03 任務
「龍也!一緒に帰ろーぜー」
「おお、いいよ」
学校が終わり、各々が部活動に励んだり家路を急ぐ。
「にしてもさ、龍也もアトラスだなんてビックリしたよ」
「初めて聞いたときの佐久間の顔、めっちゃ面白かったぞ」
「青井も教えてくれりゃあ良かったのにさ、どうせバレるんだし」
少々いじけたように呟く。
「まぁ、男子と一緒に生活しててみんなからイジられるのが嫌だったんじゃないかな?」
「ま、それもそうだな」
佐久間は納得した。
「ところでさ、お前はなんでアトラスに入ったんだよ。実際、高校生でアトラスの奴なんて少ないだろ」
佐久間が問うと、龍也もそれに答えた。
「両親が小さいときに亡くなったんだよ。父親がアトラスの前身の機関に勤めていて、その父親の上司に今まで面倒みてもらってたんだけど、中学卒業したら恩返ししないとな、って思ってさ」
「そーだったんか…。 なんかごめんな」
軽い気持ちで尋ねたことを佐久間は反省した。
「いいよ、気にすんな。それにアトラスの人たちだっていい人だし、この学校の連中も面白いし」
「そりゃ、良かったわ」
そうして二人は笑って歩き、しばらくまた話をして別れた。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさいりゅうちゃん」
奥から斎藤が顔を出した。
「そう言えば瑠未ちゃんは一緒じゃないの?」
「今日は掃除当番で遅れるって言ってましたよ」
「そう、分かったわ。ご飯になったら呼ぶからね」
「了解です」
そう言い、龍也も自室へ向かった。
真新しいベッドに横になる。いくら慣れてきたとは言え、新しい環境下に龍也も疲れを感じていた。
ふと、机の上を見た。そこには幼いころに両親と撮った一枚の写真と、アトラスに入った時に撮ったここの本部長である野田との写真が飾られていた。両親との記憶は微かにしか残っていない。ずっと野田と生活してきたため、彼との記憶がとても強い。
龍也は野田との記憶を振り返る。今思えば数えきれないほどの迷惑をかけてきたのかもしれない。他人の子どもをここまで育てた彼をすごいと感じた。中学1年の秋にあの発表を聞き、その2年後、自分の意志を伝えた。最初野田は驚いたが、その思いを受け入れ準備をしてくれた。彼のためにも自分はここで全力を尽くさねばならない。
「ただいまー」
玄関から瑠未の声が聞こえた。龍也も玄関へ向かった。
「お帰り、掃除にしては長かったんじゃない?」
「帰りに真樹と話してたら遅くなっちゃった」
「そっか、あ、帰ってすぐで悪いんだけど数学のノート見せてくれない?」
「いいけど、なんで?あ、まさか」
瑠未がニヤっと笑った。
「居眠りしやした」
「やっぱり、授業中コックリコックリしてたもんね」
「バレてたか」
当たり前だ、と言わんばかりに大きく頷いた。
すると龍也の後ろから佐伯が姿を現した。
「二人とも、6時になったらミーティングルームに来てくれ」
「なにかあったんですか?」
瑠未が尋ねた。
「ああ、龍也のデビューのお知らせだよ」
5時55分、既にミーティングルームには斎藤を除く5人が集まっていた。
「みんな集まったな。修司、本部と繋いでくれ」
佐伯は全員の集合を確認すると黒田に指示をだした。
「おっす」
黒田は返事をすると、カメラとマイクの準備をし、マイクに向かって準備の完了を伝えた。
すると天井からスクリーンが降り、野田の顔がスクリーンに映った。
「全員いるみたいだね。早速今回の作戦について説明を開始するよ」
画面越しに皆の顔を見回すと、野田は説明を始めた。
「予測日は6日後だ。今回の対象の落下予測地点は宇都宮市北部となっている。佐伯君と事前に話し合った結果、鬼怒川の河川敷で作戦を決行するのがベストだと考えた。詳しい場所は君たちの端末に送っておく」
野田は続ける。
「対象についてだが、レベル3といったところだ。サイズはそんなに大きくないが、失敗すれば大きな被害が出る。心してかかってくれ。詳細なデータは既に浅岡君のコンピューターに転送しておいた。龍也の能力によってSNP法でフラグメント作業を実施する。周囲に強風が起きるため本部の方でバリケードを設置しておく。半径10㎞圏内の住民が一斉に避難することになるので、その補助も頼む。説明は以上だが、何か質問はあるかい?」
野田が問うと、少し間を置いて浅岡が口を開いた。
「我が支部のクラッシャーは今回が初めてのフラグメント作業となります。万が一に備えての対策はどうなっているのでしょうか」
確かに龍也も厳しい訓練を積み、ここに配属されたとは言え、本番は訓練のように失敗は許されない。
「心配はない。龍也が成功させるのが一番ではあるが、万が一のために本部から当日は何名か能力者を派遣する。まぁ、龍也なら一人でやりきれるさ」
「はい、頑張ります」
龍也は強く返事をし、自分に気合いを入れた。
了解しました、と浅岡も返事をすると野田は最後に全員に向かって全力を尽くすよう指示をし、通信を切った。
ついに自分の力を発揮する時が来た。龍也は熱い闘志を胸に秘め、ミーティング終わりの部屋で皆に向かって言った。
「みんな、頼りないかもしれませんが、俺が絶対成功させます」
「ああ、期待してるぞ」
佐伯が龍也の意気込みに答えた。
「龍也君なら絶対成功できるよ。私信じてるから」
「サンキュー」
瑠未にそう言われるとなぜだかとても照れてしまう。
「さ、明日から忙しくなるぞ。早くご飯を食べて、早く寝よう!」
佐伯がそう言うと食堂へみんな駆けていった。