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『現代の「総合診療医」が、気合と根性頼みの異世界医療をエビデンスで革新する話』  作者: チョコ大福


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8/10

第8話:幼子の熱とけいれん、打ち破るべき『神隠し』の迷信

第7話に続き、第8話の開幕です!

これまでのエピソードで、大人たちは「呪い」の迷信から脱却し、自分たちで原因を考える力を身につけてきました。しかし今回アレンが直面するのは、かつて多くの命が失われてきた「小児医療」の壁と、子を想うがゆえに親世代が縋り付いてしまった悲しい迷信です。

幼い命を救うため、そして村の未来を守るためにアレンがどのように立ち向かうのか。熱い医療ドラマをお楽しみください!

うだるような初夏の暑さが続く中、フィリア村はかつてないほどの平穏と活気に包まれていた。

アレン・ライトがもたらした「手洗い」「井戸水の煮沸」「生焼け肉の禁止」「こまめな水分補給」、そして「保存食の加熱殺菌」という絶対の掟は、村人たちの生活様式を根本から作り変えていた。村人たちはもはや、原因不明の腹痛や熱を「神の罰」や「悪霊の呪い」と呼んでパニックになることはない。何か異変があれば「水は沸かしたか?」「変なものを食べなかったか?」と、互いに確認し合うほどの知性を身につけていた。

だが、大人の世界でどれほど合理的な思考が育とうとも、この厳しい辺境の村には、未だに深く根を下ろしている「もう一つの迷信」が存在した。

それは、抵抗力の弱い幼い子どもたちに関する古い因習だった。

その日の午後、村の広場に、若い母親エマの張り裂けるような悲鳴が響き渡った。

「いやあああッ! レオ! 私のレオから離れて! お願い、連れて行かないでぇっ!」

ただ事ではない絶叫に、農作業をしていたロルフたちや村人たちが一斉にエマの家へと駆けつけた。

診療所で薬草の調合をしていたアレンも、すぐさま医療カバンを掴んで外へと飛び出した。

エマの家に飛び込むと、そこには異様な光景が広がっていた。

薄暗い部屋のベッドの上で、三歳になるエマの息子・レオが仰向けに倒れ、白目を剥いて全身を激しくガタガタと震わせていた。四肢は硬く突っ張り、口からは細かな泡を吹いている。呼びかけにも全く反応せず、呼吸も不規則になっていた。

エマは半狂乱になって息子にすがりつこうとしていたが、村の老婆たちが数人がかりで彼女の腕を必死に押さえつけていた。

「離して! レオが死んじゃう! 抱きしめてあげなきゃ!」

「駄目だよエマ! 手を出してはならん!」老婆の一人が、涙ながらに厳しく叫んだ。「これは『神隠し』だ! まだ七つにも満たない幼子は、神様に近い存在なんだ。神様が魂を引き戻そうとしているときに大人が触れれば、魂が引き裂かれて呪い殺されてしまう!」

駆けつけたロルフや若い村人たちは、その言葉に一瞬戸惑った。

彼らは自分たちの病気が「呪い」ではないことを学んでいた。ロルフは焦りながらも必死に思考を巡らせた。

「お、おい待てよ! 毒キノコか? いや、レオは今日ずっと家にいたはずだ。水も沸かしたものを飲ませているとエマが言っていた……! なら、一体何が原因なんだ!?」

「大人の病とは違うんだよ!」老婆が悲痛な声で怒鳴り返す。「昔から、幼い子はこうやって突然熱を出し、神様のもとへ帰ってしまうんだ! 誰にもどうしようもない運命なんだよ!」

「――くだらない運命だ。私が今すぐ叩き潰してやる」

静まり返った部屋に、氷のように冷たく、しかし圧倒的な熱量を秘めた声が響いた。

アレンが人混みを掻き分け、迷いのない足取りでベッドへと近づいてきた。

「アレン先生……!」ロルフが安堵の声を漏らす。

老婆たちは立ち塞がろうとしたが、アレンの鋭い眼光に射すくめられ、思わず道を空けた。

「触っては駄目だ、先生! 神様の怒りに触れる!」

「神が子どもの命を奪うというなら、私がその神から命を奪い返す。どいていろ」

アレンはベッドの横に膝をつき、レオの状態を冷静に観察した。

体は火のように熱く、激しいけいれんが続いている。だが、アレンの頭脳データベースは、これが死に直結する絶望的な病ではないことを瞬時に見抜いていた。

「エマ、落ち着いて私の言うことを聞いてくれ」アレンは泣き叫ぶ母親を真っ直ぐに見据えた。「これは神隠しでも、魂が抜けているわけでもない。ただの『熱性けいれん』だ」

「ねつせい……けいれん……?」

「そうだ。子どもの脳はまだ未熟で、急激に高い熱が出ると、脳の神経がパニックを起こして体に誤った信号を送ってしまう。その結果、こうして全身が硬直して震えるんだ。大抵の場合、数分で自然に収まる。命に関わることは稀だ」

アレンは言葉を発しながら、素早い手つきでレオの体を横向きに寝かせた。

「いいか、けいれんを起こしている子どもを無理に抱きしめたり、押さえつけたりしてはいけない。吐き出したもので喉を詰まらせないよう、こうして体を横に向け、衣服の首元を緩めて呼吸を楽にしてやるんだ」

老婆たちは信じられないものを見る目でアレンの処置を見つめていた。

「魂が……神様に呼ばれているわけではないと……?」

「当たり前だ」アレンはレオの脈と呼吸を確認しながら、老婆たちに静かに語りかけた。「あなたたちが神隠しと呼んで恐れてきたのは、医療の知識がなかった時代に、高熱や脱水で命を落としていった子どもたちを前にして、『神の意思だ』と理由をつけなければ親の心が耐えられなかったからだろう。……その悲しみは理解する。だが、今は私がいる。もう悲しい迷信にすがる必要はない」

アレンの言葉に、老婆たちの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。彼女たちもまた、かつて我が子を失い、どうすることもできなかった悲しい過去を抱えていたのだ。

やがて数分が経過し、アレンの言葉通り、レオの全身の激しい震えがゆっくりと収まっていった。固く食いしばられていた顎の力が抜け、正常な呼吸のリズムが戻ってくる。

そして、ゆっくりと目を開けたレオが、「……ふぇっ、あぁぁん!」と大きな声で泣き始めた。

「泣き声が出た。意識が戻った証拠だ」アレンはほっと息をつき、額の汗を拭った。

「レオ! ああ、私のレオ……!」

エマは泣き崩れながら、温かさを取り戻した息子をしっかりと抱きしめた。レオもまた、母親の温もりにしがみついて大声で泣き続けている。

部屋中を包み込んでいた絶望の空気は、親子の温かい涙と、生命力にあふれた産声のような泣き声によって完全に払拭されていた。

ロルフは目頭を押さえながら、アレンに深く頭を下げた。

「先生……今回も、本当にありがとう。俺たち大人は少し賢くなったつもりでいたが、子どものこととなると、どうしても昔の恐怖が蘇っちまった。……やっぱり、先生には敵わないな」

アレンは立ち上がり、静かに白衣の裾を払って、部屋に集まった村人たち――若者から老婆まで全員を真っ直ぐに見据えた。

「子どもは大人を小さくしただけの存在ではない。発熱も早く、突然けいれんを起こすこともある。だが、見えないものを恐れて手をこまねいていれば、救えるはずの命も救えなくなる」

アレンは村の未来を守るための、明確な新しいルールを厳かに言い渡した。

「これからは村の子どもが高熱を出したり、けいれんを起こしたりした際、『神隠し』だと言って放置することを絶対の禁忌とする。子どもがけいれんを起こしたら、決して慌てず、無理に抱きしめず、体を横に向けて呼吸を確保しろ。そして冷たい布で首や脇の下を冷やし、落ち着いてから私のところへ連れてくること。これを村の新たな絶対の掟とする」

村の未来である子どもたち。その小さな命を「見えない神」から取り戻し、人間の手で守り抜くという決意。

アレン・ライトの進める医療改革は、世代を超えた古い悲しみの連鎖を断ち切り、フィリア村に真の近代医療の光をもたらしていくのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第8話「幼子の熱とけいれん、打ち破るべき『神隠し』の迷信」、いかがでしたでしょうか?

今回は「小児医療」と「熱性けいれん」をテーマに、大人たちが合理的に成長したからこそ直面する「子どもに対する親世代・祖父母世代の深い恐怖と迷信」にアレンが寄り添い、そして断ち切るエピソードを描きました。

もちろん今回も、今後けいれんが起きた際の具体的な予防策と対処法を「村の掟」として明確に提示しています。

村全体が過去の悲しみを乗り越えていく温かい群像劇を楽しんでいただけたなら幸いです。

次回は、さらに別の奇妙なトラブルや、いよいよ外の世界との接触が待ち受けているかもしれません。

それでは、第9話でお会いしましょう!

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