神さま、仲間を得る。
俺なら油断し気が緩んだ所に罠を置く。
罠とは侵入者を貶めるためにあるのだ。
引っ掛かりやすい所を狙って設置するのが定石だろう。
なので安全を考え、転移陣のその奥、宝箱の周囲も全て氷漬けにした。
おかげで今、視界が一面とても寒そうなことになっている。
だがソレが幸をなし、全員気を付けていたため、最後のトラップだった宝箱から放たれる炎も無事に回避。
地下二階もノーダメージでクリアした。
わーパチパチ。
ホント、疲れた。
ドッと急に疲労感が増したよ。
一kmにも満たない距離に、こんなに時間をかけることになるとは思わなかった。
ちなみに、宝箱に入っていたのはブローチだ。
鑑定眼いわく、装備すると寒さや熱さによる影響を受けにくくなるらしい。
だから炎が飛び出すような仕掛けがあっても燃えずに済んだんだね。
まぁ、バッチリ呪われているけど。
聖水をかけて浄化したが、変わらず温度変化に強くなる効果はついたままだ。
「誰が装備する?」
俺もカノンも、装備自体に防寒・防暑の付与をしてある。
それもあり床一面氷漬けでも寒いとは思わない。
景色のせいで体感気温は低く感じられるけど。
あくまで気持ちの問題だ。
涼しいな、程度である。
だが、熱伝導率の良い金属鎧を身につけているアルベルトは歯の根が合わないくらいに寒いらしい。
身体も影響を受けて動かしにくかったろうに。
よく俺を引きずってくれました。
指もかじかんでうまく動かないだろう。
お礼も兼ねて着けてやると、早速効果が出たようだ。
震えが止まった。
どういう原理で効果が得られるのだろうか。
衣服の形ならば遮熱効果が高いのだろうと思えるのだが。
着けた周辺だけではなく身体全体に効果が及ぶのも不思議だし、手を繋いでも俺には何の変化もない。
個人を識別しているってことだよな。
霊力と同様、こういうモンだと受け入れてしまえば良いのだろう。
ただ、やはり未だ地球の感覚が消えないので「すげ〜」って反応だけで終わらせることが出来ない。
難儀なものだ。
次の階へと転移する前に、クマのぬいぐるみがあまりにも邪魔なので背負うことにした。
手荷物を探ってみたら、ロープがまだあったから。
重いものではないし。
赤ん坊のように絶対落としちゃなんねぇ! ってモノでも、くい込んだりしたらうっ血させたり窒息させたりしてしまう!! なんてモノじゃないしね。
細身のロープでもなんとかなる。
マントの上からでも大丈夫かな。
脇の下にヒモを通したら背負って、襟元でクロスさせる。
アルベルトに手伝ってもらってクマの足にヒモを引っ掛けて貰い、ソレをまた前に持ってきて結ぶ。
兵児帯びみたいに幅広の布なら、おしりを支えるように通せばもっと安定度が増すんだけど。
ロープならこんなもんだろ。
ジャンプしても身体から離れずにピッタリとくっついたまま。
これなら負担も掛からないし、手も自由に使える。
ダンジョンから出るものはどれも貴重な品であることが多いから、邪魔だとは言え放り捨てていく選択肢は二人にはない。
なら自分たちで持てよと思うが、似合わないからと断固拒否された。
俺になら似合うってか!?
知ってるよ!!
ついでに頭にリボンでも付けてやろうか。
きっと似合うぞ。
嬉しくないけど。
――地下三階。
ようやく、なんかソレっぽくなったと言うか。
地面は石造り。
その周りは硬そうな土壁。
魔物はソコソコいるが、地下一階の時みたいに問答無用で一直線に襲ってくることはない。
視界に入れば本能に従い牙を剥くのだろうが。
上二階と違い、真っ直ぐな一本道ではない。
ソコソコ広く、行き止まりはない。
どこの道を通っても、遠回りにはなるが、最終的にたどり着く場所は決まっている。
ソコに地下四階に続く転移陣があるのだろう。
どんな魔物がいるのかにもよるが、集団で襲ってくることはないタイプのようだ。
どの魔物も、ある一定の間隔を開けて気配が点在している。
縄張りを主張する単独行動種ってなんだろ。
大猫種がそうだよな。
街で仕留めたクマを思い出す。
そういえば、大猫種と違ってこのクマのぬいぐるみは、テディベアを連想させる可愛らしい外見をしているな。
それにぬいぐるみなんて、衣服を作るのも大変なこの世界に需要はあるのだろうか。
それを言い出したら、そもそも過去にそんな物が存在したのかすら怪しい。
だって地球ですら、ぬいぐるみの歴史ってかなり浅かったんだぞ。
どれくらいって、市場に出回るようになったものは二〇世紀に入ってから。
当時のアメリカ大統領の愛称・テディをその名の由来とするクマのぬいぐるみが、その起源だ。
そのテディベアを作った会社の創業者が、親戚の子供のためにフェルトで作った小さなゾウの人形が、世界で最初に作られたぬいぐるみとされている。
布は用途が幅広いからね。
衣服がほつれたり破れたりしても、つぎはぎして長く使うのが当然だった。
修復できない物でも解いて使える部分は別のものに作りかえたし、最後は雑巾としてすら使えなくなるようなズタボロの状態まで使い倒して、ようやく廃棄。
そんな貴重品を玩具の類に使うという発想が当時はなかっただろう。
酔狂となじられたこともあるかもしれないね。
それ位に布は大事な、親から子へと受け継がれていくようなものだったのだ。
この世界の水準を考えても、布をこんな無駄遣い出来るとは思えない。
やはり、ダンジョンに俺の思考でも読み取られているのだろうか。
ペンナウルスと同様、大猫種と分類されるムステラ。
硬い体毛に覆われた、体長一〇〇cm程の四足獣で、頭からシッポにかけて一直線には伸びる模様が特徴。
その色によって使える精霊術の種類や食性が変わる。
茶褐色なら地属性で土の中で暮らしている。
嗅覚が鋭く振動に敏感。
寝床の上を通った獲物を、地中から直接ハントする。
足を手を、地面の中に捕らわれた獲物は抵抗することも出来ずに腹部を食い破られ絶命する。
緑色なら風属性で木々の上で暮らしている。
熱を帯びた対象を観測すると、木の上からその背に襲いかかり、頚部をガブリと一口で噛みちぎる。
マダニのようなヤツだな。
赤褐色なら火属性。
マグマの中を泳いでいる姿が確認されている。
どのように狩りをするのかは不明だが、他の色のムステラと同様、えげつない方法で狩りをすると考えられている。
進んだ先にいたのは、そのムステラの茶褐色の模様を持つ個体だった。
ダンジョンは傷付けられないって仮説、違うのかもしれないね。
検証の数は少ないものの、合っていると思ったんだけどな。
最初姿を確認した時は、何とも思わなかったんだよ。
あ、ココ曲がったら前方に魔物いるわ〜、と特に身構えることもなく軽いノリだった。
歩く魔物図鑑であるカノンがウンチクを垂れて、まぁダンジョンだから土の中から攻撃されるなんてことは無いだろう、なんて言っていたのだ。
……ソレがフラグになるだなんて思わないじゃん。
背中側の体毛がかなり硬いので腹側を狙うか、模様が入っている体毛部分を逆属性で攻撃しろと言われた。
ムステラは攻撃してくる時は術を使う。
その瞬間を狙うと、精霊術による攻撃が通りやすいらしい。
群れて行動しないムステラならば、実力を落ち着いて観察出来るだろう。
そう言って少し離れた位置まで下がり、壁に身体を預けようとしたカノンの横から、ムステラが生えてきた。
イヤ、生えてきたように見えただけで、実際は壁に空いた穴から攻撃を仕掛けてきた。
大きく開けられた口から覗く鋭い牙が、カノンの喉元を狙う。
この老骨には慌てるとか動揺するとか、平常心を失うことがないのだろう。
首の代わりに杖を咬ませ、飛び出してきた勢いをそのまま利用して壁からムステラを引きずり出し、腹を目掛けて一発。
風の矢を穿ち絶命させた。
早い。
ソレを皮切りに、上から横からカラフルなムステラが出てくる、出てくる。
生息区域はそれぞれの色で違うんじゃ無かったのか!?
それに群れて行動しないっていってた割りに、滅茶苦茶連携を取っているような動きをするんですけど!!?
ダンジョンの魔物は外と似て非なるものだとは言っていたが、正しく、だね。
同じ外見でもちょっと強い、の“ちょっと”の部分が集団による連携攻撃なのだろう。
ぶっちゃけ、一対一で各個撃破していくのと、複数体を一気に片付けるのとでは、難易度にかなり差が出来るのだが。
このダンジョンは意地が悪すぎるのではないだろうか。
噛みつかれそうになったらガントレットで防ぎ払い落とし、なるべく一対一の状態になるよう持っていきながら、アルベルトも頑張っては居る。
だが、通常なら壁に背中を預け正面だけ気にしていれば良い。
だがこのムステラはその壁からも襲ってくるのだ。
四方を気にしなければならない。
しかもムステラが空けた穴は即座に塞がり、同じ場所にまた穴が空き再び襲ってくることもあれば、全く見当違いな場所から湧いて出て来ることもある。
完全に予想がつかない。
首しか狙ってこないので、ある意味攻撃してくる場所は予測しやすく防御もしやすい。
だが、限度って言うものがあってだね。
三、四匹程度なら問題なくさばけていたが、それが六匹、十匹と増えていくたびに押され気味になってきた。
俺が修復・強化した剣だ。
切れ味は増しているし重量はいじっていないのだから、勝手が違って扱いにくくなっている、なんて言い訳は出来ないだろう。
少なくとも、数はこの比ではない位の量の魔物が押し寄せてきたが、ザコばかりだった地下一階では、こんな戦況にはなっていなかった。
俺のことを気にかける余裕があったし、一撃で確実に仕留められていた。
だが、ムステラのようにすばしっこい上、攻撃も重いと、いなすだけで体力が奪われる。
長期戦に持ち込まれると、シンドいだろうな。
イヤ、俺だってさっさと戦闘終わらせたいよ。
壁から身体の一部だけでも出てこないと、気配察知に引っ掛からないから、神経研ぎ澄ましていないと不意打ちを喰らうし。
メッチャ疲れる。
いつ終わんの、コレ〜。
結局、地下一階の時よりは早く終わった。
が。
暫く歩くとまた別の魔物の大群に襲われ三人とも、転移陣にたどり着く頃には燃え尽き症候群のように、ゲンナリと項垂れてしてしまった。
気配察知に引っかかった魔物に見つかるのが、魔物の大群が押し寄せてくるトリガーになるようなので、なるべく遠回りをして、なるべく魔物とエンカウントしないようにはしたんだけどね。
カノンも珍しく疲れたようで息を乱している。
途中からアルベルトを観察するのを辞め、三人背中合わせで戦うことで、随分楽にはなったのだが。
最初っから協力体制で挑んでいれば楽だったね。
王都で会った冒険者が、皆パーティを組んでいた理由はよく分かった。
最低でも二人組だったもんね。
多数に囲まれた時に、仲間がいるってだけで圧倒的に負担が減る。
背後を気にしなくて良いだけで疲れ方が全然違うのだ。
疲れが溜まれば身体的な動きも鈍くなるし、判断力だって低下する。
その判断ミスで命を失う可能性があるのが冒険者稼業だ。
生存率を上げるためにも、背中を預けられる仲間を持つことは、冒険者にとって必須なのだろう。
どうしてもカノンが基準になっているので失念してしまうが、一人で旅をすることの方が稀なのだ。
コイツが変。
コイツがおかしい。
アルベルトから旅の仲間を自分の思いつきで奪ってしまったのだから、責任を持たねばならないのではなかろうか。
なにも、彼が死ぬまで面倒を見なきゃ行けないとか、行く先々全てに同行させるとか、そういうことを言っているのではない。
次の旅の目的地を告げ、着いてくるかの確認を取る。
アルベルトが俺たちについて行きたいと言えば同行させる。
無闇矢鱈と追い払わない。
その程度で良いなら、するべきだ。
俺の考えを述べると、アルベルトは嬉しい気持ちの勢いを行動にそのまま移そうとバンザイをしかけ、その手を途中で止めた。
カノンから許可が出なければ同行させられないと、最初から言っているもんね。
俺がどっちでも良いよって立場から、同行したい気持ちがあるうちはさせるべき、に変わっただけだから。
最終決定権を持ったカノンは、いつも通り深いため息をつき、自分が持っていた聖水をアルベルトに投げて寄越し、その場に腰を下ろした。
前の階までは、引き返すかどうか話し合ってから短時間の休憩を入れていた。
カノンに関しては、万が一があるといけないと考えたのか、いつも立ったままだった。
アルベルトは手持ちの水を飲むか、疲労を見かねた俺が聖水を分けるかのどちらかだった。
聖水は一般的には希少品だからね。
それを、分けた。
自分の手持ち分を。
つまり、同行の許可が出た。
そう思って良いと言うことだろう。
今度こそ諸手を挙げて喜びを表現するアルベルト。
せっかくなのでノッて互いの掌を叩いたり拳を打ち合わせたりする。
その後カノンにならって腰を下ろして水を飲み、兵糧丸を口に含んでカロリーを摂取した。
あと、ドライフルーツ。
疲れた時にはクエン酸が一番だからね。
お祝いも兼ねた甘味なので、二人にも分けてあげよう。
アルベルトが正式な同行者として認められたので、せっかくだから打ち明けておいた方が良いことを言っておこう。
「俺、ここのダンジョンの主、誰か分かったわ」




