01 始まり
「ここかな?」
立ち止まった青年の前にはボロボロの小さな雑居ビルが両隣の比較的新しいオフィスビルに埋もれるように建っていた。
「あれぇ~?間違ったかなぁ」
もう一度あらかじめ渡されていた地図をよく見たが、確かにこのビルが新しい配属先となっていた。
「まぁ、とりあえず入ってみるか」
青年は恐る恐る、といった感じでビルの玄関前に立ちインターホンを押した。ピーンポーンとは鳴ったが全く返事がない。もう一度押すとやっと中で誰かが向かってくる音がした。
ガチャ
「はい、どうなされましたか?」
中からは中年の作業着を着た男性がコーヒーを片手に出てきた。
「あ、あの本日ここに配属された者なのですが…」
緊張して噛んでしまった。しかし向こうはそんなこと気にしなかった。
「しゃちょーー!新しい人なんて雇いましたっけー?」
いきなり大声を出された青年は体がビクッとなってしまった。
「いやー、そんなの雇ってないぞー!もしかしたら下の人たちじゃないのかー?」
(ん?下?ここって一階じゃないのか?)
「あ!そーかもですねー!分かりましたー!」
中年の男はそう叫ぶと、くるっとこちらを向き建物内の地下へ続く階段を指差した。
「君のお目当てはこっちだね」
そう言うと男性は優しく笑った。
なるほど、納得した青年は彼の着ている作業着をよく見てみると〈○△電工〉と書いてあることに気付いた。
都内某所、大きなホールには世界各国の政府関係者や、研究員が集まっていた。
「あ、あー ボンボンボン」
ホールの舞台の上で、30歳くらいの痩せ方の男がマイクの調子を確かめた。
「皆様、お集まりいただけたでしょうか。これより我が国の隕石処理のシステムについてご説明していきたいと思います」
聞き手からは大きな拍手が送られた。
「ちなみに、私は今回の説明会を行っていきます、特務機関アトラスの畑 良介と申します。今回はよろしくお願いします。」
また彼に拍手が送られた。
「では、さっそく。皆様のご存知の通り、3年半前に発表された隕石の大量飛来によって世界、いや地球は存亡の危機に瀕しました……」
落ち着いて語る畑の話を聞きながら聴衆は恐らく当時の〈あの発表〉について思い出していただろう。世界を大パニックに陥れたあの発表を……
22世紀、科学がめまぐるしく進歩したこの世界で欧米の研究チームがある発表をした。それは世界を大きく混乱させ、同時に地球のピンチを表した。〈隕石の大量飛来〉それは3年後、大きさで言うと東京都23区全てを一度に消滅させるほどの隕石がこの地球に大量飛来するというものだった。それも半永久的に。宇宙のある地点で複数の星が連続的に長期間爆発し、その残骸が引力等によって地球に飛来するのだという。初めは信じる者は誰もいなかった。しかし研究チームから発表される数々のデータがこれを真実とした。
対策に追われた各国は新型ミサイルや特殊レーザーガンの開発を進めようとしたが、国連はこれを認めなかった。
具体的な対策を実行に移せないまま、飛来開始から半年たった今、もう既に20を超える国が跡形なく消えたのだった。
「そんな中、我々は長年研究を続けてきた超能力開発によってこの危機を脱しました」
事実、日本は大きな損害を受けていなかった。憲法によって兵器の開発に制限がかかっている中、日本はついに〈ヒト〉を変えた。
「特務機関アトラスはこの技術を活かし、初飛来日より隕石処理計画、通称〈フラグメント計画〉を実行。今だに死者一人として出していません。それでは、長らく前フリが続きましたが本計画のシステムを説明します」
聴衆の目の色が変わった。
「本計画は二つの方法によって成り立っています。一つは現存の兵器を超能力によってパワーアップさせるストレングスニング法。もう一つは超能力者のみによる処理のSNP法です。両者とも精度は高く、また飛来は五日前にレーダーによって予測できるため被害も最小限に済むというものです」
聴衆は依然聞き入っている。
「細かいところを解説していきましょう。まず……」
畑が自慢げに説明をしていくなか、ホールの後ろで説明を聞いていた野田は興奮していた。彼が会場の様子を見わたし、少し笑ってホールを去っていったのは誰も気付いていない。
ピーンポーン
今度はすぐにドアが開いた。
「お、君が新人か~」
待っていたよ~、という雰囲気を醸し出して迎えてくれた男性は、貰った書類の一番最初に顔写真が載っていた。恐らくこの人がここの所長だろう。
「さぁ、入って入って」
手を引っ張られ中に連れられる。中央の大きな部屋には男性が1人と女性が2人いた。これが初対面だったが不安はなく、少しこれからの生活を楽しみにしている自分がいた。