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【兄視点】第一章⑥:我、闇より目覚めし王子なり

——目を覚ましたとき、まず思ったのは。


 


 (……ここは、世界か?)


 


 静かに瞼を開く。目の前にあったのは、異常なまでに豪奢な天井。

 重厚な絨毯、凝った装飾のベッド、そして——長い金髪が視界の端を覆っていた。


 


 自分の手を見た。


 白くて、細くて、骨格は美しい。体は軽く、呼吸は深く、筋肉のバランスも完璧。


 


 ふ、と笑みがこぼれた。


 


「……ようやく、この世界に来たか」


 


 そう。私は知っていた。


 この感覚。この理不尽なまでの造形美と、非現実的な空間。


 これは——異世界。

 そして私は——選ばれし存在。


 


 


「クク……ふはははは……」


 


 天井を仰ぎ、笑いが漏れる。


 どこからか執事らしき人物が慌てて駆け寄ってきたが、私は手を挙げて制した。


 


「下がれ。“我”の覚醒に、干渉することは許されぬ」


 


 執事の表情が一瞬凍ったのを、私は視界の端で確認した。


 


 よし、完璧。


 


 ……いや、わかっている。

 これ、完全に中二病ムーブであることは、痛いほど理解している。


 でも、そういう問題ではない。


 これは“ロール”なのだ。自分の中の魔王系美形キャラが黙っていないのだ。


 


(よくぞ俺をこの舞台に召喚したな、運命よ……)


 


 


* * *


 


 状況を整理したのは、それからすぐだった。


 


 自分は第一王子、“アスティア・カリスティア”というらしい。


 性格:女たらし。脳筋。問題児。社交界では“顔だけ王子”と揶揄されている。

 素晴らしい。完全なる汚名。だからこそ、動きやすい。


 


 王宮の構造、各派閥の構成、貴族同士の繋がり、使用人の立ち位置。

 情報を集めるのに時間はかからなかった。


 


 ——そして、私は決めた。


 


「“シャドウ”を創設する」


 


 


* * *


 


 その日から、私はひそかに動き始めた。


 王宮内の使用人、兵士、書記官、侍女……

 その中に混ざる、**“話を聞ける者”“観察眼を持つ者”“記憶力が異常に高い者”**を、ひとりずつピックアップする。


 


 本人たちは気づいていない。だが私は知っている。


 潜在的に“情報処理に向いている人間”は、意外なところにいる。


 


 その者たちに、あえて曖昧な命令を出す。


 「最近、変なことなかった?」

 「噂になってる話って、何かある?」


 


 情報を報告させ、記録し、マッピングする。


 噂の起点、伝播速度、どの貴族と関係が深いか。全体構造の見取り図が、次第に浮かび上がってくる。


 


 それを私は、手製の“魔導式ノート”に書き留めていった。


 


 (現代で言えば、これは“リアルタイムの情報ネットワーク”だ)


 


 クラウスという執事が、視線を向けてきた。


 


「……第一王子殿下。何をなさっているのですか?」


 


「“影の織糸シャドウ・ウェブ”を構築しているのだ」


 


「は……?」


 


「民の声は風に乗り、城に届く。

 だが、その風が“毒を含んでいる”ならば、王家は滅ぶ。

 ならば、我が網を広げ、風の毒を先んじて刈る。それが“影”の役目だ」


 


 クラウスは一拍置いて、軽くうなずいた。


 


「……ご冗談かと思いましたが、恐ろしく理にかなっておられるのですね」


 


「フッ。見た目と態度に騙される者は、最初に堕ちる。

 だが、我は愚者の皮をかぶった策士なればこそ——この“国の情報”を手中に収めん」


 


 厨二病、爆走中。だが本気。


 


 


* * *


 


 自分が何者なのか。どうあるべきなのか。


 この世界に転生してから、私は迷わなかった。


 


 戦うべき敵は見えている。


 王家を腐らせた旧体制。その影に巣くう“真の毒”。


 


 私は、この城を監視する。


 誰が何を語り、誰と手を取り、誰に牙を向けているのか——


 


 すべての“闇”を、私は記録する。


 


 なぜなら——


 


“影”とは、王のもうひとつの目だからだ。

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