Utopia
utopia.
ユートピア
ここは楽園です
どこよりも遠い場所にあって、限りなく近い場所にあります。
誰でも見ることができますが、誰の目にも映りません。
ここでは白い服を着た人が暮らしています。男女の区別はあれど、個性はありません。
街は、コンクリートの住居や街路樹が均一に並び、その全てが区画分けされています。
1日は日の出から始まり 日の入りで終わります
ここには永遠の時間があります。老いはありません。忘却もありません。
全ての人は毎日決まった時間に目覚め、決まった時間に就寝します。
朝起きると人の住む建物のポストには紙の束が入れられています。
それは台本です。
人々は終わることのない毎日を台本通りに過ごします。
仕草、台詞、思考、仕事、恋愛、etc
1日の内容が事細かく書かれており、何十万もの住人全員の配役が決まっています。
その日の役を完璧にこなした者は、1日の最期に少しの音楽と美術をたしなむことを許されます。
しかし、多くの人は台本通りに動くことしか知らないので、芸術的感性に目覚める人はごく僅かです。
音楽の才能がある者は『オンガクカ』の役が与えられます。
この役は特別な役で、人数は不明、演奏形態不明の“実体が見えない音楽団”の団員を務めるというものです。
彼らはお互いに顔を合わせたこともなければ、自分以外のパートの演奏すら聴いたことがありません。
彼らは楽団に入団したと同時に体が透けて見えなくなるそうです。本当でも嘘でも、それは誰にも確認できないことです。
団員に選ばれたあかつきには自分用の楽器と譜面台を手にすることができます。
各人はユートピアの中でそれぞれが一番演奏しやすい場所を見つけると、そこで曲を弾き続けます。
彼らもまた、街の住人と同じように1日の内容が楽譜という形で与えられます。
1日中引き続け、日の入りと共に演奏を終えます。
彼らの演奏はこの世界を調律する役割があるらしいのですが、その真の意味は明らかになっていません。
“シキシャ”という人物が楽団の秘密を握っているらしいのですが、彼もまた“見えない”体なものですから、訪ねることはできなさそうです。
ここまで大体の説明を書きましたが、自我が目覚めてしまった私は始末されることでしょう。
この文章が誰かに渡ることを祈って、瓶に詰めます。
いずれあなた方の世界とこの世界は繋がることになるでしょう。
現に、この手紙はあなた側に流れているはずですから。
こちらとそちらの境が無くなるとき、それはあなた方の暮らしがこちらの管理下に置かれるということです。どういう意味かお分かりいただけますよね。
私の力では何もできないので、下にこちら側への行き方と”オンガクカ“達についての私が知っている最後の情報を記します。
ご健闘をお祈りします。
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―異国の誰かからの手紙―
地図らしきものと走り書きは、汚れてほとんど見えない。
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