神さま、教科書を作る。
ビタミンB六って書くと違和感ハンパないんですけど、どうなんですかね?
B6って表記して良かったのかしら??
分かりやすく売りにできる、この街の強みってなにかな。
衣食住――人間の営みに、幸福度に直結するそれらの中で、俺が提供できるもの。
幸福とはすなわち、オキシトシン、セロトニン、ドーパミン、エンドルフィンの神経伝達物質が分泌されることにり感じる反応である。
ぶっちゃけてしまうと、ニンゲンが一番多幸感を得られやすい行動は性行為である。
そもそもハグにより幸せホルモンが分泌されたり、ストレスが軽減されたり、人の身体に良い反応が生じるのだ。
そこに三大欲求の解消と快楽がついてくるのだから、そりゃあ満足度も高ければ幸福度も高い行動と言われるのも納得である。
まぁ、好意を寄せる相手であることが最低条件だが。
ちなみに、病気に罹ることがもっとも幸福から遠い行動とされているとか。
喜んで病気になろうと言う人は少数派だもんね。
詐病を申告したり作為的に病に罹ろうとするミュンヒハウゼン症候群なんかは精神疾患に分類されるから、少数派と言うよりは、生存本能的にいない、と結論づけても良いかもしれない。
公共の場で提供できる、幸福を感じる神経伝達物質をドバドバ分泌してくれる設備とは、なにか。
見目の可愛らしい、大人しい魔物でも捕まえてきて、ふれあい動物園でも作るべきか。
犬や猫のような愛玩動物を「創る」方法も、一応はある。
イエイヌやイエネコなら、人間が危害を加えない限り、アチラから害することはしてこないし。
だが、この世界に当たり前のようにある霊力が、地球上にいた小動物にどんな影響を与えるか分からない以上、安易に生命を生み出すことはしたくない。
そうなると、この世界の魔物を無害化する方が良いのだが……
オキシトシンは人との繋がりで得られる機会の多い、安らぎを得られる物質である。
ご近所さん付き合い頑張って、ということで住む人本人に丸投げしよう。
なんなら、挨拶にハグをすることを法律で定めるか?
憎いと思っている相手以外なら、一五秒以上ハグをし続けたらオキシトシンが分泌されるんだし。
……絵面がいちいち鬱陶しいことになるから辞めておこう。
アルベルト程度なら良いが、筋肉ダルマなガルバに抱き着かれたら警察に通報したくなる。
癒しの物質であるセロトニンは、腸内環境を整えるのが何よりも大事である。
採れたて新鮮なお野菜を毎日食べて、公園やアスレチック広場で軽い運動をしたり、街中を散歩していれば充分だろう。
他にも、陽の光が射し込みやすい家の造りになっているし、一日の始まりに朝日を浴びる習慣もつけやすい。
噴水の近くで集まって談笑したり、軽食屋や屋台が増えれば、ベンチを使ってくれてもいい。
駄弁ることは、実は結構身体に良いのだ。
お風呂に浸かるのも良いって言うしね。
銭湯の利用料、安く設定するか無料日設けるかしよう。
ドーパミンは……なにか目標を達成した時に滅茶苦茶分泌される幸福物質だしなぁ。
日々のルーティンをこなすだけではなく、何かしら新しいことをチャレンジするのが良いんだよね。
カルチャー教室でも開けば良いのか。
あ、学校で実技演習する時は一般公開をして参加者を多く募るとかしてみるか。
やっぱ学校は必要だよな。
うん。
カノンの意見を聞かずとも、学ぶ施設はやはり必要だ。
後で建てよう。
あとはセロトニンと同様、よく寝て適度に身体を動かしてバランスよく食べ、お風呂に入れば問題ない。
食事に焦点を当てて言うなら、チーズやナッツ類が生成前駆体になるから、乳牛の確保がやはり大事だな。
ナッツ、この世界にもあるといいんだけど。
で、ドーパミンに変換させるためにはビタミンB六が必要になるんだよね。
一番手っ取り早く効率的に摂取出来るのはカツオやマグロの赤身の刺身。
……この世界だと難しいな。
なにせ海洋生物も皆魔物だし、牛や豚見たいに品種改良させることが困難だ。
うん、チロシンもビタミンB群も豊富に含んでいるバナナをハウス栽培しよう。
バナナってかなり有能な果物だしね。
それこそ、食物繊維が水溶性・不溶性共にバランスよく含まれているからお通じにも良い。
セロトニン生成にも効果的だ。
白血球を活性化させるから病気になりにくくなるし。
青いうちに収穫すれば出荷も出来る。
特産品としても、住民が消費するにしてもとても優秀な食べ物だ。
よし、ビニールハウス……はビニールが破れてしまった時大変だし、ガラス製の温室を造ろう。
脳内麻薬、エンドルフィンは運動負荷が掛かった時に多く分泌される。
ランナーズハイとか、良い例だよね。
他には美味しいもの食べた時にも分泌されるが……特に、痛みを感じた時に、その不快感を和らげるために、行き過ぎると気持ちいいとまで感じさせる分泌物がエンドルフィンである。
さすが別名、脳内麻薬。
この街をドMを量産する街にするわけにはいかないので、エンドルフィンは、わざわざ分泌させるためにこんな施設を作ろうとか、こんな政策を取ろうとか、行動を起こす必要はないな。
ココは、アレだ。
荒くれ冒険者すら恐れる、また味方になれば快眠をもたらす安心材料にまでなる、世界をまたにかけて超有名な賢者・カノン様がこの街の責任者であると知らしめるために、立派な像でも作るか!
銅像だと在り来りすぎるし、霊玉で作って夜は光るようにするとか。
クリスマスのイルミネーションばりに色んな色で飾ってすんげぇ眩しいの!!
意気揚々と十分の一スケールのフィギュアを片手に提案したら、チョップを通り越してアイアンクローを喰らった。
頭蓋骨割れそう。
見た目にそぐわぬ筋肉バカめ。
いてててテテて、マジ、割れるから!
離して!!
冒険者証はシートタイプよりも霊玉の方が格好良いからと言う、なんか微妙に納得しにくい理由で、首輪に埋め込むタイプのものに決まった。
ハイ、拍手。
霊玉って不思議な媒体で、情報の書込み・読取りもできる優れものなんだよね。
霊力もそうだけど、地球に存在したあらゆる物質の上位互換と言えるのではなかろうか。
なにせ、何にでも使えるし。
何にでもなるし。
ガスの代わりに火を熾すことも、電気の代わりに明かりを灯すこともできる。
そのエネルギーを貯めておくことも使用することも、媒介を通さず出来る。
言うなれば人間の意志が媒介になるのかな。
思い通り、イメージした通りに使うことが出来る夢のようなエネルギー。
素晴らしいよね。
そりゃこんなもんが溢れている世界では、欲を弱くしなければと短絡的に考えてしまうのも仕方ない。
実際は何でもできるのではなく、人がしたいと思った思想の脳波を受信した精霊が許可を出した事象のみに限り、実際に起こるだけなのだが。
なので、アルベルトがカノンに俺と手合わせをした時に精霊術が発動しなかった理由が何なのか分からない、と教えを乞うているのだが、そりゃそうだとしか言えないんだよね。
コイツが唱えたのって、地の精霊術だったし。
テルモが俺を攻撃する術を行使する許可を出すとは思えないんだよね。
嫌がらせにアクアとか、面白がってウェントスとかなら発動したかもだけど。
学校を作るのなら、そして冒険者が多く集まる街にするのなら、やはり精霊術の講義も必要だろうと思う。
そう言ったら、その道の先駆者であるカノンを筆頭に、何を教えて欲しいのか、どこまでなら一般教養として教えるべきかを講じている。
その延長で、先程の質問が出てきた流れだ。
俺は一般的に、と言われる範囲は微塵も分からないのでその様子を傍観するに留めている。
アレ? と引っかかる部分があっても口出しはしない。
精霊の皆に教えてもらったことは、正しい知識ではあるが、世間の正解だとは限らない。
家でカノンを何度打ちのめしたか分からない位に、常識と正答は解離しているのだ。
さっきのアルベルトの地精霊の術が発動しなかった理由は、地の精霊術で俺を攻撃しようとしたから、という解答が正しい。
それを言ったところで、精霊たちと俺の関係を正しく把握出来ていないカノンも、皆の存在自体知らないアルベルトたちも、到底理解・納得し受け入れられる答えではないだろう。
この場でコレが正しいだろうと導かれた答えは「より多い霊力を持つ者の術式に、アルベルトの精霊術式がかき消されたから」もしくは「同等威力の相反する精霊術が発動したから」となるらしい。
まぁ、その光景を見ていなかったから出てくる言葉だよな。
発動はしていたもの。
「ぽひゅん」と発動と同時に消失してしまったけど。
それにしても、術式、と言ったよな。
ということは、精霊術と言う事象を得るために、数式や化学式のように学問として確立している公式や方法が存在しているってことか。
俺もその講義、受けてみたい。
是非とも事実とどう違うのか比較して笑い転げたい。
あぁ、だからカノンが精霊術を教えてくれた時、霊力を一消費する時に発動する精霊術はコレ、みたいな教え方をしていたのか。
その霊力も、密度や練度で発動する術の威力が変わると言ったのもカノンなのに。
そんな、自分でも違和感を覚えるような結論を後世に残して良いのかね。
文字起こししなければならない、数の数え方や四則計算のドリル、五十音表などの教科書を作りながら、横で話を聞きながら手を動かす。
あとはレシピ本も作らなきゃだね。
やることが多い。
この街で採れる野菜一覧と、ソレを使った料理でなるべく作業工程が少ないもの。
応用がきくもの。
あとはマヨネーズも含めた基本のソースの作り方か。
調味だれって大抵、醤油・砂糖・塩・酢・味噌の割合で決まるし。
豆板醤とかオイスターソースとかもあれば良いんだけどね。
ここら辺でメインで使われている調味料は香味野菜と獣の脂だし。
ソレ、調味料って言わない。
比較的手に入りやすい調味料で簡単に作れるタレの味を覚えてもらって、そこから自分たちでレシピを開発していって貰えればな、と思う。
朝飯の食いつき具合からして、俺の味覚はこの世界の人達万人にも受け入れられることは実証済みだし。
先生役の確保もまだ出来ていないのに、アレもコレも用意するのは勇み足が過ぎるのではないかとも思うが、時間がある時に出来ることをしておかないとね。
王都に行けばカノンの思惑に乗ってあげなきゃいけないし、精霊の皆と合流すれば、皆の肉体作りの素材集めを優先することになる。
この街にいつ戻ってこれるのか分からないのだ。
やれるうちにしておく。
この世界において理化学の分野が地球のソレと同様に通じるとは思えないしナシで。
国語は平仮名のようなカタカナのような文字しかないから、日常で使う単語や数字が読み書き出来れば充分。
算数は四則計算。
加減乗除と……分数の計算は教えるべきか。
時計の見方も教えたいな。
鐘の音だけを頼りにするのは大雑把すぎる。
社会は俺が習いたいくらいなので指針が作れない。
後でカノン達に、大人になるまでに身につけておかなければならない常識を聞いておこう。
家庭科は料理と裁縫、それに衛生管理を身につけて欲しいから掃除・洗濯もかな。
自立した時一人暮らしになっても最低限のことは出来なければ、汚部屋に住むことになってしまう。
技術の代わりに精霊術。
出来るなら、今後冒険者が増えた時のために、付与も学んで貰えたら良いなと考えている。
体育は護身用の体術と剣術でも教えるか。
あと、動的ストレッチとして滅茶苦茶効率の良いラジオ体操を覚えてもらいたい。
ラジオはないけど。
道徳で集団行動のルールを学び、自分で考える能力の向上を図る。
図画工作ってどうだろ。
必要かな。
技術の中に組み込むか。
付与の他にも、生活圏内にあるもので武器防具の作り方でも学んでおけば、万が一の時に使えるだろ。
家の家具全般備え付けのものばかり使っていても不便だろうし。
ないなら自分で作れるようになれ。
そんな願いも込めて、技術の単元で実施するようにしてもらおう。
精霊術講座から、魔物の生態講座に移り変っていたのを聞いて、そうか、理化学は不要でも生物学は必要かと考え直し、プログラムの再編集をした。
ココら辺に棲む魔物を一通り見ておきたいな。
スケッチ程度で良いなら紙への出力くらいできるでしょ。
魔物の特徴や獲れる素材、注意事項を書き込めば、冒険者ギルドの教本にも使えるかも。
最悪「スキル」を使って作ろう。
チートって便利!
絵心ある人がいればと思うが、流石に学校で教えるまではしないかな。
芸術分野まで育成に手を伸ばすと、最初からやり過ぎな気がするので自重しておく。
ただでさえやり過ぎ感が否めないし。
社会科とか家庭科は、各ご家庭で必要なら教えなさいってしても良さそうと思うんだよね。
まぁ、とりあえずね。
俺の理想の百分の一位の教育課程を反映させたということで、カノンにお伺いをたてた訳ですよ。
サッと目を通したら、相変わらず、不機嫌そうな面持ちで頭を抱える反応を返された。
「……お前は、国家転覆でも目論んでいるのか?」
ベッチョベチョに水が滴ってる布を着せるの辞めていただけませんこと!?
言いがかりつけるなよ。
犯罪者扱いをするな!




