神さま、王都につく。
手間はかかるが、これ位するのが普通なのか、と勉強になった。
まだ門をくぐってすらいないのに。
王都入りしたら学ぶことや目新しいものが多過ぎて、俺の脳ミソ、パンクしちゃわないだろうか。
水は張られていないが、堀は高低差があり侵入を困難にしている。
幅広く取られているその上には、関所が間隔を開け二つ置かれ、その間に跳ね橋が設置され、三段構えになっている。
街道から続く最初の橋は下ろしっぱなしなのだが、仕掛けを見るに、多分通行許可を出さない時間帯はコチラも上に上げられるのだろう。
橋の手前にバリケード柵があったから、もしかしたら有事の時以外はそのバリケードをして終わりかもしれないが。
一つ目の橋を渡り切った所に一つ目の関所がある。
ココは身分証の提示と、どこから来たのか、街に訪れた目的、商人ならば積荷の内容、滞在予定日数など事細かに聞かれ、必要ならば少しの金銭を渡し、何かを書いた木札を手渡される。
二つ目の橋は何台か通過しては、“アルルの跳ね橋“のように跳開され、行き来が制限される。
最後の橋との間に設置された二つ目の関所では、一つ目の関所で渡された木札を検査官に渡し、幾つか質問を受ける。
最初の関所で申告した内容に間違いはないかの確認だろう。
相違が無いかの確認を更にされ、取り出された道具に手をかざし、許可がおりた者は三つ目の橋を渡れる。
時間がそこそこ掛かるのもあり、三つ目の橋は許可が出た者が渡るたびに何cmか程度だが橋が持ち上げられていた。
手間は掛かるが、不法侵入防止のためと思えば必要な措置だろう。
馬車では乗り越えられない段差だし、徒歩でも階段を三段飛ばしする位の勢いがなければ乗り越えられない。
強行突破しようとしても、勢いが削がれている間に兵士の皆さんに取り押さえられるのが先だろう。
だって王様がいるんだし。
門番だって精鋭が務めていることだろう。
パッと見、あんま強いようには見えないけど。
能ある鷹は爪を隠すと言うし、きっとソレだろう。
入国管理用の木札には、外部の者が見ても判りにくい暗号を用いて、一回目の関所で質問された内容の回答が記入されているそうだ。
ほんの少し前に尋ねた内容を、二つ目の関所で同じ質問をされて間違えることなんてあるのかと疑問に思うが、実際あるからその手法が取られているのだろうし、効果はあるのだろう。
何より重要なのが、手をかざしていた道具だ。
俺が霊力測定器として「創った」機械と似たような道具で、少量の血で個人の識別が可能になる。
過去に入国した時と身分や出身地に相違がないか確認したり、万が一犯罪が起きた時にお触れを出しやすくするためのものらしい。
カノンと一緒だと全部免除されるからとても楽だ。
前に並んでいた人たちを追い越し、幅広の橋を渡る。
歴史によるくすんだ化粧がほどこされた門をくぐった先に待ち構えていたもの。
それは、無秩序に所狭しと建てられた家! 家!! 家!!!
隙間さえあれば建てろと言わんばかりに細長い家もあれば、一階、二階、三階、全ての築年数が違うであろう、古ぼけた家に上の階を増築し続けているような奇妙な家。
小さい隣接した家の上に無理矢理、更に家を建築したようなトンデモ物件まである。
因みに居住者はまったくの他人のようで、ハシゴが上の階に直接的立て掛けられていた。
とても危ない。
敷地に対して人口が増えたが故なのだろうが、地震が来たらどうするのだろう。
まったく考えていなさそう。
地震が起きないなんてことは有り得ないとしても、そんな酷く大きな災害が実はないのだろうか。
アレコレ考えて、街の家は全て耐震強度の高い建造物にしたのだが。
そこまでする必要はなかったのかも。
「完全におのぼりさんだな」
上ばかり見て歩いていたせいで、石畳の段差でつまづいてしまった所をカノンに支えられる。
それを見て「俺が支えようと思ったのに!」と両手をワキワキしながら絶叫しているアルベルトとは全力で距離をとりたくなった。
手つきがいやらしい。
その程度のことでトゥンクするような安い恋なんて始まらねぇよ。
登城時間も受付時間もとうに過ぎている。
王都だから七の鐘が鳴って以降も、列がつけば入れてくれる。
だが他の街では通用しないのだから、思い付きで行動するのをいい加減辞めろとチョップされた。
因みに六の鐘が鳴った時点で、宿の本日宿泊分の客の受付も大抵終了しているそうだ。
な、なんだって……!?
宿泊だけの場合はその日中なら大丈夫なんじゃないの!!?
あ、そっか。
ソレはあくまで二四時間体制で受付に人が立っているホテルの場合だ。
しかもソレって地球の常識じゃん。
この世界に当てはまる訳がない。
何をやってるんだ、俺は。
大抵の宿は内側から既に鍵が掛けられている。
酒場と一緒になっている宿ならば開いているが、部屋まで空いているかは行ってみないと分からない。
「街中で野宿するというのは?」
「憲兵に不審者として捕まるぞ」
デスよね。
治安維持が彼らのお仕事だ。
しょっぴかれて不審尋問をされることになる。
カノンのことを知らないような人が警邏担当だった場合、牢屋で一晩明かすことになるやもしれない。
……宿代浮くし、その方が良いかも?
言ったらさすがにソレは嫌だと二人から拒否された。
罪を犯していなくても、怪しい行動をしていたヤツが悪いと言わんばかりの悪環境に押し込まれる。
食事は日に一回、季節によっては下手したら腐っている残飯。
トイレは壺。
石造りのデコボコした床は何も敷かれていないから底冷えする。
毛布も敷布もないからソコに直接横になって寝なければならない。
無罪だとしても釈放までにその証明をするのに時間がかかるから一晩世話になる程度の軽い気持ちで入るものではない。
確実に心身共に病に犯されることになる。
そう力説されたので、ワザと憲兵に捕まるようなことはしないと誓った。
なんで二人して経験者のように語るんだよ。
身につまされるかと思ったわ。
だが、ならばどうしろと言うのだ。
完全に自分の計画性のなさを棚に上げて二人に問う。
酒場で夜通し過ごす方法もあるが、そういう場所はアルコールが入っていることもあり、都会であることは関係なく治安が悪い。
巻き込まれるつもりがなくても、三者三様で目立つ格好をしているから、確実に問題が向こうから寄ってくる。
俺は容姿がどうやったって人目を引く。
フードを被ってても不躾だと言って絡まれるだろうし、被ってなかったら酌をしろとか言ってまとわりつかれるだろう。
カノンは“賢者”と知れれば武勇伝をせがまれ、知られずとも胸につけた霊玉でカモにしようと人が寄ってくる。
アルベルトはとても冒険者らしい装備を身にまとっているので、ケンカを売られ絡まれボッタクられるのが目に見えている。
そうなれば黙ってられない性分のヤツしかココにはいない。
何をどうしようと憲兵と仲良しになれる未来しか待っていないのだ。
ワンチャン、酒場併設の宿屋に空き部屋がひとつでも空いてないか尋ねるのはダメなのか聞けば、こう言う見た目だと、良くて足元を見て法外な値段吹っ掛けられる。
最悪、寝込みを襲われることも有り得るとアルベルトがため息をついた。
正攻法はどれもダメってことなのね。
バレなさそうな所に簡易的な家をシレっと建ててしまうというのはどうだろう。
コレだけ雑然としているのだ。
一晩くらい一軒増えても誰も気にしないし気付かなさそうだけど。
提案したら、さすがにバレるだろ、と呆れられた。
残念。
日が落ちかけ、店舗だろう扉は軒並み閉まり、荷車を飾り付けていたであろう屋台の装飾は外され、残っているのは通路に直接商品を並べている露店のみ。
商品の購入を交渉材料に、相部屋でもさせて貰えないか聞いてみようか。
そう思ったのだが、さすが、こんな時間まで売れ残っているだけある。
一応商品なのであろう無造作に積み上げられているソレらは、ロクなものがなかった。
俺には薄汚れたガラクタにしか見えない。
しかも悪臭付き。
何を取り扱っているのか尋ねれば、服飾の類だという。
どこがだよ。
完全に加工した物を売ろうとするとトンデモナイ金額の税金が掛かるし、場合によっては商売自体が禁止されてしまう。
だから羊毛は洗わず紡がず刈り取ったまま。
皮は腐らないよう塩漬けはされているが、除脂肪も石灰漬けすらされていない。
そんな状態で売っていても、衣服の元となるのだから、服飾の類で間違いはないと断言されれば、まぁ、確かにと納得してしまう。
変な臭いはコレからしている訳ね。
処理も加工もしていないが、わざわざ高い税金を支払って入国しているから、元を取るためにも儲けを出すためにも、どうしても値段を高く設定せざるを得なくて、結果大量の在庫を抱えることになっているそうだ。
ここに並べてある以外にも、借りた宿の部屋には山と積んであるんだとか。
本末転倒が過ぎる。
商売下手だな。
そういう工房に直接卸せないのか問えば、そうなると入国税の金額が変わるから、今からもし工房に売りに行こうものなら、不正をしたとされ懲罰対象になってしまう。
追加納税か、牢屋に拘束されるか、その両方か。
なかなか生きにくい世の中である。
どうにもならないものなのか、後ろの二人に伺えば、どの街でやっても同じようなものだと肩を竦められた。
露店の店主も「ですよね」と苦笑い。
確実にお金になると確定している卸しの場合は税金が高く課せられる。
露店の場合は運が良く全部売ることが出来れば、卸しよりも随分羽振りの良いことになるが、その確約はされない。
リスクは低い方が良い気がするが。
魔物が闊歩する中、遠くまで売りに来たのに全然売れなくて宿泊費ばかりが嵩みマイナスになるよりも、即日納品してトンボ帰りすれば良いのに。
だがそんな単純な話ではなく、行商をするからには儲けを多く出すべきである。
王都まで来たのなら売れるだけ売って、そのお金で何かしら物珍しい物や別の土地なら更に高く売れるものを仕入れて、自分の町に帰る道中に売り、更なる利益を上げたいと思うのが商売人と言うものである。
工芸品や衣服なら女性が喜ぶし、牛や豚の肉なら珍しさも手伝い男や子供が喜ぶと思っていたそうだ。
だが、アテが外れた。
貴重な霊玉は流通を制限されているからと没収されてしまった所から始まり、商品は売れないわ、品物は売ってないわ。
三日経つが人の往来も以前より少ない印象だし、コレなら一つ手前の町で引き返すのだったと肩を落とした。
ひと月前から魔物の動きが活発化しているとはいえ、王都ですらこんなに情勢が変わってるとは思わなかった。
そう言い店主は幾度目かのため息をつき、更に肩を落とす。
羊毛を売っていて、牛や豚が珍しい。
つまり、オジサンの住む町は牧羊が盛んなのかな。
その上で皮を日持ちさせるために塩漬けするってことは、海も近い。
……お魚、食べれるかな。
嫌な予感を察知したのか、カノンが首根っこを掴んでその場から離れようとするが、もう遅い。
俺はオジサンの足を掴み離さない。
「店主さん、商売のお話しない?」
後に、造形の美しさとは裏腹にニヤリと三日月に裂けた口元が捕食者のソレだったと、涙ながらに恐怖体験として語られた。




