神さま、彼の人物に思いを馳せる。
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万が一第三者に見つかっても言い訳の立つカノンに、建物の上部に設置する防護壁展開用の装置を設置してもらう。
上を見ながら歩く人はそうそういないだろう。
見つからないならソレで良い。
だが、あの高さは遠くからだとよく見える。
遠目に見た時、屋根の上でゴソゴソしている姿は不審者にしか見えない。
俺が見つかったら大騒ぎになること間違いなし。
なにせ、完全な部外者だし。
そして全力で逃げるし。
力の限り精霊術も「スキル」も駆使して疾走するので決して捕まりはしないが、やれ敵国の侵入者か、やれ国王暗殺かなどと騒がれたら、今後敵さんが動きにくくなる。
主教を処分するための証拠は充分揃っているというが、証拠というものは沢山あるに越したことはない。
コレを機に、芋づる式に王都に蔓延る後暗い感情を持っている人たちを一気に炙り出して処してしまった方が後々楽だ。
そのためにも俺は大人しくしていなければならない。
煙と一緒で高い所は好きなんだけどね。
今回は我慢しよう。
カノンでも屋根の上になんて登っていたら騒がれるだろうが、身元がしっかりしているので騒動になることはない。
何をしてるんだ、あの滅多に城に立ち寄ることもなく妹に仕事を押し付けている兄は、と怪訝な顔はされるだろうが。
だが、傀儡の国王と共に、昼行灯の放蕩ダメ兄貴と思わせておいた方が、コチラは動きやすくなるからね。
ぜひ侮って貰いたい。
城郭上に設置する分は憲兵さんたちに任せるとして。
王宮内の装置の設置場所はアリアも知っていた方が都合が良い。
バカな兄は自分お手製の装置が妹を守ってくれるから大丈夫、とでも思っていたのだろう。
だが念には念を入れるのであれば、その装置を自分の判断でも使えるようにさせておかねばならないのだよ。
身内全部が敵に回ったとしても、自分の身は自分で守れるようになっておかないとね。
その大事な大事な妹御の樹の妖精と手を繋ぎながら歩く姿は正に、お気に入りのヌイグルミと一緒にお出掛けをしている幼女のソレだ。
こんな可愛らしい存在が、いくら安全が約束されている王宮内とはいえ、護衛も従者もつくことなく一人で歩いていて良いのだろうか。
イヤ、良いはずがない。
警護の人員すら全く見当たらないのは、一体どういうことなのだろうか。
まぁ、クロノスという精霊の王様の一柱と契約をしているのであれば、属性関係なく精霊が守ってくれるか。
周囲に存在しているのは微精霊だけとはいえ、それでも何もないよりはマシだろう。
攻撃されたとしても一、二発程度なら、微精霊でも防いでくれる。
まぁ、その微精霊は間違いなく消滅するが。
樹の妖精を今のように近くに侍らすのであれば、こんな見た目でも樹の妖精は中位の精霊並の力を持っている。
下手な護衛よりは役に立つだろう。
それならいっそのこと、本当にヌイグルミのように擬態させるか?
お洋服を着せてリボンでもつけて。
地の精霊の眷属化をしているから、地面から霊力を補給するようになっているハズなのだけど。
聞いたら霊玉を身に付けても良いし、聖水を飲んでも霊力は回復するから問題ないと言われた。
ならば、胸元に装飾品のように霊玉を取り付けたリボンでも結ぶか。
その結論を聞き出すまでに五分は掛かったが。
ホント、この喋り方どうにかしてくれ。
あぁ、ちなみに土のなかに埋もれて霊力を回復するのは趣味だそうだ。
地面に足をつけているだけでも少しずつは回復される。
森に住んでいる樹の妖精はイタズラ好きなこともあり、木に擬態して根っこから霊玉を取り込みつつ、通りかかった人々を驚かせることもあるとか。
瘴気に汚染されている大気や大地から霊力を補給しようとして、自分たちでも気付かないうちに魔物化してしまうから、驚かせるだけで済まない場合もあるようだが。
その話を聞いていたアリアが、目の前の樹の妖精と‘’エルフの墓所‘’や‘’魔境の森‘’などで目撃例のある樹の妖精が同じ種族だとは思わなかったと驚いた。
俺は魔物の方を見たことがないから、驚く理由がイマイチ分からない。
性格や雰囲気が正反対、と言われても、真面目にキビキビ動く姿しか想像出来ずに、なんのギャグだ? と疑問に思うしかなかった。
守りの要となるのが王宮なので、王宮周辺には今までの倍量、装置を設置する。
意図的に壊されやすく作った、自己主張の強い装置もココに設置する。
人に見回り点検させる派手なのと、ガッツリ隠して微精霊に点検させる分と用意した。
後者はちょっとやそっとじゃ見分けがつかないくらいに自然物に溶け込ませた上、認識阻害の付与もした。
コレで、ココにある、と確固たる自信を持って注視しなければまず見つけられない。
設置場所と設置したモノの形を知っている俺、カノン、アリアの三人にしか発見できないだろう。
前者の装置は、破壊された時の衝撃をスイッチに、周辺の風景を録画するための媒体も付けておいた。
ビデオカメラの類はこの世界にはないが、カノンのトンデモ発明だと言えば周囲は納得するだろう。
その時が来てしまった時には、反逆者の証拠品として突きつければ良い。
アリアは内部犯がいると考えたくは無いようだが。
まぁ、気持ちと事実って大抵乖離しているよね。
彼女も、ソレを知っているからこそ、伏し目がちに言葉を零したのだろう。
「レイム様は、お兄様とどう言ったご関係なのですか?」
設置作業も中頃、というなんとも中途半端な段階で、ふいにアリアが尋ねてきた。
探ってみるが、カノンの気配はない。
彼に聞かせるためにした質問ではないのか。
「カノンからシルフィードを貰ったのでしょう?
浜辺に倒れている所を保護して頂きました」
「それが全て事実だとは思えません。
お兄様が事前に寄越した報せの人物と、実際に拝見した貴方様の人物像が、どうしても一致しないのです」
水晶球の白滝の森で出していた手紙の前にも、シルフィードで連絡を取っていたと言っていたもんな。
何を言ってあったんだ、あの男。
記憶喪失であること。
見たことのない服装をした不審人物で、敵諸外国の人間かもしれないこと。
精霊、しかもとびきり上位の存在と懇意にしていそうなこと。
うまく使えれば、とても利になりそうな人物であること。
そして、大昔に三英雄に裁かれたとされる、魔王とも呼べるべき人物と同じ特徴の外見をもつこと。
そんなことを言っていたそうだ。
シルフィードは長文の言葉を運べない。
だが単語のやり取りが多くなりがちな、誤解を与えることもある連絡手段ではあるが、手紙のように途中でも紛失する恐れはなく、届くのに時間もさほどかからない。
なによりも、検閲がされない。
不便な所は多少あれども、精霊術師から重宝されている通信手段である。
それに発信側と受信側、双方のベースの霊力値が高ければそこそこの文章なら届けることが出来る。
二人の間ならば、結構な情報量でやり取りがされていたことだろう。
なのにも関わらず、俺のことを語るカノンの声の大半は、アリアに届けられることはなかった。
そこだけうっかり霊力が通されなかったかのように、誰かの意思を感じさせる、無音。
その後度々見られる現象になるのだが、初めての出来事に、当時はパニックになりかけたそうだ。
ごめん。
俺の不利になりそうな言葉の多くは、恐らく、ウェントスに消されたのだろう。
不審人物って部分も消せよ、あのヤロウ。
そのシルフィードを受け取ったアリアは、俺という存在に、何よりも恐怖を感じたという。
そりゃそうだ。
魔王だの大悪党だの言われているヤツと関わりが出来た途端、今まで起こらなかった不可解な現象が起きたのだから。
自分も伝承のように、その犠牲になるのではないかと想像してしまうのは致し方のないことだろう。
「今はそんなことないのですよ。
私の淹れたお茶を心から愉しんで褒めて下さった方ですから。
注意すべき力を持っているのは事実ですが、それを故意に悪用なさる方ではないと、分かりますから」
自分の目を指差しそう微笑むアリア。
微妙な霊力の揺らぎと共に、朧気にその瞳の色も変化する。
俺の鑑定眼の下位互換とでも言えば良いのだろうか。
彼女の眼は、悪意も含めた感情が滲んで見えるそうだ。
言葉に色がついたように裏表を判別できてしまう。
表情も、おべっかを言うような輩だと能面が張り付いているように見え、その人の性根が浮かび上がり、それはもう気持ちの悪い仮面をつけたように見えるそうだ。
アリアより強い霊力の持ち主だと見えないのか、単にそういう人たちに裏表がないだけなのかはまでは判断できていないが、カノンと二人の叔父さん以外は皆、仮面をかぶって見えている。
なので良くないことと分かっていても、人を遠ざけてしまうのだとか。
だから、王宮の心臓部には殆ど人がいない。
彼女自身も強い精霊術師とは言え、この国のトップなのだ。
本来ならば窘めるべきだろう。
だがそんな状態では、人間不信になってしまうのは仕方のないことだ。
だが、その眼も、使い続けなければ制御はいつまで経っても出来ないままだ。
俺も鑑定眼がそうだったからね。
良い意味でウソをつく人もいるだろう。
そういう人から慣らしていけると良いのだが。
本当に怖いのは、悪意なく人を害する者だからね。
俺はどうだろうな。
自分の心に正直な言葉を言っているし、行動も起こしている。
だが無自覚に迷惑をかけることは多いし、今後もそうなることは多いだろう。
主に一番身近にいるカノンがその被害を被っているのだが。
「人よりも遥か高次元の存在である精霊様たちを従える力を持った貴方様は、確かに畏れる存在ではあります。
その評価は変わりません。
ですが、精霊様が付き従う程の方であるからこそ、邪な思考の持ち主ではないことが分かります。
それならば敵にさえならなければ良いかな、と言うのが私の考えです」
「味方に、ではないのですか?」
王自ら扉を開けるその様は、決して本来ならば許されることではないだろう。
だが、慣れているようで大きな扉は音を立てながらもしっかりと開け放たれた。
和風な調度品が並ぶその奥。
周囲とは不似合いではあるが、立派な額装に飾られた、大きな人物画が飾られている。
なぜ、待ち合わせ場所とは違う方へと歩みを進めるのかと思ったが、アリアはこの肖像画を俺に見せたかったのだろう。
「あら、強大な力を持つ者を、私程度が御せれるだなんて、そんな尊大な考えは持ち合わせておりませんもの。
味方というのは私兵のように扱いやすい者に限ります」
ニッコリ微笑み返す言葉は、間違いなく王様の考え方だ。
味方、イコール、自分の手駒か。
カノンよりも為政者に向いている思考だわ。
俺は別に、皆を従えているつもりはないんだけな。
周りからはそう見えてしまうのか。
アリアに忠誠を違う人達のように、傅き頭を垂れて剣を捧げるようなマネは、皆しない。
皆、自分のしたいことをやりたいようにする奔放さを持っている。
精霊になって、その傾向は更に強まった。
その上で俺を構いたいとか、俺の願いを叶えたいと思ってくれている人がいるのも事実だろう。
命令すればまた、喜んで命を差し出すヤツだって変わらずいるだろう。
その人たちは特殊なので除外するが、特にアクアなんて、俺は自分の仇だし。
しかも自分の大事な姉を不幸にした忌むべき相手だ。
有名なシスコンだったからね。
言うことをホイホイ聞いてくれるとは思えないな。
「ま、英雄たちに縁のある土地なら、守りたいとは思っていますよ」
階段を登った先に飾られている、三枚並んだ肖像画を見上げながら告げた。
見栄を張って美化させたのか、本人が頼りないように見えるから絵師が盛ったのか。
そこに描かれている人物と、思い出させる記憶の中の人物は、全然似てない。
‘’魔王討伐の三英雄”とタイトルにあるこの三人を、俺は知っている。
「父も母も、貴方がそう仰って下さり、喜んでおられるでしょう」
……俺の正体、やっぱりバレているのだろうか。
今の言葉を、この肖像画の前で言われるとそうなのだろうかと勘繰りたくなる。
イヤ、向こうの状態が、勘づいてはいるが確証がないからコチラの様子を伺って判断しようとしている段階なのかもしれない。
ヘタなことを言うと墓穴を掘ることになる。
はぐらかしておこう。
だってほら。
「魔王ココに討ち取ったり!」とかされても困るじゃん。
やっぱり俺、この世界では魔王とされてるってどの歴史書見ても書いてあったし。
やりたいことがまだまだ沢山あって、理由は分からないが、せっかく拾えた第二の人生なのだから、好き勝手に生きると決めたのだ。
こんな中途半端な所で終わらせられるわけにはいかない。
テルモ直伝の口八丁で切り抜ければ、肖像画に描かれている三人もきっと、そんな俺を苦笑しながらも「お前らしい」と言って許してくれると思うんだよね。




