神さま、ケガをする。
剣と魔法の世界の定番と言えば‘’クッ殺女性騎士‘’と‘’弓使いのエルフお姉さん‘’ではなかったのか!?
そううつ伏せ咽び嘆きたくなるレベルの衝撃だった。
この世界に存在するステキ超常現象は魔法ではなく精霊術だったが。
だがこの世界には科学的に証明できない不思議エネルギーの霊力があるし、重力を無視している巨大生物である魔物も存在している。
正しく異世界!
なのにエロフのお姉さんがいないとか、あんまりだ!!
ドワーフとか獣人なんかもいないのかな。
テンション下がるわぁ。
下がりすぎて溶けてスライムみたいになっちゃいそう。
トボトボ肩を落として歩いていたら、気持ちが沈んでいて注意していなかったのはある。
何かあってもカノンもルーメンもいるしと油断していたのもある。
思いっきりナニカに激突した。
急に立ち止まったアリアにではない。
こんな小さな子が立ち止まったら、ぶつかるより先に前のめりに転がるか、共に倒れて潰してしまうかのどちらかだろう。
同じように壁のようなものに阻まれたルーメンも目を白黒させている。
今は鳥の姿をしているので、鳩が豆鉄砲を喰らったらこんな顔だろうな、と納得してしまうような表情だ。
非常にマヌケなその顔に、指を差して笑いたくなる衝動に駆られたが、多分俺も負けず劣らずな変顔をキメていたと思うので留まった。
最近よく鼻を強かにぶつけることが多いのだが、曲がったりしていないだろうか。
別にナルシストなわけではないが、この見目は結構利用価値があるのだ。
アルベルが簡単に籠絡されてくれたみたいにね。
出来れば現状維持をしたいと考えている。
衝突した反動でもたれかかったカノンの胸で目を回していると、「何をしているんだ」と呆れられた。
そんなことを仰られましても。
「なんか、見えない壁にぶつかった」
言うと俺を支えるのを辞めて、アリアがいる壁の向こうにスタスタと歩いて行く。
阻むものは何もない。
どゆこと?
俺とルーメンの前には、変わらず存在してるというのに。
コンコン、と指で叩けばしっかり衝撃を返して主張してくるのに、音は鳴らない壁。
ペチペチと掌で叩いても、ゴンゴンと拳で殴りつけても、ビクともしない。
振りかぶり思いっきり殴ってみたが、それでもダメ。
多少は硬くなっているハズの拳頭だが、反動で手首まで痺れてしまった。
ちょっと痛い。
二人の目には精度の高いパントマイムでもしているように見えているのかもしれない。
困ったな。
僅かに痛む手首を振りながら、よくよく見てみると、時折霊力の揺らぎが虹色の輝きになって反射して見える。
コレ、一人の霊力じゃないな。
何人分かの霊力のヴェールが折り重なって互いに補強し合っている。
オーロラのようだ。
さすが女神の名前を関する発光現象を想起させるだけあり、とても美しい。
だが、今は単に邪魔なだけの存在だ。
遠方から絶え間なく注がれ続ける霊力により保たれているのだろう。
どこかにその霊力の増幅装置があるはずだ。
壁の厚みの僅かな差からして……あぁ、あった。
ウロウロしていたら、生垣の根元、ではないな。
コッチはフェイクだ。
少し上の赤銅色の葉。
その中の一枚。
うまく本物に紛れているが、コレが壁を作っている装置だ。
カノンが作ったものだろう。
付与されている霊力に彼特有のクセがある。
同じようなものの気配を探れば、籠目状に配置されているようだ。
王宮を中心として、六芒星を思わせる位置に、それぞれの城郭にも六個ずつ装置が設置されている。
たぶん、防護壁なのだろう。
なんで俺が弾かれたのかは不明だが。
そんな危険人物と思われているのだろうか。
ちゃんと保護者が付いている、善良な一般市民ですよ。
「……コレ、壊していい?」
「良いわけあるか!」
防護壁を作り出している装置を摘んでお伺いを立てたら怒られた。
問答無用で壊すよりは良いかなと思ったんだけど。
やっぱダメか。
王宮を守るためのものだもんね。
壊した瞬間、何年も攻撃なんてされたことがなかった王都が攻め込まれてあっという間に陥落する、なんて創作物ではよく描かれる。
そんなことになったら大変だもんね。
ちょっと手間がかかるけど、仕方ない。
安定した霊力が放出されている所を選んで、同じだけの霊力を放出する。
不安定な所を選んでしまったら、俺の放出しすぎた霊力で、壁を全部消し飛ばしてしまう危険性がある。
どれだけの衝撃が発生するか分からないので、二人には離れてもらうようお願いした。
カノンとの手合わせで、霊力による攻撃を相殺しようとした時も、弾け飛んだ霊力で結構土地が抉れたからね。
カノンもソレを思い出したのか、アリアを自分の背に庇える位置へと移動させた。
壁の向こう側は干渉出来ないのでどうにもらなんが、コチラ側には影響が出ないよう、この防護壁を真似たものを作る。
指先を壁に差し込んでみる。
バヂッと火花が散るように、壁と俺がまとった霊力が反発し合った瞬間、ソコだけ弾けて異様な音を立てた。
引っこ抜いた指には何の影響もない。
音だけどうにかならないかな。
コレが耳元で鳴ったら鼓膜痛めそう。
身体に沿うように膜を張るのではなく、自分をドーム状の霊力で囲うようにしてみた。
コレならマシでしょ。
ルーメンを懐に呼んで彼女も通れるようにして、手を突き出し壁を通過した。
予想通り反発しぶつかり合った霊力が四方に飛び散ったので、最初に壁をくぐった手から、後方に設置したものと同じように防護壁を生成。
指を差し込んだだけでは、派手な音と少しの火花程度で済んだが、流石にこの物量を通過させたら被害がデカい。
左手が通過した際の衝撃だけで積まれた石が崩れて庭園の一部が悲惨なことになってしまった。
コレはいけない。
慌てて壁を通り過ぎ、破損箇所を「再生」を使い元に戻した。
振り返り確認するが、壁より向こう側は俺が作った防護壁のお陰で無傷だ。
装置によって作られた防護壁も、変わらずそこに存在している。
ふふん。
壊さず被害も最小限に抑えられたぜ。
「レイム様もクロノス様のお力が使えるのですか」
その様子を見てアリアが驚愕の声を上げる。
あぁ、そうか。
「絶対再生」のスキルって時間の経過を操るのだから、クロノスの能力に見えるのか。
生前のあの人は時間の早送り限定だったから、その考えに至らなかった。
時をつかさどる精霊、と言われたら巻き戻し機能も付いていると思うのも当然か。
カノンに隠すつもりがなかったから、特に何も考えずサラッと「スキル」を使っていたが、精霊の力だと説明がつくのなら、面倒臭い詳細を話す必要がなくなる。
ラッキーとアリアの言に全力で乗っかった。
霊力の壁にムラがあることや、遠方攻撃を受ける危険性が最も高い上部ほど耐久性が弱くなっていること。
なにより、機能として拒む対象だった俺にアッサリ侵入を許してしまったのが一番ダメだ。
難攻不落であるべき国を守る要がそんな状態ではいけない。
先程話し合ったタスクにはなかったが、コレは緊急度も重要度も高い案件であることに間違いない。
迎撃用のレーザー砲を取り付けろとは言わない。
だが、この防護壁の改善は早急にするべきだ。
大した手間も掛からないし。
随分前に作られたせいで劣化している霊玉の交換。
刻まれている紋様も劣化しているので刻印もし直す。
メインで使われている素材は良いが、付与してある素材は手持ちでもっと上質なものがある。
それを付与し直そう。
あと、全部で四つのドーム状防護壁が展開出来るようになっているが、六つの装置でそれぞれの防護壁を作り出そうとしているせいで、一箇所の負担が大きくなってる。
一番小さい壁ですら、かなりの負荷がかかっているのだ。
王都の一番外側に張り巡らせている城郭に設置してある装置を起動したら、一回限りの使い捨てになるのではなかろうか。
背の高い建物があるのだから、そこからも防護壁を展開できるようにして、今張られているバリアの欠点を改善。
装置は最低でも倍に増やした方が良い。
その方が元に注ぐ霊力を減らしても、装置に拡張と増幅の機能が付いているので今と同じくらい、もしかしたらムラが少なくなるおかげでより強固なものになる。
カノンに手持ちの素材で出来るよと言えば、国の機密事項を勝手に暴くなと起こられた。
もしかしたらそうのかな、って気付いて悪いと思ったから改善案も一緒に出したのに。
呆気にとられているアリアに、軽い口調で許可をもらったカノンに招かれるまま近付くと、透過型ディスプレイのようなものが突如目の前に出現した。
初めて見ましたよ!?
何コレ!!?
「クロノス様との契約がバレたなら隠す必要もあるまい」
言いながらポチポチと目の前の画面を操作する。
‘’時‘’を司る者だから‘’時空‘’も操れるのか。
時間とユークリッド空間の三次元を合わせた、つまりは四次元。
え!?
じゃあ、あの有名なひみつ道具も作れちゃうの!!?
あっ! あぁっ!!
だからコイツ、俺が村にパッと移動した後、走ってくるでもないのにあんな早く来られたのか!!!
五分以上かかる道のりなのに、何で宣言した時間ピッタリに来れたんだよと疑問には思っていたのだ。
風の精霊術に移動速度を早めるものでもあるのかな? 程度にしか思っていなかった。
座標軸定めて時空を歪めて瞬間移動しやがったのか。
なんだよ、俺が「スキル」でしか出来ないと思ってたこと、結構精霊術で再現可能なんじゃん。
カノンが疑問に思いながらも「スキル」に言及してこない理由が分かったよ。
四次元から取り出したディスプレイに、王宮の付近見取り図が表示される。
空間把握もお手の物か。
地図の自動生成とか楽で良いな。
任意の範囲だけ表示することも可能なようで、換気設備や隠し通路まで描かれた詳細図だったのだが、ワンタップでただのなんの書き込みもない平面図になってしまった。
人差し指と親指で拡大縮小をしている様は完全にタブレットのソレである。
縮小し、王宮の周辺と城郭のどの位置に装置が設置してあるのかが、赤い点の明滅により表示される。
最低倍には増やすべきだと言ったら、普段使わないもののために、正常に稼働するか否かの維持管理に貴重な人員を割く訳にはいかないと拒否された。
万が一の時に使えるように常日頃からメンテナンスをするのは大事だ。
それを怠ってXデーが訪れた際に役立たずでは意味がない。
それは分かる。
だが、それが手間だ面倒だからと、取れる手段のレベルを下げるのは些か防衛意識が低すぎるんじゃありませんかね。
しかも今は戦争が現実味を帯びた話になっているんだよな。
このタイミングで取れるべき対策を取らないのは正に愚の骨頂としか表現の仕様がないんですけれど。
メンチを互いに切りながら睨み合うこと暫し。
思いついたことがあるのでその視線を逸らした。
「城郭上の装置は、見回り担当の兵士にでもさせれば日常業務だし、問題ないよな」
「今装置が埋め込まれているのは城郭の通路ではなく、外壁だぞ」
「はは〜ん……
んじゃ、万が一内通者がいても良いように、今までの奴はそのままにしておこう。
カノンの信頼の置ける人にメンテナンス頼んでいるんだろ」
「むしろ装置の大元しか人に伝えていないのに、お前があっさり見つけてしまったせいでアリアに知られてしまったのだが?」
あちゃ〜。
そりゃスンマセンね。
秘密主義だと何かあった時対処できる人が全然いなくなるから辞めた方が良いよ。
尻拭いする人が大変だから。
「まぁ、誰にも知られてないって言うならその方が都合良いよ。
新しく作るヤツが従来型だって流布しよう」
戦争に備えて、キチンと装置が稼働するのか、日々チェックを怠らないで欲しいと申し伝える。
そして今回作る、ちょっと大袈裟な見た目のものを目につく所に設置する。
俺も手を加えるのだ。
叩き壊す程度で稼働しなくなる程度のヤワな装置を作るつもりはない。
防衛力を下げたいスパイの炙り出しも出来るし、見回りのように手のトコトン抜ける仕事でも真面目に取り組む姿勢を見せる優秀な人材がいるのかを見極める良い機会だろう。
微精霊と呼ばれる、明確な意思のない存在でも単純な命令は遂行できる。
霊玉に触れて力が通るか否か試して貰い、通らなかった時にだけ連絡を寄越すように命じておけば、元々の装置の見回りをする必要はなくなる。
その微精霊達をまとめる係として、王宮内に樹の妖精を一体植えておく。
樹の妖精なら、微精霊と精神的な、言語に頼らない意思疎通も、人間の言葉による疎通も可能だ。
人に見られぬよう、庭の木々と戯れながら微精霊の指揮を取るようお願いする。
樹の妖精は悪意にも敏感だと言うし。
良からぬことを考えている輩がいれば伝えるようにも言っておこう。
街の畑にも使ったアンプルを差しておけば、暫く霊力の補充はいらないだろうし。
間の抜けた喋り方にカノンは眉をひそめていたが、意外とアリアは気に入ったようだ。
カワイイと言って目を輝かせ、手と手をとってクルクル踊り出した。
樹の妖精も楽しそうだし、結構なことだ。
良き友として、部下として、存分に使ってくれ。
いつもご覧頂きありがとうございます。
今日はハロワに長時間拘束される日なので、明日の更新遅くなるかもしれません。
ご了承くださいませ。




