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『現代の「総合診療医」が、気合と根性頼みの異世界医療をエビデンスで革新する話』  作者: チョコ大福


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第1話「辺境の村のヤブ医者と、隠された『呪い』の正体」

登場人物

アレン・ライト:本作の主人公。元・優秀な総合診療医(成瀬湊)。過労で倒れ、異世界の辺境にあるフィリア村の若き村医者の肉体に憑依する。魔法の万能感に頼らず、徹底した問診と現代医学のロジックで治療を行う。

レイラ:フィリア村に暮らす少女。突然の倦怠感と関節の痛み、歯ぐきからの出血に倒れ、「森の魔獣の呪い」と村人から信じ込まれている。

ロルフ:レイラの父親で、フィリア村の屈強な猟師。愛娘を救いたい一心で村の神父や祈祷にすがるが、絶望している。

村長:フィリア村の長老。伝統や「魔王・魔獣の呪い」という古い因習を重んじており、当初はアレンのことを「頼りないヤブ医者」と侮っている。

前書き

いよいよ新連載『現代の「総合診療医」が、気合と根性頼みの異世界医療をエビデンスで革新する話』の第1話が開幕です!

魔法万能のファンタジー世界に、現代の「総合診療医」が降り立ったらどうなるのか? 知識チートと温かい人間ドラマをお楽しみください!

冷たい木造の天井が視界に映ったとき、アレン・ライト――かつて日本で総合診療医として昼夜を問わず患者と向き合っていた成瀬湊は、自分が全く見覚えのない場所にいることを悟った。

頭に流れ込んでくる膨大な記憶。ここは剣と魔法が存在するファンタジー世界の、大陸の端っこに位置する寂れた村――「フィリア村」。そしてこの肉体の持ち主である若き村医者アレンは、経験の浅さと知識のなさから、村人たちに「すぐに熱を出して寝込む、頼りないヤブ医者」と陰口を叩かれている男だった。

「……過労死したと思ったら、今度は異世界のヤブ医者かよ」

アレンは苦笑しながら起き上がろうとしたが、その身体はひどく怠く、前任者がいかに不養生であったかを物語っていた。だが、頭の奥にはかつて現場で培った膨大な医学知識と、どんな些細な違和感も見逃さない臨床のデータベースがしっかりと残っている。それが彼の唯一にして最大の武器だった。

ボロボロの診療所で現状を整理していると、外から荒々しい足音が響いた。

「おい、アレン! 頼む、うちの娘を診てくれ……!」

扉を蹴破るようにして飛び込んできたのは、村一番の猟師であるロルフだった。その屈強な男の顔は恐怖と絶望で青ざめ、大きな体躯が小刻みに震えている。

アレンはすぐに表情を引き締め、冷静な声で問うた。

「どうした、落ち着いて話せ。患者の状態は?」

ロルフに連れられて駆けつけたのは、村のはずれにある薄暗い家だった。ベッドの上で苦しそうにうめいているのは、ロルフの娘である少女・レイラだった。

レイラは全身の強い倦怠感に襲われ、関節のあちこちに激痛を訴えて動けなくなっている。さらに、その口元を覗き込むと、歯ぐきからは痛々しく出血しており、皮膚には原因不明の紫色の斑点がいくつも浮かび上がっていた。

居合わせた村長や近隣の住民たちは、おびえた表情で口々に囁き合っていた。

「おい、あれを見ろよ……全身のあざに、歯ぐきからの出血だ」

「間違いない、先月の討伐で森の奥に近づいたせいで、『黒い魔獣の呪い』に憑りつかれたんだ……!」

「神父様を呼んできたほうがいい。こんなの、ヤブ医者のアレンに治せるわけがない」

村人たちは「呪いだ」「魔王の災いだ」と騒ぎ立て、誰もがレイラの死を諦めかけていた。この世界の医療は、高位の聖職者による気休めの祈祷か、魔力を持つエリートだけが使える気まぐれな治癒魔法に頼りきっていた。しかし、治癒魔法は魔力の乱れや外傷には反応するものの、こうした原因不明の慢性的な不調に対しては全く無力、あるいは一時しのぎですらなく、かえって患者の体力を奪うことすらあった。

「おい、待て」

静まり返った部屋に、冷徹でありながら芯のある声が響いた。

アレンはベッドの脇に歩み寄り、冷ややかな視線を周囲の村人たちに向けた。

「呪い、だと? ふざけたことを言うな。医学を冒涜するのもいい加減にしろ」

「なっ、アレン、お前……!」村長が顔をしかめた。

アレンは周囲の視線を無視し、レイラのそばに膝をついた。ここからが総合診療医の真骨頂だ。どんな難解な病気も、患者の身体と生活習慣が発する「サイン」を見逃さなければ、必ず原因にたどり着ける。

アレンはレイラの瞳孔、皮膚の状態、手足の関節を丁寧に触診していく。そして、ロルフに向かって鋭い質問を投げかけた。

「ロルフ。この冬の間、レイラにどんな食事を与えていた?」

「は……? 食事だと?」ロルフは戸惑った様子で答えた。「この辺りは冬の間、作物は育たない。だから保存食の塩漬け肉と、硬い乾燥パンばかりを食べていたが……それがどうした?」

アレンは心の中で確信を得た。視線、歯ぐきの出血、関節痛、皮膚の紫斑。これらはすべて、現代医学においてあまりにも有名な病気の典型的な症状だった。

インフラが未整備で新鮮な食材が手に入らない冬の環境が、彼女の身体をむしばんでいたのだ。

「呪いなどではない。これは、『壊血病かいけつびょう』――そして極度の栄養失調だ」

「はあ……? かいけつ……なんだって?」ロルフが呆然と聞き返す。

アレンは立ち上がり、静かに、だがはっきりと説明を始めた。

「お前たちは冬の間、新鮮な野菜や果物を一切口にせず、塩漬けの肉と保存食だけで過ごした。人間の身体はな、特定の栄養素――『ビタミンC』が長期間不足すると、血管を維持できなくなって全身から出血し、関節や筋肉が耐え難い痛みに襲われるんだ。気合や呪いのせいじゃない。単なる『偏った食生活による栄養不足』だ」

「ば、馬鹿な!」村長が声を荒げた。「肉を食って何が悪い! 昔から冬はそうやって過ごしてきたんだ!」

「だからこそ、毎年冬の終わりに村の若者が動けなくなって『呪いだ』と片付けられてきたんだろう」アレンは冷たく言い放った。「今まで誰も、食事と病気の因果関係に気づかなかっただけだ」

アレンは村の片隅に目を向けさせた。

「この村の近くの雪解け地には、『山橘やまたたちばな』の葉や野草が自生しているはずだ。あれはビタミンCを豊富に含んでいる。それと、保存食ばかりではなく、酸味のある果実の搾り汁を日々の食事に混ぜろ」

半信半疑の表情を浮かべるロルフだったが、わらにもすがる思いでアレンの指示通りに動き始めた。アレンは自ら診療所で調合した適切な水分補給用の補水液(経口補水液)と、ビタミンを含む野草の煮汁をレイラに慎重に飲ませ、衛生的な環境を整えた。

それから、わずか数日――。

「アレン先生……! 先生、来てくれ!」

ロルフが血相を変えてアレンの診療所に飛び込んできた。その顔は恐怖ではなく、あふれ出る涙と驚愕に歪んでいた。

診療所に駆けつけたアレンの目の前で、ベッドに横たわっていたレイラは、自らの足でしっかりと立ち上がり、すっかり健康な顔色を取り戻していた。あんなに苦しんでいた関節の痛みも消え、歯ぐきからの出血もすっかり治まっていた。

「うそだろ……あの子が、あんなに元気に動けるようになった……?」

「呪いじゃなかったのか……? あのヤブ医者が、あんな簡単なことで……!」

後を追ってきた村長や村人たちは、信じられないものを見る目でレイラとアレンを交互に見つめた。魔法の呪文すら唱えず、特別な薬草を高値で買ったわけでもない。アレンが行ったのは、ただ「正しい食事と、生活の知恵」を処方しただけだった。

レイラは涙を流しながら、アレンの手を両手でぎゅっと握りしめた。

「先生……ありがとうございます、私、もうダメだと思っていたのに……生き返ったみたいです……!」

ロルフもまた、その場に崩れ落ちるように膝をつき、大男が声を上げて泣いた。

「ありがとう、アレン先生……! うちの娘を救ってくれて、本当にありがとう……!」

村人たちの間に、どよめきから深い感動へと空気が変わっていく。

これまで「頼りないヤブ医者」と冷遇し、陰口を叩いていた彼らの目は、今や畏敬と圧倒的な信頼の色に染まっていた。

アレンは静かに頷き、自身の白衣の裾を正した。

「当然のことをしたまでだ。……だが、思い知ったか。病の正体は神の気まぐれでも魔王の呪いでもない。人間の無知が生んだ結果だ」

窓の外を見上げると、フィリア村の冷たい空気が春の陽気に変わり始めていた。

アレン・ライトの異世界における医療改革は、こうして小さな村の、たった一人の少女の笑顔から、確かな第一歩を踏み出したのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

第1話、いかがでしたでしょうか? 異世界の「呪い」や「気合」という非科学的な常識を、現代の総合診療医であるアレンが鋭い問診と医学的知識で鮮やかに覆していく、記念すべき幕開けとなりました。

次回からは、さらに別の奇妙な症状や、旧体制の医者たちとの衝突、そして村全体を巻き込んだ大きな改革へと進んでいきます。

それでは、次話でお会いしましょう!

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