神さま、野菜と会話する。
ブックマーク登録してくださった方、ありがとうございます。
いつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます!
カノンの家でやっていた実験。
幾つかあるうちのひとつに、農作業の効率化が挙げられる。
薬草畑こそキチンと手入れされていた彼の畑。
しかしソコとは裏腹に、野菜が植えてある畝は適当だった。
育てばいいとばかりに最低限の肥料と水しか与えられず、肥料もろくに混ぜられずムラがある。
雑草はかろうじて大きくなったもの、目に付いたものだけ抜いたと判断出来る程度だった。
優先順位が分かりやすすぎる。
そこで地の精霊テルモと、前世で植物遺伝子学研究に従事していたアクアと共に、種子の改変を試みた。
植物というものは実に優秀だ。
適応機構が非常に優れており、限られた遺伝子資源を巧みに変化させ、環境に適応した姿形に進化していく。
動物よりも余程少ないゲノムの数で。
いや、少ないからこその適応能力なのか。
有名なのはライ麦か。
元々小麦畑や大麦畑の雑草でしかなかったライ麦の祖先。
小麦や大麦に似た個体が除草を免れた経緯から、徐々に小麦・大麦に似た個体に変化。
そして最終的に優秀な穀物としてヒトに育てさせることに成功し、後世にその遺伝子を残すことに成功した植物だ。
芽を似せ、成長後の姿形を似せ、穂を似せ、実を似せ……遂には目指した小麦や大麦よりも優秀な養分を豊富に含んだ穀物になるとか、とんでもない進化である。
青は藍より出でて藍より青しと言うコトワザがあるが、そんな感じなのかな。
弟子が師よりも優れた人物に育つという意味だし。
あぁ、でも、ライ麦の場合は栄養は豊富だが、味が小麦に劣るんだよね。
一長一短あるし、師より優れてるとは断言できないか。
何千年も前の遺跡から発掘された種子が芽吹いたり、その土地の固有種が外来種に淘汰されたり、植物は強さと弱さの両面を持つが、大抵その弱さはヒトの考えなしな行動によって引き起こされた悲劇によるものだ。
一部のヒトってホント、生態系崩すの好きだよね。
それこそ、人の手の届かないところでヒッソリと生きながらえ、善良な人の手により保護された植物たちは、強く永く後世にも遺された。
植物ほど強い生き物はなかなかいないだろう。
その植物がこの世界において、後世に自分たちの種子を残すために取った進化の形。
外敵から身を守るためなのであろう。
堅い殻に被われ、採取の仕方を間違えると爆発し、適切な処理をしないと毒物になる。
そんな植物が溢れまくってる世の中になってしまった。
お野菜の殺意が高すぎる。
もちろん、経験談だ。
ハンマーで皮を叩き割らねば食べられない堅いもは、皮さえどうにか出来れば中身はホクホクと甘みのあるジャガイモだ。
その硬さが凶悪で、岩いもとも呼ばれている。
ホント、岩のよう。
万力が欲しくなる硬さ。
皮がついたままの堅いもは確実に鈍器になる。
きっとそんなもので殴打されたら死んでも死にきれない。
グラナムと呼ばれる果物は、温めると爆発する習性がある。
温めると言ってもお湯に放り込んだりフライパンで焼いたりみたいなことではなく。
素手で触るだけでアウト。
軍手程度の遮断物でもダメ。
うっかり素手で触ったら、中の種子が勢い良く四散し、体内の肉を抉ってくれる。
貫通はしない程度の威力なのでタチが非常に悪い。
なので凍らせてから収穫するのが正解。
熱を加える方で急激な温度変化を与えると爆発するので、食べたい時は流水解凍をオススメする。
海鮮の解凍方法と一緒かよ、と言いたくなるが、正しくその通りだ。
果物のくせに海を漂って来るせいなのか、磯臭いんだよね、コイツ。
見た目はザクロっぽいんだけど、味はエビみたいなの。
どんな木に成っているのか、一度見てみたいものだ。
さすがにグラナムの近縁種を見つけることは出来なかったが、堅いもなんかはまんま地球のジャガイモが、他にも白菜、キャベツ、タマネギ、トマト……沢山の地球で慣れ親しんだものと類似した野菜が見つかった。
それらは、全てこの世界の野菜よりも下処理に時間がかからない。
この世界の人達に時間のゆとりを与えよう。
俺も野菜の下処理に何時間もかけるのは嫌だし。
この世界の野菜と地球の野菜の良いところ。
それぞれ吟味し、環境に悪影響を与えず上手い具合に遺伝子改変したお野菜を生み出せないか。
その実験をした。
それと併行して、霊力が与える野菜への影響があるかの観察もした。
結果としては、霊力が豊富な土壌であれば堅いもの皮はそこまで堅くならないこと。
また肥料は多くいらないこと。
ワザと霊力を抜いた土では堅いもの皮はより強固になり、肥料の有無で味の差が顕著に出た。
肥料が無いと、ジャガイモ特有の、あのホクホクした口の中で自然とほぐれる食感も、コクのある甘みも感じられない。
コレは、なんぞ? と、理解しがたい味と食感に思わず宇宙猫状態になった。
アレはスイートコーンと間違えてデントコーンを食べてしまった時の衝撃に近いかもしれない。
口の中にネッチョリとまとわりつく甘みのない独特の青臭さはトラウマレベルである。
口が閉じることを拒否して、口内を洗浄しようと唾液が滝のように溢れてくる。
噛むのも飲むのも脳ではなく本能で肉体が拒否してくるあの感覚。
毒ではないのによくもまぁ、アレだけの拒否反応が出来るものだと感心した。
いくらマズくてもちゃんと食べた俺を褒めて欲しい。
遺伝子改変した野菜も似たような成果だったが、さすが欲しい結果を時短でもたらすための遺伝子改変。
わき芽かきの必要もない。
着果促進も追肥も不要。
実った野菜は味も濃く糖度も高い。
何コレ?
バグった??
ってレベルでうまくいった。
土壌改善として、霊力の内包量を多くするために地精霊の眷属として新たな土壌生物を指定して貰いもした。
テルモは嫌がったけど。
土壌生物との共生は大事ですよ。
見た目が嫌なのは分かるけど。
モグラだって指定しているのだから、今更ミミズくらい増やしたって良いじゃんね。
一代限りで実り具合に変化はないか。
ナス科やアブラナ科の連作障害は起きるのか。
可能な範囲でチートを使って時間の早送りなんかもしながら実験を繰り返した。
この街の農業区はその実験の集大成なのだ。
種から発芽、成長、結実までの手間を減らし期間を短縮。
その上収穫物を増やし栄養も豊富、味もより濃く甘くなるようした。
自動ではないが灌水装置により水やりの手間を減らしたし、大気中から霊力を集められるようアンプルのような形の紋様具もセットした。
子供が手伝わなくても問題ないように、ある程度に留めてはあるが、農業の簡易化をはかってある。
さすがに堀取機や耕耘機の導入は見送った。
どこまで機械化を促進して良いのか分からなかったし。
収穫の手間は、面積の分だけ増えるが、それだって少しでも楽できるように椅子とカゴが付いた作業車や台車を複数用意した。
効率は格段に上がる。
そう言う説明を立派に努めてして、子供たちの通学許可と推進を町長さんに協力して貰うのだ!
上の人から薦められたら下々はNOとは言えまい。
くっくっくっ。
そんなゲスい思惑を胸に宿して農業区に来た訳なのだが、なんか、おかしい。
人の気配はない。
霊力による感知でも確認してみるが、人は引っかからない。
街中なので当然、魔物もいない。
なのだが、なんか……なんと言えば良いのか。
変なのがいる。
品種改良した種を植えたハズの畝に、こう、一列になって埋まっているのだ。
全体的に茶色をしてて、パッと見ただの植物なのだが、よくよく見ると葉っぱを頭にくっつけた、幼い子供のような、胸から下が土に埋まったナニカが。
作ったばかりの街でまさかの生き埋め事件勃発!?
「あれは、まさか……樹の妖精では」
「どりゅあす?」
「人間の形をした魔物です。
森に迷い込んだ者を惑わせて攫ったり、精気を食い尽くすと言われております」
あ〜、ニンフとかドライアドって神話で呼ばれている、ニンフォマニアの語源になった、アレか。
美しい若い女性の姿をしているって言うけど……どう見ても、子供だぞ。
二度見、三度見をするが、何度見ても頭身が低い。
妖精にも人間のような成長過程があるのだろうか。
イヤ、妖精じゃなくこの世界では魔物分類なのか。
だが、直接目で見ても気配で見ても、魔物と言う感じはしない。
鑑定眼を発動してみる。
確かに樹の妖精とは出ているが魔物の表示はされていない。
何をふざけているのか『テルモ様の眷属なの〜。作物を育てるの〜。得意なの〜。いじめっ子にはイタズラするの〜。今は寝てるの〜。』とトコトン間延びしきった説明が書かれててイラッとする。
とりあえず、寝てることは分かった。
実物見れば分かるけど。
並んで土に埋まってるヤツの中には鼻ちょうちんを作っている個体までいるからな。
……鼻ちょうちんが作れるってことは、コイツ、息をしているってことか。
妖精って植物ではなく人間に身体の作りが近いんだな。
まぁ、見事に全員がスヤァと健やかに寝ていらっしゃる。
樹の妖精の単語に町長も護衛も後退って農業区から出ていってしまったので、安全だとアピールしたいのだが。
さすがに熟睡をしている所を起こすのは忍びないな。
どうしたものかと思案しながら近付けば、一番手前にいた樹の妖精の目がパチリと開いた。
双眸は白目の部分がない。
それどころか、開かれた瞼も欠伸をする口も、その奥も、全て木で作られたように木目が走っている。
木製のからくり人形のようだ。
あまりにも滑らかで自然な動きをするので、オートマタの類ではないことは確かだが。
その不思議な瞳がコチラを見上げたと思ったら、へにゃりと目尻が垂れ下がり、満面の笑みを浮かべた。
「Hellow〜」
「は?」
「Morni〜n」
「Did you sleep weeeell?」
「Sup〜p?」
「Wakey〜 wakey〜」
舌っ足らずな挨拶を皮切りに、横に並んで埋まっていた連中も次から次へと目を覚ます。
そして間延びした、それこそ、あの鑑定眼にあるような、脳ミソ溶けてんじゃねぇのかと言いたくなるような、マヌケに伸び切った言葉で挨拶を告げてくる。
あ、俺、ダメ、こういうの。
蹴り飛ばしたくなる。
突然フレンドリーに接されても対応に困る。
ゲンナリしながら、最初に挨拶をしてきたヤツの脇を抱えてズボッと地中から引きずり出すと、腕を上げて喜ばれた。
高い高いしてる訳じゃねぇんだけどな。
「I a〜m a Thermo's ser〜vant. I 〜grooow crooooops. I a〜m very〜 goooood at it. I just woke u〜p. Goooood mornin〜〜.」
「I know it」
あ、ウザい。
うっせぇ失せろって言って放り投げたい。
今返答して気付いた。
コイツら英語を喋ってるな。
テルモの眷属は英語がネイティブなのか。
あぁ、テルモに限らず精霊の配下は英語を喋るのかもしれない。
この世界では精霊語って言われてるし。
人間の日常会話では使われて無いんだよな。
カノンも難解な言葉だと言っていた。
なんでココに居るのかもそうだが、何のためにココに居るのかとか、居座るつもりなのかとか、色々聞きたい。
もし害がなく、このままこの街に居座るつもりなら、街の住民と言葉が通じないのは非常に困る。
特に説明書にあった『いじめっ子にはイタズラする』の文字。
こいつらにはイタズラ程度の甘いお仕置やじゃれ合いのようなものだとしても、人間相手だと下手をすれば死人が出る。
意外と強いよ、コイツ。
見た目コレだけど。
「Don't you speak Japanese?」
日本という国がないのに日本語喋れねぇの? って聞くのも変な話だが、考えてみれば日常会話に使われているこの言語がこの世界だとなんと呼ばれているのか知らないし。
キョトン、とした顔つきで小首を傾げた後「はなせる〜」とはしゃぎながら言われてホッとした。
コイツの通訳しろって言われたら精神的にシンドいから無理って逃げる所だったよ。




