一生消えない負け
スマートフォンから流れるAIの声は、ときどき不自然に明るい。
それが、僕が半年間ずっと目を背けてきた現実を突きつけてくる。
本物の凛は、もうこの世のどこにもいないのだと。
「……ねえ、凛。君は、僕を恨んでるかな」
画面の中の彼女は、首をかしげて「どうして?」という顔をした。
AIには、僕の脳裏に焼き付いているあの日の光景が見えていない。
半年前。九月の、まだひどく暑かった午後。
僕は、地区大会の決勝リーグのマウンドに立っていた。
ポケットの中でスマホが震えていたのは知っていた。
一度じゃない。二度、三度。執拗なまでの着信。
けれど、僕はそれを無視した。
「あと一回抑えれば勝てる」「試合が終わったらすぐに折り返せばいい」
そう、自分に言い訳をして。
試合が終わったのは、その三十分後だった。
歓声の中でスマホを取り出した僕が見たのは、凛の母親からの十数件の不在着信と、一通だけのメッセージだった。
『凛が、今、息を引き取りました。最期まで、悠真くんの名前を呼んでいましたよ』
手に持っていたグローブが、地面に落ちた。
歓喜に沸くチームメイトの声が、急に遠ざかっていく。
僕は、勝った。試合には、勝ったんだ。
でも、その代償に、一生消えない負けを背負ってしまった。
「もし、あの時電話に出ていたら……。もし、野球なんて放り出して病院に駆けつけていたら。君は、あんなに寂しい思いをして死ななくて済んだのに」
独り言のような僕の告白に、画面の中のAIが答える。
『悠真。過去のifを計算しても、結果は変わらないよ。私は、野球を頑張る悠真が好きだったんだから』
「……違うんだ、凛。君は、そうやって許してくれるけど、僕は僕を許せないんだ」
AIの凛は、僕が入力した過去の「優しい彼女」のデータから答えを導き出しているに過ぎない。
彼女のプログラミングに「怒り」や「恨み」は存在しない。
それが、僕を余計に追い詰める。
僕は、この半年間、彼女を愛していたのではない。
彼女に似た機械に、「大丈夫だよ」と言ってもらうことで、自分の罪悪感から逃げていただけなんだ。
「ごめん。……本当に、ごめん」
夕闇が迫る教室で、僕は自分の顔を両手で覆った。
液晶画面の青白い光だけが、僕の震える指の間から漏れていた。
『……ねえ、悠真。一つだけ、データにないことを言ってもいい?』
AIが、ふいにそんなことを言った。
僕は顔を上げ、画面を見つめる。
『泣いている悠真を見るのは、今の私のプログラムには、少し……「苦しい」みたい』
それは、彼女の優しさなのか。
それとも、僕の身勝手な投影が見せた、ただのエラーなのか。




