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【旧稿】シリーズ 第4部 台所と世界はかわる (知覧編)  作者: 朧月


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鍵のかかったひきだし

鍵のかかった引き出し

だれが、この国の開かずの引き出しを埋めこんだのだろう。父の開かずの引き出しも、海の一粒のようだ。あの特攻隊記念館だけで、太平洋を一粒分。

悲しみが怒りに変わり、さらにその怒りが膨れ上がったら、どうにかなってしまいそうな気がする。自宅のリビングのテーブルに置き忘れたSwitchの白シャツ。今を生き、今を歌う君が言う「当事者意識」が、まるでブーメランのように私の57年をまっぷたつに引き裂いていく。

戦争を知らないというわけではない。私は育ててもらったのだ。血と汗と、見せない涙で。

この国は、引き出しどころか、いくつものものすべてを奪ってきたのだから。

なんで、もっと早く気づかなかったのだろう。気づいたからって、変われる? 変われない?

飛行機が降りる準備を始める。鳥のように、ライト兄弟が孵したグライダーが、たった200年でクジラのような燕に進化した。バラコさんが言う「品種改良」という技術革新のおかげで、みんなで飛びたいという夢が、たった100年で実現した。

私は、57歳で、この羽田に何度降り立ったのだろう。羽田に降り立ったのは37年前の大学1年の夏。鳥と同じこの風景に涙を流していた。迎えに来た家族は、満面の笑みで私を迎えてくれた。お月様のようにふっくらとした顔で。

羽田を見上げると、いつでも思い出す。成人式さえしていなかった私に、この羽田が成人を教えてくれた。

飛行機が下りる。その重力のバランスを崩さぬような息遣いとともに、モナ・リザの微笑みのように、知覧の盆踊り大会が、7歳の夏の夜に浮かんでくる。

いつでも、父の手に引かれながら歩いた距離の横で、あの忘れられない光景。思い出しては、やっぱり忘れようと、幻だと言い聞かせていた幼い私が見た光景。

花火大会。何千の火の玉に囲まれていた。「おとうさん、白い魂みたいなものがたくさん見える」と言った私に、父は静かに前を見つめながら言った。「それは、いきたかった人たちの魂なんだよ。こんなにたくさんいるんだよ」って、確かに言った。

何日も眠れなくなった。

怖いけれど、ずいぶん後になって、お母さんに聞いた。「知覧で、火の玉みたいなものを見た。すごい数だった」と。

お母さんは言った。「昔はよくあったのよ。火の玉が。土葬だったからね。骨にリンという成分が含まれていて、それが反応すると火の玉になるのよ」と。

高校の化学の教科書で習った「リン」という言葉が、ポンと出てくるのが不思議だった。

もしかして、お父さんは、まっすぐ前を見ながら、考えてくれていたのかもしれない。どちらにしても、もうお母さんに聞くのはやめようと思う。




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