04 百目
予測が発表されてから4日目、住民の避難も完了し、龍也たちも自分たちの準備に取りかかっていた。
「望遠鏡ってこんなにデカいの!?」
「あったりまえでしょ、ただの星を見るやつとはまったく別物だからね。さぁ、運んだ運んだ」
宇都宮支部の地下二階、広い倉庫の中にはフラグメント作業に使われる望遠鏡のパーツが並んでいた。
「あそこにシャフトがあるからそれ使って上まで運んでね」
「りょーかい」
本来であれば黒田も手伝う予定だったのだが、急用ができたと言ってどこかへ行ってしまい、結局二人でやることになってしまった。
にしても様々な形のパーツがあり、どれがどの部分なのか見当もつかない。もっとも、普段の生活からはこれらのパーツの全てを熟知し、頭の中の設計図通りに望遠鏡を組み立てている瑠未も想像できないが。
というか、最近瑠未の話し方が変わってきたような気がするのは気のせいだろうか。
「なぁ、これなんて書いてあんの?」
龍也はあるパーツの一点を指して言った。
「どれどれ?」
「なんだろう、アーゴス?アルガス?」
龍也が持つパーツには〈Argos〉と、筆を使ったような書体で大きく刻まれていた。
「あーこれね、〈アルゴス〉って読むんだよ。この望遠鏡の名前」
「この望遠鏡名前なんてついてるんだ」
「そ、アルゴスって言うのはギリシア神話に出てくる百の目を持つ巨人で、死角が無いって言われてるの」
「へぇ、詳しいね」
「自分の使うものくらい、詳しくて当然でしょ」
「まぁ、それもそうだな」
「あ、そうだ。ちょっと待ってて」
瑠未はそう言うと倉庫から出て行き、間もなくして自分のノートパソコンを持って戻ってきた。
「あなたの仕事にも関係あることだから一応説明しておくから」
パソコンが起動する。〈Argos system〉というファイルを開くと、画面にとても細かな図がでてきた。
「アルゴスは天体観測用の望遠鏡みたいに遠くの一点を見るものではないの。どっちかと言うとすごい加工をしたカメラのレンズ部分みたいなもんね。強力な光と衝撃に耐えられるように」
パソコンの図を使って説明していく。
「なんかすごそうなのは分かったけどさ、何をするのに使うの。これ」
「落下中の隕石の状態をリアルタイムであなたと私たちのモニターに伝えるのが主な役割って感じね」
「ほぉ~」
「ってことで、分かったならパーツさっさと運んでよね」
瑠未はパソコンをぱたんと閉じるとまた上に上がって行った。
「龍也、お前もそろそろ気づいたか」
「どわっ!!」
後ろを振り向くと、そこには黒田がニヤニヤしながら立っていた。
「ビックリさせないでくださいよ!」
「いやー、悪い悪い。そこまで驚くとは思ってなかったわ」
頭をポリポリ掻きながら「スマン」と言った。
「その急用とやらは終わったんですか?」
「ああ終わったよ。それより、瑠未ちゃんの喋り方ちょっとおかしいと思ってるだろ」
「はい、どうかしたんですかね」
「いや、あれが本来の瑠未ちゃんだ。お前が来てからしばらくは隠してたが、最近どうやら気を抜いているようだな」
「お、おお」
わざわざ隠しているのを暴露しちゃっていいのかと龍也は突っ込みそうになったが我慢した。
「あの子はいい子だけど結構Sっ気強いからな、耐性つけとけよ」
バシッ!
「痛っ!」
黒田は龍也の背中を叩くと上に上がって行った。
「はぁ……」
「ってか、運ぶの手伝えよ!!」