知覧
響香の父の育った町 知覧。
大きくなっちょっね。今年も来たっが と
町に人がこえをかけてくれた夏。
それは、昭和50年のころ。
響香の父は、戦時中の話を、語らなかった。
その扉をあけるとき、ちいさな断片をつなげるしかなかった。
知覧茶を飲むときに、あの空がかえってくる。
にいちゃんは、初めてみかんの木をみた。
だから、いったんだ。にいちゃんのぶんもくれって。
うそつけ。っていうから、ちゃんばらで、勝負した。
ないたけど、かったから、もらった。
おこられた。
にいちやんじゃ、わからない。
にいちゃんは、北海道ってとこらからきた。蝦夷のことらしい。
いつも、飛行機の練習にでかける。
夏は、二人でスイカをたべた。川でひやした。
たねは、ぼくが飛ばした。
春ににいちゃんが、かぼちゃ?ときいてきた。
わからないけど、そだてた。
葉っぱが六枚目になったところで、にいちゃんは、先端の葉を一枚つんだ。
てきしん というらしい。
てきしんというのは、
葉にこれいじょうのびるな、つぎは、はなをつけろ と いってきかせることだという。
てきしんをすると、
葉は、二手の分かれて花をつけた。
せんていも した。
ふたりでみてたら、しましまがあらわれた。
おもいだした。
僕が、種をとばした。
二人であっちこっちにたねをとばした。
来年は、スイカばたけだ。
こんなうまいもんは、北海道にない。
と、にいちゃんはいって、リンゴの話をきかせてくれた。
みかんの皮とたねをどうしようかというはなしになった。
にいちゃんは種をひきだしにしまった。
にいちゃんの飛行機はとんだ。
みかんのたねをポケットに入れた日
にいちゃんは、二度とかえってこなかった。
ぼくが、10歳。
ここは、知覧、昭和20ねん。