出会い
「廊下にすら、人が少ない…」
昇降口に近い方が五組で、奥に続いている形の教室だ。そんな廊下を歩きながら他のクラスを覗く蒼。教室の中には、誰もいなかったり、数人いたりとまばらだった。
(げ、また目ぇあった。知らない奴ばっかだな…)
二組の教室を覗いたら、中にいた男子と目が合ってしまった蒼。必死に明後日の方向を向き、足早に通り過ぎる。四組の教室を覗いたときにも、蒼は同じことをしていたため、気まずさが増していた。
(…どっか人のいないとこって、ないのか?)
一組の教室を覗き終わった蒼は少し考えた。左には、反対側の校舎に続く廊下。まっすぐは行き止まりで男子トイレと、少し手前に階段がある。
「こっち側の校舎には、教室しかないよな…じゃあ、あっちかな」
昨日の夜に、高校生活に浮かれた蒼は校内図をずっと眺めていたため、脳内に地図がある。
三階建ての校舎は、北と南に分かれており、北の一階に一年の教室。二階に二年と上に行くにつれ、学年も上がっている。
反対に南側校舎には、そのほかの職員室等がある。
それを知っている蒼は、南校舎を見て回ることにしたのだった。
「…?なんだ、これ?」
南校舎の階段を登りながら、ふとした違和感が蒼を襲う。それは二階に着くと、確実なものにかわった。
「…音、的に…ブラバンの朝練か?」
近くなった音は、それでもまだ遠く、三階から聞こえてくるようだ。蒼は、恐る恐る三階への階段を上っていく。
「……!」
階段を上りきったとき、思わず息を呑んだ。
同じ制服に身を包んだ女子生徒が1人、窓を開けてトランペットを吹いていた。
力強く、とても優しい音色。溢れ出す生き生きした音に、息をする事を忘れて魅入っていた。
その生徒との出会いが、蒼の高校生活を鮮やかに彩ることになるとは、このときは思いもしなかっただろう。