神さま、欲望がダダ漏れる。
肉体を作って欲しいと、前のめりで言っているのがルーメンとウェントスの二人である。
二人は生前、一生の大半をベッドと点滴をお友達として過ごしていた。
なので気持ちを汲んであげたいと思っている。
早く作ってあげたいと思う理由には、一足先に肉体を得たテルモに、しつこく「いーな」「ズルい」と言い続けているのもある。
左右から両耳を引っ張られて言われているのを見ていたら、流石にいたたまれなくなった。
勿論イグニスには当然作るし、まぁ、アクアにも作るつもりではある。
自己主張をあまりしない末っ子なイグニスは……俺の、いくつ下だったかな。
勿論今は俺の年齢なんてとうに追い越しているのは分かってる。
だが、甘やかされ慣れている上、ワガママを言い慣れていない彼の気質まで変わっているとは思わない。
口に出さなくても察して叶えて貰える、だなんて傲慢なことを考えるタチではないが、叶わなかったら人並みに落ち込む面倒臭さは持ち合わせている。
面倒臭いとは思うのだが、弟がいなかった俺にとって可愛い弟分の感覚が抜けないので、どうしても甘やかしたくなるんだよね。
だから、実験で何体分か作って、コレだ! と自分で納得する出来栄えのものが作れた時に渡したい。
アクアはまぁ、うん。
ついで。
まだ見ぬテネブラエとクロノスは後回しになるが、材料を集めておこうとは思っている。
一発ぶん殴りたいって思っているテネブラエなんていつでもいいけど。
言うなれば、精霊術を極めて渾身の一撃喰らわせられるようになってから、だな。
クロノスには生前、テネブラエとは真逆のいい意味で世話になった。
バカな毒親から再三守ってもらったし、教育も施してもらった。
その恩を返さなければ。
俺が手を下したわけでもない、死期が完全にズレている彼がなぜこの世界にいるのかも含め、積もる話もある。
親代わりの彼とは、ぜひ酒でも交わしたいものだ。
それぞれに対して思惑こそある。
だが漏れなく作りたいとは心から思っているのだ。
肉体を作れば、志半ばで手折った人間時代に出来なかったことをさせてあげられるからという俺の自己満足。
それと皆が肉体を得ると、世界に直接干渉しやすくなるからバランスを取るのが容易になるという。
そのふたつを理由にしている。
霊力の均衡が保たれれば魔物の瘴気が抑えられ、人的被害が減る。
俺の世界人類総幸福計画にも通じる所があるからね。
精霊の肉体を作ると良いことづくめだ。
あぁ、あとは実験で作った時にテルモの肉体だけ成功したから、今は一人だけ贔屓しているような状況になってしまっている。
実際は他の精霊たちに遠慮して、実験の一番最後に作った素体をまとったら、それが成功品だったってだけなんだけど。
残り物には福がある、ってヤツなのかね。
カノンは精霊たちの都合を優先させて当然と考えている。
アリアも汚職・腐敗のような人間の都合を優先させろと命令はしてこない。
早期解決をしないと、その分コチラの望みである学校設立が遠のくぞ、と暗に言っているだけだ。
ルーメンは人間のいざこざに手を出すつもりはないと断言している。
この程度の問題は些細なことだと思っているのだろう。
一国どころか、周辺国家を巻き込んだ大戦になる可能性があるというのに。
それでも些末なことだと吐き捨て、見向きもしないのだろうか。
……してないね〜。
同じように何百年と生きていても、カノンやアリアのように肉体を持っているかどうかで感覚が変わるのかな。
人と関わりを持っているかどうかの方が重要なのかな。
カノンもどちらかと言えば精霊寄りの考え方をすることが多いし。
人との関わりは余り持たないようにしているし、一箇所に留まることも、辺境にある誰も立ち入らない自分の家以外ではしない。
アリアは、あくまで人の王だからね。
人の中で生き、人間に寄り添った考え方をするのは当たり前のことなのだろう。
優しい子だ。
……子、とか言っても俺より何百歳も上なんだけどね!
敬った方が良いのだろうか。
どっちかって言うと、精霊にタメ口きいてるからか、俺の方が立場上っぽくなってしまっているんだけれど。
タスクの書き出しとToDoリストの作成をしよう。
そうしよう。
やるべきことを可視化することによって、何を優先させるべきか。
何は後回しにしても良いか。
この場にいる人と情報共有させればスムーズにことが運べるだろう。
なにせ国のツートップがいるのだから。
権力の塊だ。
ちょっとやそっとの無茶も通してくれる。
天突きから出てくるトコロテンの如くつるんと滑らかに、支障なく物事が解決されて行くことでしょう。
コチラに求める見返りも相応になるだろうが、そこは俺にクッソ甘いテルモとイグニスあたりにお願いすればなんとかなるだろ。
他の皆も甘いと言えば甘いしね。
他力本願ばんざ〜い。
誰がしなければならないか、はこの際置いておいて、とにかくしなければならないこと、した方が良いことをトコトン出していく。
スピードが乗ってくると、つい英単語を書きそうになり、ムダにうなぎを量産してしまうが、気付かれないよう素早く「スキル」でなかったことにする。
タスクの抜け・漏れがないか。
些細なことでも言語化したか。
確認したらそれぞれに記号を振る。
そして記号の下に色ペンで、俺、カノン、アリア、その他、誰がすべき行動かを分けた。
仕事ならばカテゴライズして分類するのだろうが、コレは違うしね。
あぁ、アリアの場合は仕事なのか。
それとも、王様って責任は重いけど仕事自体はハンコを押すだけの簡単な作業だけなのかな。
提案書とかは部下が前部纏めて精査して、あとは許可を出すだけ状態にしている、みたいな。
なにせこんな所にいるくらいだし。
アレもコレも立案から決議決定までしていたら、身体がいくつあっても足りないだろう。
茶をしばいているヒマがあるわけがない。
別の紙を取り出し重要度と緊急度をそれぞれ縦軸、横軸として紙の中心で交わるよう、その線を伸ばす。
緊急度も重要度も高い、緊急度は低いが重要度は高い、緊急度は高いが重要度は低い、緊急度も重要度も共に低い。
紙をその四つの領域に区切って、話し合いをしながら先程書き出したタスクの番号を書き込んで行く。
緊急度も重要度も高いタスクさえこなせば、正直ほかのタスクはどこから手をつけても良い。
解決しなければならない期限が近いものや、取り組みに時間がかかるものを優先させた方が良いかな? ってくらいだ。
施設で過ごしていた時とは違い、目の前のリストは数日、数ヶ月の短期でこなすものではなく、年単位の長期で消化していくものだ。
しかも国家単位の事業である。
細かく突き詰めていけば、しなければならないことはもっと出てくるだろう。
だがふたりは上に立つ者が故に、下々がこなす具体的な作業内容が把握出来ていない。
そのため、本当に細やかな仕事はここにら上がってきていない。
ソコは俺がツッコムべきではない。
国王や大宰相に輔弼すべき大臣さんたちの仕事なので。
もろもろの手配を頑張って頂きましょう。
応援だけはしています。
「こちらの表は、なかなか興味深いですね」
四象限マトリクスを覗き込んだアリアが、分かりやすいと感想を述べた。
何から取り組むべきかを可視化したものだからね。
即座に判断できなければ意味がない。
統計グラフやマトリクス図法の類は伝わっていないのかな。
地球からの移民組は、なんで便利なものを後世に伝えようとしなかったんだ。
カノンも薬草の調合の時、なんか色々メモはしていたが、グラフにまとめてはいなかったもんな。
教えてやれば良かった。
手作業でも、薬草の効果はレーダーチャート、その効果に年代や性別のバラツキがないか判断するための散布図。
それらがあるかないかで、効率は変わっただろうに。
薬草の配分量の差とか、L型マトリクスに書き込んでデータ集めるためにエクセル寄越せって言いたくなるもんね。
あぁ、PCがないってすっごく不便。
それでも、グラフを知らない人からしてみれば、こんな粗末な手書きのものでも便利と言うんだもんな。
俺が過ごしてきた施設を見たら、一体どんな反応を示すのだろうね。
話し合いが終わり、今後の王座にどちらが座るのか押し問答を繰り返し、一触即発になりかけた所を力技で仲裁し、カノンの離宮――で良いのかな、ココは。どちらかというと御用邸のイメージだが――を出た。
もう腹時計的には四の鐘が鳴ってもおかしくない時間なのに、庭園には誰の姿も見えない。
主が滅多に訪れない屋敷とはいえ、管理をする人の一人や二人、いてもおかしくないだろうに。
ソレを言い出したら、国王が手ずからお茶を淹れてる時点で疑問に思えよと、我ながら今更な気付きである。
最後に玄関をくぐったカノンが扉に霊力を注いでいたのを見てピンときた。
と言うか、浮かび上がった文字で分かった。
コイツ、世間では精霊王が降臨しないとか騒がれてるの知ってるクセに!
ルーメンたちが自分の家来た時にビビり散らかしてたクセに!!
クロノスと契約していやがる!!!
時間止めてるから管理する人間要らないんだ。
な〜るほどね〜。
「お前、どこでエ……ぁ、あぁ〜……――クロノスと契約したんだよ」
生前の名前出呼びそうになった。
危ない、危ない。
アリアも精霊が降臨していないことを憂いていたし、カノンが時を司る精霊の王と契約しているだなんて知らないだろう。
小声で尋ねたら物凄くイヤそうな顔をされた。
「ルーメン様から聞いたのか」
「違ぇし。
今浮かび上がった紋様に書いてあるだろうが」
「お前、喋れるだけじゃなく読めもするのか」
「ったり前だろ。
マルチリンガル舐めんなよ」
「知識」を使用した上での多言語習得なので決して威張れることではないが。
言わなきゃバレない。
少なくとも英語と日本語は生前クロノスの根気のお陰で自力で習得しているのだし。
まぁこの世界では、日本語と英語の二言語を習得していれば充分なので、他の言語を話せても、もう意味を成さないのだけどね。
煩わしいと思っているのがアリアリと分かる表情を浮かべ、カノンはチラリとルーメンの方を見遣る。
知らぬ存ぜぬなルーメン。
視線を送られたと言うことは、契約の場にコイツも居合わせたのか。
カノンの身に付けている霊玉に混ざっていたあの複雑な色合いは、クロノスと契約したが故なのだろう。
本来ならば自分の属性に一番適している色が出る。
カノンならば風属性だから緑色だ。
だが、それを押しのけるように中心に滲みを広げる色があった。
石言葉通りの、高貴さを思わせる夕暮れ時の夜空のような複雑な色彩を放つタンザナイトの青色。
青系だし、回復薬の調合で水属性の術を使うからアクアの属性色が出ているのかと思っていたが、違ったんだな。
一体いつ、契約をしたんだ。
ウェントスとの契約は断ったと言っていたが、クロノスと契約をしていたからなのか?
「クロノス様となら、私も契約しておりますよ」
ヒソヒソ声で話していたのに、耳敏く俺たちの会話を拾っていたアリアが覗き込んで加わってきた。
精霊って、そんな一度に何人も契約するものなの?
精霊事情にも疎いのでよく分からない。
カノン、アリア、そして宰相である二人の叔父さん。
三人は血族に受け継がれる契約をクロノスと交わされているそうだ。
元々はカノンとアリアの父親が契約者だったのだが、契約者が死んだ時に自動的に引き継がれたとか。
だからクロノスとは直接会っていないし、なぜ契約が引き継がれたのかも、どういった契約内容なのかも、三人とも分かっていない。
ただ、ただでさえ普通の人よりも長寿の種族だと言うのに、ほぼ老けない肉体になってしまった。
気が付いたらそんな身体になっていたので、前契約者の死後、即契約の引き継ぎがあったのか、何かしらの儀式を無意識にしていたのか、それすらも分からない。
なにせ自覚したのが前契約者が死んでから何十年と経ってからだったのだ。
振り返ってみても思い当たる節が、こじつければあるが確信してコレ、と言える出来事はなかった。
カノンと叔父さんはまだ成人した見た目だから良いものの、アリアは幼い姿のままなので、なかなか公務に支障が出る場面があり迷惑しているのだと肩を竦めた。
幼い見た目だけど、中身はおばあちゃんをとうに通り越した年齢だもんね。
リアルでロリババアって初めて見たよ。
「長寿な種族って、エルフみたいなもんか」
「みたいではなく、エルフですよ」
つい口に出してしまった独り言にアリアが、よくご存知ですね、と反応した。
この黒髪兄弟が、えるふ?
「バッカ野郎!
エルフって言えば金髪碧眼の耳長色白美男美女と相場が決まってんだよ!!」
「どこの一般常識なのかは知らんが、エルフと呼ばれる種族は特に肌の色も髪の色も統一性はないぞ」
「耳が長い、と言う特徴だけでしたら耳長族が別大陸にいると、伝承だけならありますよ」
伝承かよ。
言い伝え程度じゃなく!
目撃例とか具体的にどこに住んでるとか情報ないの??
せっかく異世界に来たなら定番の、見目麗しい半神的存在で全ての能力において人間の基準値を上回ってる絶対的強者で寿命が滅茶苦茶長いか、そもそも死の概念がなくって耳が長くて尖っている弓矢が得意なロングストレートの金髪なびかせた切れ長碧眼の瞳の痩身美人にお目にかかりたかった!!!




