神さま、推測する。
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ダンジョンの主とは、カノンが勝手に付けた俗称だ。
一般的には通じない言葉である。
幾度か都合の悪い場所に出来たダンジョンを破壊したことがある彼と、その報告を受けた国王と宰相しか把握していない、ダンジョンの共通点。
それがダンジョンの主の存在だ。
大抵は他の魔物と比較にもならないレベルの凶悪な魔物。
稀に魔物を生み出し続ける、霊玉のような宝石。
もしくはその両方。
若いダンジョンは宝石のみが最深部に鎮座している。
階層も少ないし、破壊するのがとても楽な易しい初心者向けのダンジョンだ。
宝石は破壊しても良いし、浄化して持ち帰っても良い。
ダンジョンの核らしく、それを外に出せばダンジョンは跡形もなく消える。
ダンジョンの中で浄化してしまうと、脱出がリアルタイムアタック状態になるので注意が必要だ。
外に出した後暫く浄化しないと、宝石から滲み出る瘴気のせいで魔物が寄ってくるし、ヘタをすると再びダンジョンが誕生しかねないので、コレもまた注意だ。
ちなみに、カノンの杖についている大粒の霊玉は、ダンジョンから持ち帰ったものだそうだ。
ダンジョンの主としてはかなり若く小さい宝石で、コブシ大。
ソレを聞いたアルベルトが生唾を飲み込んだ。
欲望がダダ漏れである。
ある程度年月が経ち育ってしまったダンジョンだと、その宝石の守護をするように魔物が宝石の前に待ち構えている。
ダンジョンの最深部は、基本的に一部屋しか存在しない。
他のフロアのように迷路になっていたり、通路があったりはしない。
ただ広いだけの空間だ。
その空間に、次から次へと宝石から生み出された魔物同士が、部屋いっぱいになったらどうなるか。
一部は転移陣を使って他の階へと旅立つ。
残った魔物たちは殺し合い、天然の蠱毒状態となる。
元々強い魔物の勝ち抜き戦により選ばれたエリートな魔物は、当然そこら辺の魔物の比じゃないくらいに強い。
月とスッポン。
提灯に釣鐘。
この世界では竜とワイバーンと言うそうだ。
その上蠱毒による呪いまで掛けられているからか、一撃必殺で倒さねばならない。
生半可な攻撃ではすぐに傷が癒えてしまうとか。
そして出来てからかなり経過したダンジョンの場合は、宝石を護るのならばコレが最も効率的だと言わんばかりに、守護していた魔物が体内に取り込んでしまっている。
霊玉と同様、不思議エネルギーが山と詰まった巨大な宝石を、だ。
桁外れなんてレベルじゃないくらいに強い。
理不尽を具現化したのではないか? と思うレベルでバグった強さだそうだ。
正直、相手にしたくない。
過去に二度、このパターンのダンジョンを破壊したと言うカノンは、もう人間辞めてると思うんだ。
そんな話を聞いた後に「俺は二回もそんな魔物をぶっ倒してるんだせ!」と言われましても。
嘘ではないのだろうが、信じ難い。
信じ難いというよりは、ドン引き。
手加減が出来なかったから、さぞかし大きな霊玉を獲られるチャンスだったのに、魔物ごと破壊するしかなかったと悔しそうに、それはそれはもう、とても辛そうに握りこぶしを震わせているので事実なんだろうけどね。
そんな理不尽な存在に心当たりがある。
そう言われても信じることは出来ないだろう。
魔物に知り合いでもいるのかよ、って話だもんな。
ただ、俺の思考を読んだと言わんばかりの「The! ダンジョン!!」が濃密すぎる密度で次から次へと襲ってくるわ、この世界には存在しないはずのテディベア、しかも装飾のオマケ付きが宝箱に鎮座してるわ。
どう考えたっておかしい。
俺の身内だろうと考えるのが自然だろ。
アイツらなら俺の趣味嗜好を把握しているし、人によっては、創作ファンタジーのおもしろさの何たるかを、俺が直々にレクチャーしたことすらある。
なので絞りこめるのは三人。
そのうち、ルーメンは俺のふところに途中まで居たのだが『瘴気や太陽光が届かない所に長時間いるのなんて耐えられない』と言って、途中で離脱していった。
自由人なので仕方ない。
そんな彼女は候補から外される。
こういうモノづくりに適していない大雑把な性格をしているからね。
それに俺の話をイチイチあの人が覚えているとは思えない。
故に違うと断言出来る。
テルモの可能性は捨てきれない。
あの人、俺のモンペだし。
親ではないし、血の繋がり的には他人なのだが。
俺に対して非常に過保護だし、俺のためなんて下らない理由で、時に横暴なまでの理不尽を他人に要求する。
俺にこの先同行するカノンとアルベルトの二人の実力を、それに値するかを見ているのではないだろうか。
もしくは、この程度の困難に対処出来ないならココで死ねと、ふるいにかけているのかも。
そう考えると、ルーメンのように絶対違うとは言えないんだよね。
もう一人も、テルモと同じタイプだ。
生前、あまり表面に出してソレをアピールしてくるような人ではなかったけどね。
テルモは俺への溺愛っぷりを隠さないタイプだったが、その人は影でコッソリと見守るタイプだった。
あぁ、イヤ。
ストーカーとかそういった類のものではない。
甥姪を可愛がる親戚のオジサンのポジションと言うか。
縁の下の力持ちタイプと言うか。
その時はその人が裏で手を回していると気付けないくらいにサラッと、違和感を覚える余地すらないレベルで自然と助けてくれているのだ。
後々、お礼を言うのも変だよな、ってくらいの時間が経過した頃に気付くことが多い。
施設では、人民を管理しやすくするためだったのだろう。
表現の規制がソコソコあり、検閲された創作物しか万人に提供されることがなかった時代が長かった。
俺がその類を読むのが好きだったからだろう。
徐々に表現の自由が増していった。
不自然な言い回しや、ゴッソリエピソードが抜かれたと思わせる違和感が少なくなり、やがて無くなり……
その時期、あの人が昇進して役職に着いた頃と被るよね?
改善されていった規制の数々、そういえば愚痴った覚えがあるな??
みたいな感じだ。
テルモと違って御礼を言っても受け取ってくれない。
あくまで自分は何もしていない体を貫く。
あとは、俺が幼い頃――ホント、小さい頃だ。
五つとかそこら。
実験でシンドい思いをした後に、親や友人の代わりに寄り添って慰めてくれていたのが、その人がくれた大きなクマのぬいぐるみだった時期がある。
知っているのは、監視カメラで覗き見していただろう父親と、ぬいぐるみをくれたその人本人だけ。
だからまぁ、多分、その人の単独犯だと俺は考えている。
そうじゃなければ、ルーメンが一階で瘴気を祓ったりはしなかっただろう。
どの階も、俺たちに向けての戦力強化のための試練として提供された場だろうから。
あとは一応、俺を楽しませるため。
一階は瘴気が充満した迷路でも、霊力を暴走させることなく、正しく扱うための訓練のつもりだったのだと思う。
瘴気が濃い場所だと、相反する性質を持つ霊力を使うのにはコツがいる。
俺なんかは総量が多いから力任せにゴリ押しで解決してしまうことが多い。
ソレをカノンにもよく注意される。
繊細な霊力の扱い方を学ばせようとしたのだと思う。
そういう使い方が必要な場面に、そのうち遭遇するかもしれないからね。
なのに、ルーメンが邪魔をした。
声に出さずとも会話をする手段が精霊にはある。
頭の中の思考を覗かれ脳に直接語りかけてくるような、アレだ。
理由をつけて離脱したのは、多分、その人に怒られたからなのだろう。
地下一階の魔物がひっきりなしに湧き出てきた仕掛けは、アルベルトの力量を見るためかな。
見るためか、カノンに見せるためか。
そこはちょっと判断できない。
アルベルト一人で対処しようとするのは厳しい量の魔物だったし、俺との連携が出来るのかは見たかったと思う。
地下二階は、多分、俺を喜ばせるためだろう。
前の階で頑張ったご褒美的なものだと思う。
こう言う罠があってこうやって回避して、と身振り手振り付きで興奮しながら語ったことがあるから。
その全部が仕掛けられていたんだろうな。
あまりにも密度が濃すぎて対処するのに精一杯で楽しむ余裕なんざ無かったがな!
物には限度というものがあるのだよ。
きっと後半、罠を回避しようと地面を凍らせた時には首を傾げたに違いない。
地下三階は、カノンも連携に加われるかの確認だろうな。
斜に構えてると言うか。
カノンはずっと一人で活動をしていたからか、やや協調性に欠ける。
実力があるから仕方のない部分はあるだろう。
だが、アルベルトが俺たちに着いてくる合格ラインに立っていると判断されたのならば、三人は対等でなければならない。
もしくは、分かりやすく不動の上下関係を築かねばならない。
争いの元になるからね。
今の実力では総合的に見た時、カノン、俺、アルベルトの順になっている。
だが、俺がこの世界の常識を学び、対魔物の戦い方を学んだ時、その順位は変わる。
基本的に強いしね、俺。
散々鍛えられてきたんだもの。
当然だ。
アルベルトは上位の者に媚びへつらうようなタイプではないが、敬意を示すくらいはする。
今でもカノンのことを“賢者様“と言うし。
俺の実力を見誤っていたとは言え、俺に対してはそういう上の者に対しての謙虚さがない。
今更な部分があるし、歳下だし。
別にオレは気にしていない。
舐められるのには慣れている。
だが俺とカノンの順位が逆転した時に、どうなるのか。
カノンを俺の下に置くことは、心情的に出来ないだろう。
世界が認める実力者が相手なのだ。
無理に決まっている。
カノンの性格を考えても、そんなことをしたらのされて終わる。
じゃあ、俺を今更過ぎるタイミングで恭しく扱えるか、と言ったら、それも無理な話だろう。
そうなれば人間関係に亀裂が走る。
ならば最初から、パーティメンバーは対等であるのが一番健康的だ。
なので最初にカノンの頭一つ飛び出た実力の項目である、魔物に対する知識の有用性を潰した。
そして一人でも難なく対処出来ると思っている、ある種の傲慢さを引っ込めない限り、ジリ貧になる状況を作り出した。
カノンの性格上、目の前で人が死ぬのを良しとはしない。
最悪、俺とアルベルトを天秤に掛けた際に、瞬時に俺を優先させることを選択する冷血さは持ち合わせて居るだろうが。
自分が世界に必要なら存在だと自負しているが故に、自分とオレを天秤に掛けた時には迷いが生じる。
そして、自分を優先させるだろう。
三人互いに背中を預けなければ切り抜けるのが困難な試練を与え、俺とカノンに多数で戦うことの有用性を解いた。
その際、アルベルトの性格として、自分の命よりも俺が傷付くことを厭うことを目の当たりにさせた。
カノンが俺を守ることに気を使えない場面が訪れたとしても、アルベルトが代わりに守る。
それこそ、命に変えても。
自分に出来ないことを、彼は迷わず出来る。
それをあの場で証明させた。
一生の付き合いというわけではないのなら。
アルベルトが自分の身の引き際を理解できるのなら。
共に行動をすることを否定するだけの理由はない。
そうカノンに判断させた。
見事な手腕である。
俺の盾役が一人では心許ないと思ったのだろうね。
この世界の名前だと、時を司る精霊クロノスは。
――地下四階。
おめかしをした訳ではないが、俺は装いを替えていた。
地下三階にあった宝箱から出てきたのが、俺のサイズにジャストフィットな衣服だったのだ。
精霊が犯人だ、なんて言っても信じてくれなかった二人だが、そういえば開けていなかったなと開けた宝箱の中身を見て、カノンは理解と納得をしてくれた。
そして賢者がそう言うのならそうなのだろう、とアルベルトも受け入れた。
宝箱に入っていたのが、俺がこの世界に転移した時に着ていた大礼服と同デザインだったからね。
俺の正体と精霊の関係性にある程度気付いているであろうカノンには、納得するのに充分な材料となったのだろう。
なんか、過剰が過ぎると言いたくなるレベルの性能満載な服だったので、せっかくだから着替えることにしたのだ。
カノンが作ってくれた服に文句があるのではない。
この服が優秀過ぎるだけだ。
まるで誂えたように俺のサイズにピッタリだし。
俺のスリーサイズ、把握されてるのかな。
そう思うとちょっとイヤ。
一歩間違えれば悪趣味と言われかねない、だが華美にはなり過ぎていない刺繍と装飾の数々。
全てに防護の付与がされており、歩く要塞と言われかねない防御力が鑑定眼に表示されている。
防御力以外にも、疲労軽減・自動回復。
攻撃力上昇に精霊術に対する耐性一〇〇%などなど……
自分の実力で強くなったのではないのに、勘違いをしてしまいそうだ。
コレ、俺ではなくアリアに着させるべきだと思う。
だって王様だし。
国の要にこそ着てもらうべき装備だろ。
裾詰め直してやるか。
そうは思ったが、いくら堅牢な作りとはいえ、一国の王に一度袖を通したお古を贈るのは失礼だな。
正式にパーティとなった俺たち三人の前に広がっているのは、ミラーハウスのような作りの洞窟だ。
反射しそれぞれの姿を映し出すのは、水晶のように煌めく透明度の高い鉱物。
ガラスのように奥が透き通って見える壁もあるし、景色を映し出しているものもあるし、なかなかに先に進むのが難しい。
空間把握をすれば良いと思うだろ。
だがこの水晶、空間把握に引っ掛からねぇの。
おかげでマッピングしたくても認識できたのが単なる広い空間だけ。
幸い大きな体育感程度の大きさなので、大型の魔物が出て来る心配が要らない。
ただ困るのが、視覚だけでは正確に測れない今この瞬間立っているこの場所の広さ。
何もないと思って手を伸ばせばガラスにぶつかる。
足元に水晶があると思って跨げば、鏡に写った景色でこれまたぶつかる。
厄介なのが、この水晶。
精霊術を弾きやがる。
そして滅茶苦茶硬いから刃が当たれば欠けるか折れるか手が痺れるか。
非常に戦いづらい、先に進みにくい道なのに、魔物が出る。
風景と同化しているせいで、攻撃を仕掛けられないと、いると認識できない厄介なヤツだ。
動いていれば生体反応が現れるのに。
動き出さないことには、ダンジョンの一部と判断されているようで空間把握にすら引っ掛からない。
凶悪すぎる。
外骨種のパピリカに似ているとカノンは言うが、ムステラの時のように外見は同じだけど習性が変わるとかあるかもしれない。
気を引き締めなければな。




