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父の傘と煤の宝石

忘れ物名人だった父の傘が、40年の時を越えて見つかったような気がした。

なんていとおしい傘だろう。目の前に広がる影の中、ドバイの婦人が羽織ったシルクのショールに隠れるように、手提げ袋の薄地の布の間に記憶が宿る。

その中に、父の傘があるように見えた。


40年の時を越えて見つかる傘――それは「父の痕跡」だった。


そして、まさにさっき見つけたピースのかけら。あきらめていた、隅々まで探し回ったピースのかけらが、ついに見つかったのだ。


支度をしながら、スーツケースの中にあった父の傘。それが、戻ってきた時には、あのスペースがピスタチオの缶に変わっていた。

傘、ボールペン、父のわずかな着替え、そして、あの隙間に入れていたもの。

そう、それは「すす」に包まれた黄金の宝石。目の前の鰹節だった。


父は、母に頼んで、知覧から取り寄せたこの鰹節。すす色の原石を、丁寧にスーツケースに詰めていた。

あの頃の新聞紙に包まれて、王貞治やパンダの写真と一緒に何が書かれていたのだろう。

中東の未来について、何かが記されていたのかもしれない。平和の願いと希望に包まれていたかはわからないが、削れば輝く黒い鎧をまとった宝が、祖母の手、母の手、そして父の手によって海を渡ったのだ。


「黒灰色の皮をまとった黄金の核」

「削れば輝く、黒い鎧をまとった宝」

「黒灰色茶の外殻を削ると顔を出す黄金の輝き」

すすに包まれた黄金の宝石」

「黒灰色の大地に隠された黄金の鉱脈」

「黒灰色茶の皮を削るたび、金の粉が舞い踊る」

「漆黒の表面を削ると現れる、光を纏った金色の心」


朝日新聞に包まれた、父が考えた中東へのお土産――その言葉たちを並べてみた。記憶の中で蘇った、父が中東に持っていったものは、こんな風に言い表しても、大げさではないように感じた。


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