。

 センターサークル上にはサーモグラフィーカメラや、超能力の出力を調べる特殊なセンサー、他様々な機械が円の中心を向いて設置されていた。恐らくこれらを使ってフラグメント作業中の龍也の状態をチェックするのだろう。

 向こう岸にはほぼ完成したアルゴスが堂々と佇んでいた。その横にはこれまたバリケードで囲まれている建物が建っている。あれが司令室になる移動式の建物だと龍也は察した。

 ピピピピ…ピピピピ…

 龍也の端末が鳴った。瑠未からだ。

『もしもし、龍也君?』

「もしもし、そうだよ」

『これから明日の流れの確認するから反対の岸の作戦本部まで来てだって』

「了解、すぐ行くよ」

 電話を切ると龍也は走って近くの橋へ向かった。


            *


[予想到達日当日 7:30 予想到達時刻まであと6時間00分]

 浅岡はまだ支部の自室にいた。

 昨日の夜に一通のメールが浅岡のパソコンに送られてきた。

 送信者は──────日本政府。

 明らかに普通ではない。いや、もうこれまでに何回も普通ではないことが巻き起こっているのだが。

 メールの内容はこうだ。

『浅岡研 是非、日本政府にそちらの支部に所属する風間龍也に関する身体データと能力データを提供してくれないだろうか。 良い返事を期待している』

 ここで既に疑問点が二つ出てきた。

 一つは、何故龍也のデータを政府が欲するのか。龍也はただのクラッシャーではないと言うことか。それとも何か大切な秘密を握っているのか。

 もう一つは何故本部ではなく浅岡に直接メールが届いたのか。普通であればまず本部にデータを請求するはずである。

「一体何なんだ…」

 それを考えているだけで朝になってしまった。しかし、そのおかげで少し分かってきた。

 まず、一つ目の疑問。龍也は何か特別な存在なのかということ。これは恐らくイエスだ。

 龍也は中学卒業直後にアトラスへ入った。超能力の修得は短くても3年はかかる。そのためクラッシャーの多くは、隕石飛来発表時に自衛隊から有志を募って育成された人たちだ。だが彼は1年で修得した。しかもSNP法ができるほどに。この時点で彼は少しおかしいのだ。そして、龍也はまだ高校生だ。彼の意志とは言え、すぐにアトラスに入れるべきだったのか。それとも彼がクラッシャーにならなければならない理由でもあったのか。

 二つ目の疑問については簡単だ。本部が政府の要求を断ったのだ。それか、あまり関係ない資料を提供したか。どっちみち本部が隠そうとしたのだろう。だから浅岡のパソコンにメールが届いた。

「こんな感じにしか考えつかないな…」

 久しぶりに頭をフル回転させたので少々疲れた。

 画面上の時計を見た。

「そろそろ時間か」

 大事な本番の前に徹夜をしてしまったが、もともと徹夜には慣れているのでさほど心配することはない。

 浅岡はパソコンの電源を落とし、河川敷へ向かった。


[予想到達日当日 9:00 予想到達時刻まであと4時間30分]

 現場の準備は既に全て整っていた。本部からの能力者や応援も到着し、周りの空気もピリピリしてきた。

 瑠未もアルゴスの最終チェックをしていた。

「角度よし、電波よし、配線よしっと」

 それにしても本番前はとても緊張する。本部から来た人たちもなんだかコワモテだ。

「音楽聞こ」

 瑠未はイヤホンを取りにバッグのある作戦本部へ向かった。その途中、土手に龍也が座ってくつろいでいるのが見えた。随分とのんびりしているものだ。

「お気楽さんだなぁ」

 瑠未はつぶやく。

 話しかけに行こうと土手の方に足を進めた。

「ん?」

 しかしその時、佐伯が龍也のもとへ何かを渡しに行くのが見えた。黒くて丸い玉の様だった。龍也はそれを受け取り、ポケットの中にしまった。

 いったい何を渡したのだろう。

 少し気になったが、やはりイヤホンを取りに行った。



[予想到達日当日 12:30 予想到達時刻まであと1時間00分]

 龍也は半透明の小型ディスプレイが搭載されている専用のヘッドセットをつけた。隕石による強い光を防御し、アルゴスやほかのレーダーから送られるデータや映像を映し出す。他のメンバーは普通のヘッドセットを着けている

「総員、配置についたか」

 耳元から佐伯の声が聞こえる。作戦本部の司令室には佐伯、黒田、浅岡、瑠未そしてほか10人ほどのモニター監視員がいる。外にいるのは反対の岸に龍也と数人の本部直属の能力者だけだ。

「予想到達時刻まで1時間を切った。誤差を考慮し、これより当作戦、及びフラグメント作業を開始する」

 佐伯が力強い声で言った。

 その瞬間、龍也のディスプレイにレーダーやアルゴスから送られる様々な数値や映像が映し出される。

「うし、やるか」

 龍也は小さく、それでいてしっかりとした声でつぶやいた。

 下半身に意識を集中させる。細胞一つ一つで空気を感じるように。そしてぐっと力を入れる。空間に神経を張り巡らせるような感覚がする。そして、力を少し抜く。もう、この一帯は龍也の支配下だ。

「龍也の下半身から能力反応です。風速が0になりました」

 浅岡がモニターを見ながら佐伯に言った。

「足で支配して、手で操るって感じかな」

 佐伯も浅岡の後ろでモニターを見て言った。

「まだ来なさそうですね」

 瑠未はアルゴスの制御画面を確認した。

 この状態が1時間ほど続いた。


[予想到達日当日 13:33 予想到達時刻から03分経過]

 まだ来ない。

 宇宙空間で他の惑星にでも引き寄せられたのだろうか。

 龍也の緊張は最高潮に達した。隕石が怖いのではない。ここではない別の場所に飛来するのだけはやめてほしかった。

「早く来いよ…」

 そう龍也がつぶやいた、その瞬間。ディスプレイに映るアルゴスからの映像に小さな点が現れた。それはこちらへ向かって接近してくる。やがてレーダーがその点の高度を示し始めた。

「来た……!」

 そう確信した時、ヘッドセットから瑠未の声が聞こえた。

『対象が、上空500に達しました』

 佐伯が答える

『分かった。仕事だぞ、龍也』

「任せといてくださいよ。俺がさっさと燃やし尽くしますから」

 龍也は左手を天に突き出した。手のひらを広げる。力を入れた瞬間、辺りの空気が動き出した。


「龍也の左手から強力な反応です」

 モニターにはとてつもない出力パラメータが示されていた。

「片手だけで、こんなに……」

 横で見ていた瑠未が驚きを露わにする。

 その時、速度レーダーのモニターにアラームが鳴った。

「何なの!?」

 急いで確認する。

「どうした?」

 浅岡、黒田、佐伯の三人が同時に聞いた。

「速い…。予想より対象のスピードが速すぎる……!!」

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