Drive5.呑と天
「鬼……」
その場にいた皆がざわめく。さすがの蛇丸君もこれには驚いているようだ。
「その手、何か持ってるわね?出してちょうだい」
水留さんが私に向かって手を差し出す。
「わ、私は何も……」
焦って言葉に詰まる。
「他の人達は誤魔化せてもこの水留さんは誤魔化せないわよ」
「……」
ここで断ると余計に怪しまれる。
私は渋々、首から下げていた古びて破れた御守りを差し出す。
水留さんは差し出された御守りを見て呟く。
「酒天童子……封じ!?」
そう言うと慌ただしく席を立ち、会議室から隣の0係の部屋に入ったようだ。バンッと音がする。
ガタンッ!バラバラ……。何かが落ちて散らばったような。
それからしばらくして戻ってきたときには分厚いファイルを抱えていた。そしてゼーゼーと息が荒い。
「……あなた達、資料は、ちゃんと整理、しなさいよね」
これには補助員の原木さんが「すみません」と謝る。
だが三千院さんが「悪い、最近の事件に何か関係している物があるかどうか調べていたからだ」と言うと「あら~。依人ちゃんなら許しちゃうわっ!」とデレデレ。そんな事で良いのだろうか、水留さん。その水留さんが資料をパラパラとめくると私に向き直る。
「あなたの名前、確か天童って言ったわよね?どう書くの?」
「天気の天に童話の童です」と言うと水留さんが資料に書かれている名前を指差しながら説明する。
「酒呑童子は酒天童子、呑を天と書くとも言われていたの」
近くにあったメモに名前を書いて皆に見せた。そして核心を突いてくる。
「もしかしてあなたの家、酒呑童子絡みの家じゃない?」
「……!」
息を呑む。そこまで読まれた!
きっと知りたいのは水留さんだけじゃないだろう。皆の顔がそう言っている。ここまで言われたらもう話すしかない――。
「……私の家は代々、酒呑童子のバラバラになった体の一部、両手とそれに絡み付いた魂を封印しています。そしてその前の守り手・封じていた祖母の力もだんだんと弱まってきたという事もあり、話し合った結果、私の母に封印するという事になりました。しかし母は思っていたより封印する力に耐え切れず……亡くなってしまいました。最期は何も残らず鬼の力に飲み込まれて。それから母を失った父は廃人のようにっ……うっ」
あのときの事を思い出し涙が溢れる。
そんな私の話を皆が黙って聞いている。
「辛かったわね……ごめんなさい」
神楽坂さんが謝る。
「大丈夫です」
すっかり冷めてしまったコーヒーカップを握ると、そこには複雑な顔をした私の顔が映っている。
「ごめん。そんな事になっていたとは思っていなかった。もうこの話はやめよう」
男が出ている水留さん。何で私より辛そうな顔をしているの?
「謝らないで下さい。隠していたのは私ですから」
ふぅ……と息を吐き、私は続けた。
「そこで、元々異形に対する力が祖母くらいではありませんが母よりあったと分かった為、子供の私に封印する事になりました。一時は危なかったそうですが儀式は成功。皆、喜んでいました……。祖母からは御守りと酒呑童子の両手と魂は異形だけでなく、その力を欲している呪術師にも狙われるので、『この事』は他の人に安易に話してはいけないときつく言われていました」
あの儀式は曖昧だが覚えている。「魂移し手」の儀式――。
「なるほどね……。でも何でバラバラなの?」
蛇丸君が聞いてくる。
「酒呑童子は力が強すぎる為、そのまま封印する事ができず、バラバラにして封印するしかなかったそうです」
「バラバラ……という事は他にも封印している家があるの?」
「はい、そう聞いています」
珍しく阿刀さんが聞いてくる。
「後は、当たり前ですが子供の内はお酒は絶対飲んではいけないと言われてきました。『酒と子』で『酒を呑む童子』と名前が揃って封印が解かれてしまう可能性があるからだそうです」
「そうか……」
「話してくれてありがとうございます。とにかく御守りが破れてしまった以上、異形に狙われかねない。危険なので結界を張れる神楽坂の部屋に泊まってもらうしかない。神楽坂、頼まれてくれるか?」
三千院さんが言うと神楽坂さんが「分かりました」と快く承諾してくれた。
皆には大丈夫だと言ったが本当は話したくなかった。思い出したくもないあの日の事を――。




