Drive3.過去から今に
着くと0係の隣にある「会議室」と書かれた部屋に通される。
すると中に一人の男性がいた。
「お帰りなさいませ。ああ、そちらの方が……。私、0係の補助員・原木と申します。どうぞこちらに」
「どうも、天童です」
先に連絡してあったのだろうか?ペコリと頭を下げる。こう言っては何だが他の人に比べたらこれと言って特徴もない普通の人という感じだ。失礼。他が個性的過ぎた。
皆が席に座ると三千院さんが口を開く。
「天童さん、疲れているところ申し訳ないが話を聞かせて欲しい」
原木さんから温かいコーヒーを受け取り「はい」と私は返事をする。
「天童日花さん、19歳。職業は?学生ですか?」
「○○店のアルバイトです」
「あの公園にいたのは?」
「アルバイトの帰りに近くを通ったら具合の悪そうな女性がいたので……声を掛けました」
「そうするとあの面を着けた女性とは知り合いではないという事は間違いないですね?」
「そうです」
嘘はない。
「それと……」
スッと二つに割れたあの般若の面を持ち上げ「この面の事は?」と聞かれる。
もしかして疑われてる?
「何も知りません!」
思わず立ち上がる。その勢いでテーブルが揺れ、コーヒーの水面が私の心のように波立った。
「すみません。疑っているわけではないんです。ただ、情報が少なくて……」
眉間に皺を寄せて深くため息をつく、だいま……おっといけない三千院さん。
「そうよ、日花ちゃん。落ち着いて、大丈夫」
神楽坂さんが優しく声を掛ける。
「どういう事ですか?それに皆さんは――」
今度は私が質問する。
「もうここまで来たら全部話しちゃってもいーんじゃないっすか、ぜんさん」
蛇丸君が椅子にだらーんと寄りかかりながら言う。
「三千院だ。……そうだな。ただし、今から話す事は他言無用にお願いする」
ちゃんと訂正しながら、真剣な顔で言う「ぜんさん」に私は頷いて座り直した。
「この面は……ここ最近都内で発生している奇怪な事件の現場に必ずと言っていい程ある物です。面を着けた者は錯乱状態で人を襲ったり、血塗れの面を残した行方不明者まで出ている。このような普通ではあり得ないような特殊な事件を取り扱うのが俺達、0係の任務です」
「特殊な任務……」
「そうです。皆、それぞれ異形に対抗する術を持っていますがあのとき天童さんも何か使っていませんでしたか?」
「あれは……」
話しても良いのだろうか?嫌な記憶が頭を巡る。でも見られた以上話すしかない。私は重い口を開いた。
「……あれは昔、祖母に教えてもらったおまじないのようなものです。私は小さい頃から異形が見えていましたから」
最初は他の人達も同じように見えているのだと思っていた。普通に話し、遊んだりもした。ところが仲の良い友達に話したところ、状況は一変した。
『日花ちゃんってオバケが見えるんだって』
『こわーい』
『近くにいたらあの世に連れていかれるかも』
『こっちに来るなよ、オバケ日花!』
『ハハハハ!やーい、オバケ日花〜』
どうやら同級生の中で見えるのは私だけらしい。それが原因で数々の嫌がらせを受けた。
『天童さんの所の子とは関わっちゃダメよ』
『嫌だわ。呪われた子なんて』
子供だけではない。大人達までもが忌み嫌う。
おばあちゃんは慰めてくれたが私は地元の子達と関わる事をやめた。高校は離れた所を受け進学、それから上京した。
「……」
小さな頃の記憶が今も鮮明に蘇る。また、気持ち悪がられたりしないだろうか?
あれ?でもこの人達は――
「そのお祖母様は他の能力については……」
「えっと……」
『日花、この事は誰にも話してはいけないよ』
三千院さんの問いをおばあちゃんの声が遮る。でもこの人達のおかげで私は助かった。困っているなら助けになりたい。しかし祖母との約束は破れない。私だけの問題ではなくなるから。何も言えなくなり、手をぎゅっと握って下を向いた。
そのとき
「そうなんだー!だからか。ひーちゃんのおかげで払えたし助かったよな。感謝、感謝!」
三千院さんの質問を遮るように蛇丸君が口を挟む。もしかして私の様子を見て話を変えてくれたのか?
続けて神楽坂さんも「そうね、助かったわ」と言う。
それに「うん」と微笑みながら頷く阿刀さん。
「皆さん……」
何だ。この人達こそ今まで異形と向かい合ってきた専門家ではないか。
この人達なら話しても大丈夫かもしれない。『この事』の重要部分以外は。
だがその思いは早くも打ち砕かれる事になる。
一人の使者によって――。




