表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/28

第一章⑪:焼き菓子と小物と、過保護な護衛

「見て弟! あれ、見て! めっちゃ可愛くない!?」


 


 「……見た。視認済み。脅威なし」


 


 「いや、そういうことじゃない! 可愛いって言ってんの!」


 


 パン騒動を一件落着させた私たちは、再び城下町をふらふらと歩いていた。


 手にはちょっとした焼き菓子、目の前には可愛い雑貨屋さん。

 私にとっては観光のハイライト、**“可愛いもの探索タイム”**である。


 


「このガラスの髪飾り、繊細でめちゃくちゃ好み……! 魔法の光加工とかあるのかな……?」


「不規則な反射がある。夜間に装備すれば狙撃リスクが上がる。夜の外出時には避けるべき」


「……買ってもいい?」


「……好きにしろ」


 


 なんだろう、すっごく冷たいようでいて、なんか許可出た!


 


 私は嬉々として髪飾りをひとつ選び、屋台の店主さんにお金を渡した。


 


「可愛いものって、見てるだけで楽しくなるよね」


「……理解はできないが、感情的にはそういうものらしいな」


「じゃあ弟も、何か買ってみたら?」


「……必要な装備は軍で支給されている」


「装備じゃなくて、雑貨だよ!? 何!? 誰!?“必要な装備”って返してくる弟って!!」


 


 通りすがりの人たちがくすくす笑っていた。


 私たちのやりとりは、どうやらちょっと目立っているらしい。


 


「姫様、さっきのパン屋の件、すごかったですよ」


「あ、さっきのお兄さん……」


 


 道端にいた青年が、頭を下げてきた。


 


「姫様が言ってくれなきゃ、誰も何も言えなかった。……ありがとうございました」


「そんな大げさな。私はただ、パンが食べたかっただけだから!」


 


 笑いながらそう答えると、周囲の人たちも柔らかく笑った。


 その場を離れたあと、私は弟にこそっと言った。


 


「ねぇ、ちょっとだけ……嬉しいかも」


「何がだ?」


「なんか、ちゃんとこの世界で“自分”として何かできた、って感じがした」


 


 弟は一瞬だけ黙って、それからぽつりと言った。


 


「……お前は、普通にしてても誰かの役に立ってる。気づいてないだけだ」


 


「え? なに? 今、名言だった? 今の、名言だったよね?」


「撤回する」


「やめてー!? 今ので私のHPめっちゃ回復したのにー!?」


 


 


 観光は、まだ終わらない。


 この町は思った以上に奥が深いし、まだまだ面白そうなものがたくさんある。


 私はローブの裾を握りながら、弟に笑いかけた。


 


「ねぇ、次はあっちの通り行ってみよ?」


「了解。警戒レベルは維持する」


 


「うん。……でも、今日は笑顔のままでいてくれると嬉しいな」


 


 弟は何も言わなかったけれど、ほんの少しだけ、口元が緩んだ気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ