第一節:目覚めたら、お姫様でした
天井が、やたらと高かった。
私は、白くふかふかした天蓋付きのベッドに横たわっていた。あれ? 私って事故ったんじゃなかったっけ……? と、まだぼんやりした頭で状況を整理しようとする。
手のひらを見る。細くて、白くて、すべすべで、自分のものとは思えない。
「……いや、なにこれ。手、綺麗すぎない?」
声も少し高い気がする。いや、それ以前に——
ふり返ると、鏡の中に自分じゃない誰かが映っていた。
金色の髪。氷のように澄んだ青い瞳。整った顔立ちの美少女。まるでアニメの中から出てきたみたいな……っていうかこれ、
「いやいやいやいや、どう見ても“悪役令嬢”じゃん!!」
突っ込まずにはいられなかった。だって、母が読んでたラノベの表紙にこんな顔の子、何人もいたもん。
まさか、そんなことあるわけ——
「お目覚めになられましたか、第一王女殿下」
「えっ……?」
静かな声と共に、扉の外から入ってきたのは、黒い燕尾服を着た執事だった。年は……五十代くらい? 無表情だけど、どこかあたたかみのある雰囲気の人。
「本日は早朝より“反省の場”にご出席いただく予定でございます。身支度を整えますので、少々お待ちを」
「……は、はい……?」
“反省の場”? なにそれ怖い。
というか私、何かやらかしてたの? 前世じゃなくて、この体の“前の中身”が?
(ま、まさか……これって、ほんとにラノベで読んだ“断罪イベント”前夜のやつじゃん!?)
心臓がバクバクする。
体は動くし、服もふわふわで可愛いし……でも頭の中は混乱しまくりだ。
いや待って。落ち着け私。
異世界転生はさておき、まず確認しなきゃいけないことがある。
「……あの、クラウスさん?」
「はい、クラウスでございます」
「私……その、家族のこと、知りませんか? 父とか、母とか、兄とか、弟とか……」
クラウスと名乗った執事は、わずかに目を細めた。何かを探るような、けれど優しい目つきだった。
「陛下と皇后陛下、第一王子殿下、第二王子殿下は、それぞれ目を覚まされております」
「ほんとに!? 無事なんですか!?」
「ええ。ただ……皆様、それぞれに“様子が違う”と、宮廷内では噂になっております」
(……やっぱり、転生してるの、私だけじゃないんだ)
私の中に、少しずつ確信が芽生えていく。
この体は“第一王女”として、ものすごく悪名高い存在らしい。
でも、前世の家族も一緒にここにいる。
だったら——この滅びかけの世界でも、私、頑張れるかもしれない。
(まずは“断罪イベント”を回避せねば……!)