1人の教室
「はぁ…」
真新しい制服に身を包んだ1人の男子生徒が、昇降口で盛大な溜息をついていた。
恨ましげにもう一度時計を見上げると、時刻はやはり『7時30分』を指して折り、蒼はがっくりと肩を落とした。
「仕方ない…行こう」
自分に言い聞かせ、昇降口の中へと入っていった。
「…まあ、当たり前ですよね~…」
『1ー5』と書かれた教室のドアをガラガラと開けると、ものの見事に綺麗さっぱり誰もいない。寧ろ、何故扉が開いたのかさえ疑いたくなるような状態だった。
『佐藤 蒼』そう書かれた紙が机の上に貼ってある席に着く。
彼こと佐藤蒼ーさとうあおーは、この広陵高校に新しく入学してきた生徒だ。この高校は野球部が有名で、甲子園出場も多々あった。蒼は中学から始めた野球を続けるべく、この高校に入学した。身長は165センチと微妙な高さだが、体つきはそれなりだ。
髪は坊主ではなく、短めに整えられている。中学三年のころに部活を辞めてから伸ばしており、もう少し延ばしたかったのだ。
「…よし!校内探検だっ!」
自分の席で、机に突っ伏していた蒼は勢いよく立ち上がり、まだ見ぬ世界へと消えていった。