8. 青くてきれいな生き物です
それからさらに五日ほど経って、道の途中で動けなくなることはなくなった。僕がほんの少し体の使い方が分かってきたからなのか、スバルナさんが頃合いを見計らうのが上手くなったおかげなのかは分からないけれど、考えないようにしている。申し訳なさすぎていたたまれないから。
こちらに来てから、毎日空は青くて、風も穏やかで、暖かい日が続いている。今日も僕は社を出て森へ向けて歩き出した。
ピチチチチ!
突然、以前にも聞いたことのある小鳥の囀りが聞こえたかと思うと、次の瞬間、強い風が吹いて、思わずよろけてしまった。
すぐにスバルナさんが駆け寄って支えてくれる。
「すみません。ありがとうございます」
お礼を言って離れようとすると、僕ら二人の上にさっと影が差した。
「??」
雲かと思って見上げたら、大きな牛のような羊のような毛むくじゃらの動物が目の前に降り立つところだった。その額には艶々とした一本角があり、わさわさした毛皮は瑠璃色に輝いている。
見たことのない大きな獣が空から降りてきて、普通なら怖いはずなのに、彼の目がとてもきれいな深い青色で、まるで今日の抜けるように青い空みたいだし、優しい容貌で、なんだか慈愛に満ちているように見えるせいか、ちっとも怖くない。
僕はスバルナさんの腕の中から離れると、ふらふらとその獣に近寄って行った。獣は僕を怖がらせないようにするためか犬や猫がお座りをするような形で動かず、でも、じっと僕を見つめている。
獣のすぐ前に辿り着いて、迷うことなくその体に手を伸ばす。お座りをしていても、見上げるほどの高さに顔がある。僕はまずその腕に手を添えた。獣は目を細めると、前足を折って伏せの姿勢をとった。そうすると、顎を乗せられそうな高さに頭のてっぺんがくる。
思わず首元に手を滑らせて毛並みを撫でると、ふかふかで、でも艶やかで、触ったことのない極上の触り心地だった。遠慮がちに撫でていた手に、いつの間にか力が入り、体もどんどん近づいていたようで、気づいたら、太い首に抱きついて毛並みに顔を埋めていた。その毛並みは暖かいのに、寒い日の清浄な空気のような匂いがした。
ピチチチチ!
柔らかな毛並みに恍惚としていると、割り込むように甲高い囀りが聞こえた。
はっとして顔を上げると、いつか見た白くて小さなふわふわした小鳥が、僕と獣の周りをホバリングしている。獣が、ふんっと鼻を鳴らすとふわりと暖かい空気の流れが起こって、小鳥は僕らの周りを一周してから飛び去っていった。
小鳥を何となく見送ってから、少し体を離して獣の目を覗き込む。やっぱり優しい目をしている。
「瑞獣さま・・・」
スバルナさんの声に振り返ると、スバルナさんと社から出てきたユクリトさんが、こちらに向かって跪いていた。
ん? ずいじゅう、さま??