3. 自己紹介からはじめましょう
前二回があまりにも短くて読みづらかったので、今回から一回分を少し長めにすることにしました。よろしくお願いします!
台を降りると、スバルナさんは自然な様子で僕の手を放してから上向けた手のひらで前方を示す。一言「参りましょう」と言って、二、三歩前を歩き始めた。
人垣を抜けると、次は背の高い木々の間を歩いて行く。何となく振り返ると、後ろには、はじめに声をかけてくれたおじいさんと他にも何人かの大人の男の人がついてきていた。
視線を前に戻し、先導してくれるスバルナさんをまじまじと見つめる。
スバルナさんはすらっと背が高くて、髪の毛もまっすぐでサラッとしていそうで、護衛という言葉から僕が想像してしまうようなゴツさはない。まるで凛々しい牡鹿のような、敏捷そうだけれど優しそうな雰囲気だ。
夏服の僕でも寒さを感じないくらいの気候だからか、おじいさんが長いローブのようなマントのようなもので身を包んでいる以外は、みんな簡単な短めのチュニックを着てズボンを履いている。それぞれ生成りや薄茶色のものばかりで、目に優しい。
顔立ちは皆一様に少し彫が深くて、浅黒く日に焼けていて健康そうだ。みんな、髪を長く伸ばしていて、首の後ろでくくっているみたいだ。
大人の男の人ばかりだからか、体格はみんな僕よりも背も高いし、体の厚みも一回りも二回りも大きいみたいだ。
僕が住んでいる日本とは違う場所なのかなと一瞬思ったけれど、人種がかけ離れている感じはしない。言葉も、多少イントネーションや発音に違和感があるけれど、ほとんどそのままで通じる。
森をしばらく歩くと視界が開け、建物が見えてきた。白っぽい木材で作られた社のようなあまり大きくない建物だ。
スバルナさんが入り口で靴を脱ぐと中へ入ってゆく。
(土禁なんだ・・・)
妙なところが気になりながら僕もあとに続く。僕の後ろについてきていたおじいさんと他の男の人たちも一緒だ。
全員が中へ入ると、まずおじいさんが建物の中央にあぐらをかいて座り、その向かいを指し示しながら僕にも勧めてくれたので、僕も何となくあぐらをかいて座った。通学カバンはすぐ横に置く。
全員が中央を向いて、いわゆる車座というのだろうか、円を描く形になった。
「さて、神子さま。改めてお越しいただいたことに御礼を申し上げます」
おじいさんが穏やかな声で言い、周りの皆と揃って頭を下げる。こんなにたくさんの大人の人に頭を下げられたことのない僕は思わず固まってしまった。
「先ほどすでに名乗りましたが、こちらはスバルナ。あなた様の護衛を務める者です。何かありましたら何でもお言い付けください」
スバルナさんがゆったりと微笑んで軽く頭を下げた。
「そして私はムラの長、オクナと申します。それから、私の隣から順にハヤテナ、ミヤビナ、ユクリトと申します」
みな頭を下げてくれるので、僕もつられてペコペコと頭を下げた。
(たくさんいるけど、名前、覚えられるかな…)
「僕は、田嶋奏多と言います」
みんなに見つめられながら、とりあえず僕も名乗ってペコリと頭を下げた。