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『現代の「総合診療医」が、気合と根性頼みの異世界医療をエビデンスで革新する話』  作者: チョコ大福


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第4話:夏の訪れと、根性論に潜む魔の熱

第3話に続き、いよいよ第4話の開幕です!

今回は春から初夏へと移り変わる季節の中で、村人たちを襲う「見えない熱の脅威」と、根性論に支配された旧態依然とした労働観をアレンが鋭くメスを入れていくエピソードをお届けします。どうぞお楽しみください!

フィリア村を包んでいた冷たい雪解けの空気はみるみるうちに姿を消し、容赦ない初夏の強い日差しが大地を照りつけるようになっていた。厳しい冬を乗り越えた村人たちは、秋の収穫に向けた本格的な畑仕事や農作業に汗を流し、村全体活気に満ち溢れていた。

アレン・ライトがもたらした「食の安全」や「衛生管理」の知識は、今や村人たちの生活の隅々にまで定着しつつあった。生焼けの肉を避けることや、井戸水を煮沸して飲むこと、そして食事前の手洗いは、もはや村の当たり前のルールになっていた。アレンの診療所を訪れる患者も減り、村の平穏は守られているかに見えた。

しかし、季節の変わり目は、人間が想像もしない別の脅威を連れてくる。

その日は朝から雲ひとつない快晴で、気温は急激に上昇していた。ジリジリと肌を焦がすような暑さの中、村の外れにある広大な畑で、働き盛りの農夫であるバートが黙々とクワを振るっていた。

「おい、バート! いい加減に水分をとって休んだらどうだ? あまりに暑いぞ」

近くで作業をしていたロルフが声をかけたが、バートは額の滝のような汗を乱暴に拭い、首を横に振った。

「なにを言うか、ロルフ。これくらいの暑さで弱音を吐いていられるか! 今年こそ村の畑を豊かにするって決めたんだ。休んでいる暇なんてない、気合と根性で乗り切るさ!」

バートは笑いながら再びクワを握りしめ、過酷な労働を続けた。この時代の農村では、「暑さや疲労は気力でねじ伏せるもの」「水をがぶ飲みすると体がだるくなって動けなくなる」という古い根性論が絶対の美徳とされていたのだ。

だが、その数時間後――悲劇は突然訪れた。

「大変だ……! バートが、畑の真ん中で倒れたぞ……!」

村の広場の方から、血相を変えた村人の叫び声が響き渡った。

アレンは診療所の机から顔を上げ、すぐに白衣の裾を翻して飛び出した。

現場に駆けつけると、畑の土の上にぐったりと倒れ込んでいるバートの周りに、村人たちが慌てふためいて集まっていた。

その姿を見たアレンは、一目で異常事態を察知した。バートの顔面は蒼白でありながら、皮膚は異常なほど赤く熱を帯びている。呼吸は浅く荒く、呼びかけても意識が混濁してうめき声を漏らすばかりだった。さらに、足や腕の筋肉が不規則にピクピクと痙攣を起こしている。

居合わせた村長や農作業をしていた男たちは、恐怖に満ちた表情で口々に叫んでいた。

「おい、見てくれ、この高熱だ……! 全身が火のように熱くなっている」

「間違いない……夏の強い日差しのせいで、『灼熱の太陽神の怒り』に触れ、魂を焼き尽くされたんだ……!」

「神父様を呼んで祈祷をしてもらわないと、このままでは脳まで焼き切れて死んでしまうぞ!」

「ふざけたことを言うな」

冷徹でありながらも周囲の空気を凍りつかせるような声が、現場に響き渡った。

アレンは一足飛びにバートの傍らに歩み寄り、その冷ややかな視線を周囲の村人たちに向けた。

「神の怒りだと? いい加減にその馬鹿げた迷信を口にするのはやめろ。この男を殺しかけているのは神などではない。お前たちのその愚劣な根性論だ」

「なっ、アレン先生、 バートは真面目に働き通したんだぞ! 気合が足りなかったわけじゃない!」村長が声を荒げた。

アレンは村長の抗議を無視し、迅速かつ的確にバートの状態を診察していった。

触診し、皮膚の乾燥具合や脈拍、意識の混濁を確認する。頭の中の臨床データベースが、この症状の正体を鮮やかに導き出す。

「熱中症――それも、最悪の段階に達している重度の熱射病だ」

「ねっちゅう……しょう……?」ロルフが呆然と聞き返す。

アレンは立ち上がり、怒気を含んだ鋭い口調で周囲の男たちをねじ伏せるように言い放った。

「お前たちは、『暑さの中で汗をかいても水を飲むな、休まず気合で働け』などという狂った理屈を子どもに教えているそうだな。人間の身体を何だと思っている。過酷な暑さの中で激しく労働すれば、体内で発生した熱が外に逃げ場を失い、さらに大量の発汗によって体内の水分と塩分がごっそり奪われるんだ!」

アレンはバートのぐったりとした体を日陰へと引きずり移動させながら、さらに続けた。

「水分が枯渇し、血液がドロドロになって体温調整の機能が完全に崩壊した結果、脳が焼き切れかけている。これが病の正体だ。呪いでも神の罰でもない。無知な人間が、自らの身体の仕組みを無視して働き続けた結果起きた、完全な『人災』だ」

「ば、馬鹿な……! 水を飲まずに根性で耐えるのが、男の誇りではないのか……!」村長が震えながら反論した。

「そんな誇りで人が何人も死んできたのだろうが!」アレンは冷たく言い放った。「気合で体温が下がるか? 根性で失われた塩分が戻るのか? 精神論で生理現象はごまかせない。人間の身体は、機械と同じだ。燃料と冷却水を断てば、必ず焼き付いて壊れる」

アレンはただちに治療の指揮をとった。

持参した冷たい水を含ませた布でバートの首筋や脇の下、足の付け根といった太い血管が通る場所を徹底的に冷やし、体温を強制的に奪っていく。さらに、診療所から急いで持って来た「適切な塩分と糖分を含んだ経口補水液」を、意識が戻ってきたバートの口に慎重に含ませた。

「無理をするな、少しずつ飲み込め」

アレンの的確で力強い声に導かれ、バートは冷たい水分を喉へと流し込んでいった。

それから数時間――。

アレンの懸命の処置と冷却の甲斐あって、バートを包んでいた異常な高熱は徐々に引き始め、荒かった呼吸も穏やかなものへと変わっていった。顔色の悪さも消え、バートはゆっくりと目を開けると、かすれた声で呟いた。

「ここは……俺は、いったい……」

「気がついたか。……もう少し遅ければ、脳が再起不能になるところだったぞ」アレンは冷ややかに、しかしどこかホッとした表情を浮かべて言った。

周囲で見守っていた村人たちは、バートが自分の足で起き上がれるまでに回復したのを見て、信じられないものを見る目でアレンとバートを交互に見つめていた。

「あんなに高熱でうなされていたバートが……数時間で元に戻った……」

「呪いじゃなかったのか……。暑さと、水分不足が原因だったなんて……」

ロルフはヘルメットを脱ぎ、深々とアレンに頭を下げた。

「アレン先生……俺たちの古い頭が、バートをあんな目に遭わせちまった。気合だの根性だのと言って、仲間を殺しかけた……本当にすまなかった。そして、救ってくれてありがとう……!」

バートもまた、ベッドの代わりの毛布の上から震える手で頭を下げた。

「先生……ありがとうございました。俺は、自分の無知で死にかけるところだった……もう二度と、我慢して働きません……」

村人たちの間に広がっていた恐怖と旧習の影は、今や深い反省と、アレンに対する絶対的な信頼へと変わっていっていた。

アレンは小さく息を吐き、白衣のポケットに両手を突っ込んで静かに目を伏せた。

「自然の暑さは甘く見れば命取りになる。だが、それ以上に恐ろしいのは、『仕方のないことだ』と諦めて思考を放棄する人間の旧習だ。――いいか、これからは暑い日の労働では定期的に必ず休息を取り、塩分と水分を補給することを村全体の義務とする」

窓の外には、初夏のまばゆい太陽の光がフィリア村の緑豊かな大地を照らし出していた。

アレン・ライトの進める医療改革は、自然の猛威と人間の古いメンタリティを打ち破り、着実に村のシステムを近代化へと導いていくのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第4話「夏の訪れと、根性論に潜む魔の熱」、いかがでしたでしょうか?

今回は春から初夏への季節の移行に伴う「熱中症(熱射病)」と、村に根付いていた危険な「根性論・精神論」にアレンが鋭くメスを入れるエピソードをお届けしました。

「気合では生理現象や病気は防げない」という現代医学のロジックが、古い因習を打ち砕くカタルシスを楽しんでいただけたなら幸いです。

次回は、さらに別のトラブルや、村を揺るがす新たな事件、あるいは外部の権威たちとの接触などが待ち受けています。

それでは、第5話でお会いしましょう!

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