神さま、責める。
数式や文字の羅列を認識するよりも、目で見て手で触って体験する方が、記憶の定着には良い。
五感を刺激し記憶と結びつけることで、事象の定着が容易になるのだ。
反復することでその定着を強固にし、いつでも想起させられるようになっていく。
何故そうなるのか思考しながら、何故そうなったのかを理解しながら記憶する。
その時の感動による感情の揺さぶりによりシナプスが刺激され情報の伝達が素早くなる。
勉強の合間に軽い運動をしたり、音楽を聴いて聴覚を刺激しながら学ぶのも良い。
口に出して音読するのは、暗記をする時にとても有効な方法なんだ。
文章を知覚しながら、舌を動かし、声に出して鼓膜を振るわせることで、視覚・聴覚を刺激し口元を運動させているから。
刺激される感覚が多ければ多い程、記憶とは定着しやすいものなのだ。
なにより楽しいと思えれば学ぶ意欲が増す。
大勢で声を出し、同じ感覚を共有するのは群れとしての本能が刺激され、安心感を得られるしとても良い。
幼い頃に学校で習った合唱曲が、大人になっても頭から離れないのはそういうことだ。
苦痛であったのなら更に記憶に残りやすい。
感情が負の方向にだが刺激されているから。
マイナスなことって、記憶にこびりつくよね。
どうしても覚えていたくない記憶が度々思い出されてしまう時は「てめぇなんざお呼びでねぇんだよ!」とキレ気味に無理矢理その記憶を認識から外して別のことを考えると良いよ。
そのうち脳ミソが「あ、この記憶要らねぇんだった」と認識してくれるようになって、記憶のゴミ箱にポイしてくれるから。
数の概念こそあったものの、たった一晩で足し算引き算を覚えられた三バカたちが良い例だ。
半銅貨を実際に動かすことで、プラス・マイナスを理解し、掛け算や割り算も簡単なものなら理解した。
おはじきや時計、サイコロやトランプが入った算数セットを用意しよう。
カルタは言葉を覚えるのに適しているし、それも作るとしよう。
見本をいくつか作って、他の町でも教会教室を開く時には、その町の工房に発注すれば雇用や経済の循環にも繋がる。
お金は巡ってナンボだからね。
俺一人で作れたとしても、外注出来るものはしなければ。
出来ないものとして、霊力測定器と、適性属性判別機。
あと精霊術のレベルを設定して、そのレベルごとにどれだけの霊力が必要なのか、詠唱文と一緒に設定して、目安の霊力が出力出来たら光る装置でも創れば良いかな。
さすがに冒険者たちの前で「精霊術を使った」では言い訳の出来ない「スキル」による創作は遠慮した方が良いだろう。
ちょっと作ってくる、と言って席を外した。
ギルドを作ろうと思っていた時点でどんな物が必要かと妄想しまくっていたので、「創る」のは結構簡単なんだよ。
どうやってソレっぽく見せるのか、装飾するのが手間かかるだけで。
豪華過ぎたら悪趣味でいけないし、シンプル過ぎたら何に使うものなのか判断しにくいから不便だし。
ボタンが多かったり操作手順を多くしても、誤作動の元になるし、機能をフル活用して貰えなかったら悲しいし。
冒険者ギルドにも置いておいた方が良いでしょ。
師匠も持たず、素養があるにも関わらず、自分の適性も霊力総量も分からないまま、冒険者業をやっている人も居るだろうから。
ギルド用のは、冒険者証を同時に作れるようにしよう。
登録用霊玉をセットする場所を作って、血を垂らせば名前と年齢、階級、ギルド貢献度等の情報の登録と更新が出来るようにして、自分の属性が何なのか分かるように色が変わるようにするか。
イヤ、貢献度の更新は、随時ギルド側で出来た方が良いな。
何度も依頼を失敗しているなら階級の見直しとか、受注の際の注意とか必要だろうし。
なら、登録用と情報更新用の機械は別にするか。
ひとつの機械に複数の性能を付けと分かりにくくなる。
あの三馬鹿が使うのだと念頭に置いて創らねば。
見た目は……紋様でも彫ればソレっぽく見えるかな。
ゴテゴテしてるようには見えないようにする、バランスが難しい。
両手に抱えて戻ると、なにやら沈痛な面持ちで五人が話している。
こんな空気の中「できた〜」って能天気な顔して話に加わるの嫌なんですけど。
カノン以外はコチラに気付いていないようなので聞き耳を立ててみる。
下品だとは言うなかれ。
気付かんヤツが悪いのだ。
フムフム。
どうやら俺の素顔に魅入られてしまったアルベルトが他の人たちに恋の相談をしているようだね。
美しいって罪だわ〜。
冗談〜。
流石にガチ惚れされた時に茶化すことはしないよ。
いくら俺でも。
トドメが見た目なのは間違いないようだが、あけすけな物言いとか、自分が手も足も出ないくらいに強いところとか。
俺は相手を選ぶならば俺みたいなニンゲンは絶っっっ対に嫌だが、彼の琴線には触れる所があったようだ。
中性的な見てくれをしてるとはいえ、そして肉体的には両方備わっているとはいえ、胸は断崖絶壁のツルペタなんだけど。
ソコん所のツッコミは誰も入れないんか。
だけど、俺はなぁ……
重病人でな。
もう生きていないとは分かっていても、唯一人に焦がれた心が熱を帯びたままなのだ。
冷めることがあるのなら、その時に新しい熱に浮かされても良いのかもしれない。
だが今は。
まだ思い出すことすら、切なすぎて。
幻影を追うことすら躊躇われる。
こんな心持ちでは「じゃあ、次へ」とはとてもじゃないが、考えられないのだよ。
究極の自己犠牲愛だよね。
たった一人を生かすために、自分の大切な家族のように慕っていた友人連中を虐殺して、自分の命も犠牲にしたんだもの。
自分でも狂ってると思うよ。
でも俺は、ソレをして当然と思えるくらいに、今振り返っても、何度チャンスが与えられようと、何度生まれ変わったとしても、その選択を覆すことはない。
何を犠牲にしてでも、唯一人を生かしたいと願ってしまった。
それくらい、ソイツのことが大切なんだ。
忘れられる、訳がない。
アルベルトがイヤとかでは決してなく。
俺だって、シンドい想いをし続けるのはイヤだからね。
ソイツ以上の人が現れれば、忘れるためにも、新しい恋に喜んで走ると思うよ。
一生を添い遂げる相手がいないのは、恋の熱を知っているからこそ、辛いからさ。
……あぁ、俺って実は、物凄く残酷なことをアイツにしてしまったのではなかろうか。
アイツがもし、同じように俺のことを想ってくれていたのなら、今の俺と同じ状況に、アイツは何年うきみをやつしたことだろう。
ほんの刹那、手が触れる感触を、視線が交わされたあと憧憬を、思い出しただけで全身が枯渇し干からびたような錯覚に囚われる。
鬼畜生の人でなしとか言われそう。
アイツが生きる手立てを残すための選択をしたこと自体には誇りさえ持てるが、この感覚を味あわせてしまったかもしれないことに関してだけは、後悔してもし足りない。
……自分勝手だとは思うが、墓が遺されているのなら、参るくらいはしたいなぁ。
馬に蹴られる心配が無くなったであろうタイミング目掛けて、少し大袈裟な足音を立てながらリビングに向かう。
視界がギリギリ塞がらない程度に積み重ねられた機具を見て、すぐさま駆け寄ってきたカノンとアルベルトは紳士だね。
見習え、三バカ。
お礼を言って机の上に広げてもらった。
冒険者証登録用の測定器兼適性判別器の実演をしようと思う。
備え付けの針にブスッと指先を押し付け、霊玉を固定した台に血を垂らす。
カッと一瞬、目映ゆい光が部屋を照らした。
演出も必要だとは思って、霊玉に情報を書き込む際は精霊の適性に応じた色に光るように設定したんだ。
霊玉に反射して綺麗だよね。
もう少し明るさを抑えても良いかもしれないけど。
登録作業はコレで終わり。
注意事項としては、針は毎回消毒して欲しいくらいかな。
登録された霊玉を、コッチの、ギルド貢献度の更新をしたり、紙の証書が必要になった時に使う機械にセットする。
機械に付いているボタンを押すと、必要な情報開示のON/OFFが出来る。
任意の場所に紙を置くと、開示された情報が転写されるので、書き出しボタンを押して、文字起こしされるまで暫し待つ。
プリンターみたいなものだね。
今はまだ俺の実績は何もないので空欄が目立つが、冒険者ギルドから依頼人に推薦をする時なんかに使える機能だ。
記録されているを全て書き出せるからね。
冒険者業を引退し、転職活動をする時に、自分で売り込みをする時に履歴書みたいに使ってもいいし。
その時は手数料をいくらかとってもいいかも。
紙ってソコソコのお値段するようだし。
霊力の総量を測る機械は、俺の霊力を上限にしか設定出来なかったんだよね。
測定者の比較対象が必要じゃん。
俺と比べてどれだけの霊力になるよ、って表示のされ方になる。
精霊の皆がいれば、彼らの霊力を上限に設定したんだけどね。
俺の霊力を上回るようならエラーが表情されるようになっているし、もしそれだけの人が現れた時には、改めて皆に協力を仰ごうと思う。
賢者様ですら、俺の霊力よりは劣るんだし、まぁ暫くは大丈夫だろう。
多分。
今この瞬間、立派なフラグ建設をしていないといいな。
コレは立派な装飾を施し、無駄に大きな霊玉を使った。
豪華な方が説得力ありそうじゃん。
あとは精霊術のレベルに合わせてどれだけの霊力の放出が必要になるか、身体で覚えさせる装置だね。
今は霊力一を込めるタイプと、ウィンドストレット、エクスプロージョンを使うための霊力を込める値に設定してある。
実際にオレが見たことある精霊術じゃないと、加減が分からないからね。
もっと低位の精霊術は見てないから込める霊力量が分からない。
ウィンドカッターは実際に使ったけど、あの時は込める霊力量が多すぎて別の術になってしまっていたし。
形骸化しよう、と言っているのに例外を例えにしてしまったら意味を成さない。
なのでカノンが使った術を参考にするのが無難だったのだ。
俺は精霊術よりも、霊力を直接ブッ放すことの方が多いし。
だってその方が楽だから。
精霊術なんて不思議かつ神秘的な、無から有を生み出す超常現象を使わないなんてもったいないとは思うんだけどね。
この術はこんな威力じゃないと怒られるのも呆れられるのも嫌だからと避けていたら変なクセがついてしまったのだ。
俺も詠唱文を広めるなら今後覚えるべきなのだろうけどね。
それはまた今度。
だが、エクスプロージョンは規格外の精霊術だからと却下されてしまった。
たかがヒトデ一匹倒すのに使ったのはカノンじゃないか。
俺の精霊術に関する基準はカノンなのだから、規格外のことをしでかしてるとしたら、それはそう教えたカノンが悪いと思います。
仕方がないのでウィンドカッターの実演をして貰って、その時に使った霊力の放出値を鑑定眼で見て、装置をあらためて設定した。
込めなさすぎると光らない。
調度良いと霊力を込めている間は煌々と光り続ける。
込めすぎると明滅する。
その三段階に設定した。
んで、込められた霊力をそのまま霧散させるのは勿体ないので、裏返した所に電池替わりの霊玉をセットした。
満タンになったら空の霊玉と交換すれば、なんの苦労もせずにフルで霊力が込められた霊玉が手に入るという寸法だ。
学校の授業で使う機会が訪れる日が来るかもしれないからとっておいても良いし、畑のアンプルの交換に使っても良い。
街の住民の霊力を使うのだから、キチンと街に還元される使い道を選んでさえくれれば、何に使おうと問題ない。
なぜ冒険者として活動をするでもないカノンが一番乗りで機械を試したのかは分からない。
実演と説明を終えた途端、我先にと、止めるまもなく全ての機械に手を出したのだ。
精霊術の形骸化に必要な機械は、褒めて貰えた。
ウィンドカッターにウィンドストレット。
それぞれ発動させるのに必要な霊力量の最低値に設定されていると、コレは手放しで褒められた。
霊力を一込めれば光る機械に関しては、精霊術師となる人が先細りになっている現状を鑑みれば必要だろうと、理解を得られた。
コレを光らせることが出来れば霊力があるって事だもんね。
冒険者証登録用の機械も、今の技術で自作できるようなものではないかもしれないが、必要だろうし大量生産するものでもないから、作り方や機構は企業秘密とすれば、問題なく使えるだろうと、使用許可が出た。
だが、霊力の総量が分かる機械には不平不満がタラタラだった。
俺の霊力を一〇〇とした時に、カノンの数値が出なかったのだ。
他の人が手をかざしても数字が出なかったので不具合かな? と思ったが、俺が手をかざせば一〇〇と表示される。
小数点は表示されないし、もしかしたらと思い一〇〇〇にしてみたのだが、冒険者連中の数字は出なかった。
カノンは……出た。
九の数字が。
正直、俺の半分はあるだろ〜と思っていたのだが、この差は余りにも、あんまりでは?
不具合と結論づけて、マックスの値を一億にしてようやく冒険者連中の数字が十単位で出たので、この設定にしよう、と相成った。
カノンは拗ねたままだが。
いいじゃん、普通の百倍、千倍は霊力値あるんだし。
俺は逆に自分の総量がバケモノじみてることを知覚させられてちょっとブルーだよ。
なんちゃって神様業は引退しているのだ。
普通の人間でいさせてくれ。




