神さま、改造する。
クマの解体描写があります。
苦手な方はご注意ください。
関所を作るために門前を改修工事するのなら、ついでに解体場も外に作れば良いのではないか。
そんな案が出たので字面に見取り図を描いて、あーでもない、こーでもないと言いながら全員を巻き込んだ。
もうこれ以上改善案がないことを確認したら、清書をする。
書き込みが多過ぎると作る時に迷走しちゃうからね。
そして堀から再度クマを引き上げ一旦安全な場所に避難させた。
今ある石材だけでは図面通りの設備を作るのには足りないからね。
堀を更に深くしたり、地面を通してどこかから材料を確保してきたりする必要がある。
そうなると、表面上はそこまで激しい変化は感じられなくても、地中や水中では結構な物質の移動が行われる。
流石にこの量を「スキル」で創ったら大変だから。
クマさんが堀の中で揉みくちゃにされてしまったら素材の回収も出来ないし肉も食べられなくなってしまう。
ソレを避けるために引き上げたのだが……近くで見るとやはり、デカいな。
何が起こるのかとワラワラ近寄ってくる野次馬達に危険だから離れるよう声をかける。
なのに一向に遠ざかろうとしないので、橋の中央まで伸びる石橋を、ワザとソイツらの足元を陥没させて造った。
転ぶ人が多発したが、軽い怪我だけで済んだのだし良しとしろ。
離れないお前らが悪い。
もう一度危険だから離れるように、と笑顔で言ったら一目散に逃げていった。
最初からそうしろ。
地面に描いた完成想像図を確認し、頭の中でイメージする。
幅広に作った石橋の、向かって右手側は関所に、左手側は解体する魔物の引き取り窓口に。
狩った魔物の放血をさせるためにぶら下げる吊り具や滑車も裏口側に造る。
マグロみたいに、魔物の解体ショーなんかすると盛り上がるかもしれないじゃん。
見世物にはならなかったとしても、解体作業の見学は勉強にもなるだろうと、街の中からでも外からでも見られるようにオープンスペースとなっている。
ここに繋がる裏口とは別に、冒険者ギルドと直に行き来出来るひみつの通路も造る。
引き取った解体ショー映えしない小型の魔物なんかはここからギルド裏の倉庫に搬入する。
大きすぎて中に入れられな魔物が運び込まれた時は、解体後にこの通路から運び込めば良い。
みるみる出来上がっていく外観と反比例して、歓声が小さくなっていくのは何故なのか。
盛り上がりに欠けるヤツらだ。
こんなもんかな、と霊力を注ぐのを辞める。
それでもクレーンも滑車も、作ったものは全て崩れず自立してくれていた。
動作に自由度があった方が良いのでXY移動クレーン式にしたので縦横スムーズにフックを移動させられるし、耐荷重量も計算上は一〇〇tまでならイケるようにした。
うん、ぶっちゃけ「スキル」も使いましたよ。
そうじゃないと、こんな小スペースにそんな重量物ぶら下げられる手動の機械なんて作れるわけがない。
そう、手動なの。
自動じゃないの。
俺の予想通り、圧縮した霊力を身にまとうことで、筋肉や骨など、任意の強化が可能だそうだ。
“身体強化“と通称で呼ばれていて、その名の通り攻撃力も防御力も強化してくれるスグレモノ。
ただし、霊力のコントロール力も総量も必要だから、扱える人はまだまだ少ないそうだ。
アルベルトはお貴族様時代に家庭教師兼、自領の騎士団長に教えて貰った。
そのアルベルトに三バカは教えて貰ったのだが、なかなか身につかず、ガルバがなんとか利き腕にだけ使えるようになったのがつい最近のこと。
その何とか使える程度でも、筋力の増大値が余りにも多く、自分は無敵だと勘違いしてしまって暴走気味だったから、今日君に負けて良かったよ、とアルベルトはため息をついた。
バカだからね。
痛い目見ないと分からなかったんだ。
保護者、と言うよりは駄犬の飼い主か。
苦労するね。
俺が霊力をダダ漏れさせてしまっていた時にカノンが教えてくれた、霊力が外に漏れないようにするために作る霊力の膜。
アレの応用だそうなので、基本が身についていた俺もアッサリ体現出来たんだろうね。
鑑定眼でどんなカラクリなのか分かったからってのもあるけど。
その身体強化は、アルベルトが広げていて、精霊術師に弟子入りさえすれば、最近は基礎練習として教わることが多くなってきているそうだ。
なので、今はまだ使える人が多いとは言えないが、そのうち増えれば精霊術師、並びに冒険者の活躍の場が増えるだろうと微笑む。
今の精霊術師の扱いにメスを入れたいのは彼も同じなようだ。
三バカは霊力はソコソコあるが、荒くれ者故に町を追い出された経歴上、誰かに弟子入りをした経験はなく、アルベルトが教えている最中なので、今は絶賛修行中である。
だから霊力あるのに皆杖持っていなかったんだね。
なるほど、納得。
長ったらしい詠唱をするのも、その言葉を聞き入れてくれた精霊がいれば術が発動するからか。
霊力をうまく扱うことが出来ないのに、詠唱を教えちゃうとか、順番的にどうなのよ。
カノンの教え方とは全然違うけど、それは師事する人によるのだろうし、良いのか。
地図の端っこに位置するこの街が、今後どれだけ人が増え発展するのかはまだ未知数だが、身体強化を使える人さえいれば、無理に自動巻き取り式にしなくても、手動でレバーを回すことも出来る。
俺がいないと稼働もメンテナンスも出来ないような機械を作るくらいなら、使える人を雇った方が良い。
なのでクレーンを作動させるのはなかなか骨が折れる作業にはなるだろうが、手動式と相成った。
試しに約五t――もないか。
濡れているとはいえ、放血したから結構軽くはないっているはずだ。
それでも、四tは余裕であるが。
少々軽くなったペンナウルスをフックに引っ掛け吊し上げる作業を皆でやってみる。
俺・アルベルト・ガルバは一人で一通りの作業が出来た。
サージとジャビルは、一人だとかなり厳しいが二人でならリールの巻き取りも出来る。
そんな感じ。
まぁ、出来ると言っても、俺とアルベルトはあっさり。
ガルバは勢いに乗るまではリールの巻き取りに苦戦していたが。
出だしさえなんとかなれば、あとは問題なかった。
滑車も十字のクレーンも、強度の問題はない。
ただ、扱いを雑にすると結構ギシギシと嫌な音がするのが怖い。
計算上は問題ないとしても、下手な扱いをして負荷を大きくすれば、その分耐荷重量は落ちる。
特に接続部分がね。
繊細に扱え、と言って聞くようなヤツばかりではないしなぁ……この三バカも含む。
あ、公園をアスレチックに改造するのも良いかもしれないな。
あ〜ああ〜ってやるの、楽しそう。
ガッシャンゴッションとレールと滑車を軋ませフックにぶら下がって遊んでいるのを見て、つい遠い目になってしまった。
完全に油断していたのもあるが、不意に後頭部に打撃を受ける。
打撃って言っても戯れのようなもので、痛くもかゆくもないのだが。
こんなことをするのは一人しかいない。
忘れてた!
カノンが待機してくれてるの!!
今まで良い子に街中の門前で待っていたのだろうか。
想像するとちょっと和む。
昨日と見た目が変わった街道側の門を見てコメカミを抑えたカノンだが、頭を振って目の前の現実を受け入れた。
気持ちの切り替えが早くなったねぇ。
アルベルトと溜息キャラが被るかと思ったのだけど、その心配はなさそうだ。
「大猫種か。
さすが、大きいな」
吊るされたペンナウルスを見上げてカノンが言う。
コイツって固有名詞ではなく分類で言うんだよね。
しかも、多分だけど。
ソレって一般的には使われていない。
教えてくれる名称も、なんかずれてるっぽいんだよね。
シッポの付与をする時、コレは珠玉種だよとか、珠獅子のだよとか言っても通じなかったもん。
「……因みに、このクマの名前は?」
「ペンナウルス」
…………うん、たまたまだ。
どっちが、なのかはまだ判断出来ないけど。
街の中に入れるためにもクマの解体をしなければならない。
夕飯の支度もそろそろし始めたいし、手っ取り早く進行しよう。
「欲しい部位は?」
「胆嚢と手足」
熊胆と熊蹯ね。
左手が一番美味しいのって異世界共通なのだろうか。
このデカさと毛深さを見ると、食べる気にはなれないが。
ってか、コイツ。
薬の材料じゃなくチャッカリ高級食材確保しやがったな!
身体の一部が羽毛に覆われているので、コイツ、クマのくせに冬眠をしないそうだ。
「穴いらず」なんて俗称で呼ばれてるらしい。
栄養不足で冬眠出来なかったクマが「穴持たず」と呼ばれる獰猛な脅威とされていたが、今世のクマは冬眠場所を確保しなくても良いように進化したのか。
ほほ〜。
それでスクスクと育ちすぎてこんな大きさになったという訳か。
かなり強い肉食の魔物だから、どの季節に狩ったとしても、常に脂がのっていて美味しいそうだよ。
やったね。
滅多に遭遇しないし、遭遇したとしてもどちらかと言うと人間の方が狩られることが多いので、美味しいらしい、という言葉の方が適切だそうだが。
怖いこと言われた。
お腹開いたら人間出てきたりとかしないよね??
解体は手伝いくらいしか出来ないと言うサージは今回見学。
対象に気付かれずにスリが出来るなら器用だろうし、ぜひ覚えて貰いたい。
特等席の返り血が浴びれそうな位置まで引っ張ってきた。
邪魔にしかならない村の人たちは、危なくない距離まで近付いて様子を見ることに。
ガルバは、万が一器械の不具合があった出た時のためにペンナウルスの巨体を支える係。
大雑把すぎて、せっかく傷のほとんどない毛皮がとれる貴重な機会なのに、ヤツの手にかかったからズタボロにされてしまう! とアルベルトが拒否した。
その彼とジャビルはカノンに解体のコツを教えて貰いながら実践。
二人とも我流だから素材の剥ぎ取りだけは早いが丁寧な仕上がりにならず、肉も可食部と非可食部がよく分からないからと、骨周りの肉は全て棄ててきてしまったそうだ。
もったいない。
どうにかしたいとは思うが、教えてくれる人が今日まで現れなかったため、教えようかと申し出てきたカノンの言葉に目を輝かせて喜んだ。
俺は必要な道具を創る係だよ。
手袋もフードも、コレだけ人がいると外せないからお手伝い出来ないんだよ。
汚してしまった時の替えがないからね。
早速、不要な内臓を入れるためのバケツと、食べられる部位を入れるバケツと寄越せと言われた。
バケツなんてサイズじゃ到底足りないから、食材を入れる方は煮沸消毒もしやすい金属製で。
不要部位を入れる方は土に埋めるために運ぶ必要があるので車輪付きの大きいタライを創った。
剥離した毛皮が閉じてこないように留めるため、ミクリッツ鉗子のように先端が曲がったハサミのような形状の器械を大きいサイズで複数創る。
解体の仕方やコツを教えるのに、腹部を開いた状態で見せたいんだって。
毛それなら、皮を剥ぎ取る作業を先にすればいいのに。
胸から腹に掛けて一直線に切込みを入れ、そこから手足に掛けてナイフを入れていく。
左手側をカノンが見本と言って処理をしたので、やはりこの世界のクマも、左手が一番美味しい信仰があるのだろう。
ジャビルの方は問題なさそうだが、アルベルトは手こずっているな。
身長がソコソコあって鎧をガチャガチャ言わせながらしゃがんで作業するのが大変なのかな。
カノンの手元が見やすいからと右手側を陣取ったのが悪手だったか。
まぁ、それもあるだろうが、持っているナイフの切れ味がイマイチらしく、一気に切り裂くことが出来ずに切り口がガタガタになっている。
手間取っているのはこのせいだろう。
カノンに目線を貰ったので、俺のナイフを貸してやった。
切れ味が悪いナイフを使ったら、変に力が入って怪我の元になるからね。
そう思っての親切心だったのだが、切れ味の違いに手をスパッと切ってしまった。
手袋着けてるのになんでだよ。
感染症とか怖いし綺麗に水で流して治癒術をかけてやった。
そんなことをしている間にも、カノンは手際よく手首にグルりとナイフを入れ、関節にその先端を刺し込み、ベキっと、意外と軽い音を立てて手首を切り離した。
やはり、どんな大きな魔物でも、関節は弱いものなのだね。
自分が確実に確保したい部位は別のタライに入れたいらしく、小さめのタライと、この後取り出す胆嚢を縛るための頑丈な糸を寄越せと言われた。
人使いの荒いヤツだ。
意外と、門の内側で無駄に待たせたことを根に持っているのかもしれない。
緊張しながら作業をしているせいか、既に汗をかいている三人。
その緊張が、怖〜いカノンに教わってる状況に対してなのか、デカい売れば結構なお値段になるらしい獲物をキレイに捌かねばと言う思いに対してなのかが、外からでは判断出来ないね。
遠目でも分かるくらい太い血管が通っている腹膜を破ったら、流石に血が飛び出して来たので、カノンの指示に合わせて水をぶっ掛けながらの作業になった。
死んでから放血するまでに、やはり時間がかかり過ぎたようだ。
面目ない。
露わになった臓物は流石に何度見てもグロい。
肝臓に隠れている胆嚢を素早く取り出し、用意してあった糸で中身が零れないように手際良くキュッと結んだのだが、早すぎて何をどうしたのかイマイチよく分からなかった。
うん、まぁ、言葉で補足すると、肝臓の一部を犠牲にすることで胆汁が零れにくくなるよ。
あとは、胆汁がついた所は食べられなくなるから零さないように手際良くしなきゃだよ、と言うことだ。
胆汁、胃液以上まで吐いたことがある人なら分かるだろうけど、物凄く苦いから。
黄緑色がかったそれは乾燥させねばならないからと手渡された。
乾燥させておけってことね。
了解。
肝臓、心臓はタライの中へ。
胃袋や腸はどうするのか聞いたら食べるとの事なので、嫌な顔を隠そうともせずに洗いまくった。
だってコイツ肉食なんだもん。
臭いも酷いし、内容物がとにかくグロい。
未消化の部分から消化途中の分まで満遍なくグロい。
モザイクかけたい。
ニンゲンが出てこなくて良かったと思うが、見る人が見たらトラウマになるレベルで赤黒い。
しっかり洗って、更に洗って、生臭さがマシになったところでタライの中へ。
デカイだけあって胃も大きかったがとにかく腸が長い。
コレ、ホントに全部食うの?
「ココとココを切ると、内臓が落ちる」と言った通り、ボドリと一気に重量が減ったペンナウルスを吊るしていた金具が、反動でギジリとしなりクマの巨体が揺れる。
しっかり押さえていろとガルバが怒られた。
呆けた口をあけたままの顔で覗き込んでりゃ、支える力も抜けるわな。
足の付け根にナイフを入れて脚を取り、腕も取る。
脂を皮に残さないよう、微妙な感じ色味の差を見ながら焦らず少しずつ剥ぐとか、手元をしっかり見て自分の肉刺さないように気を付けろとか、キチンと先生をしながらカノン指導のもと解体は進んでいく。
脂は料理にもロウソクにも使えるから、別のタライにそれだけ入れる。
脂を程よく剥ぎ取り終えたら、肉を削ぐ。
アバラをどうするか聞かれたのでスペアリブ食いてぇ! ということでアバラも確保。
背骨も処理をすれば、主にレンガの硬質強化の素材として使えるそうだが、今回はその処理を出来る人がカノンしかいないので、不要な内臓と一緒に土に埋めることにした。
頭蓋はコレクターが王都にいるから責任もって脱脂すると、また別のタライを俺に用意させ、イソイソとその中に入れた。
その様子を見るに、結構良いお取引先だな。
高値で買ってくれるなら、煮込む様のデカイ鍋も、脱脂用のアセトンもオキシドールだって用意するぞ。
俺は冒険者ギルド設立のために軍資金が欲しいのだ。
全ての処理を終え、不要な部位は街から離れた地面に穴を開けて埋めた。
手分けして肉を街へと運ぶ村人達の顔は笑顔に包まれている。
実際に体験してみて、解体場に必要なものやあった方が便利なものを聞きながら、道具や足場を水で流して掃除をする。
結構な水が必要なんだな。
そりゃそうか。
コレだけデカい獲物なら、血液の量だってそりゃ多かろう。
ポンプココにも設置しなきゃな。
疲れただろうし、追加の道具を作るところを見られたくなかったので俺一人だけ残ったのだが、凄い勢いで冒険者組が戻ってきた。
「なんだよ」
「なんだよはこっちの言葉だよ!
なんだよ、あの建物は!?」
「?
どの建物のこと??」
冒険者ギルドなら目の付け所が違うね! と褒めてあげたいところだが。
カノンがツッコミを入れてきた設備は街の入口にはない。
イヤまぁ、街を案内してる途中で冒険者連中の迎えに行ったから、ツッコミを入れるタイミングがなかっただけかもしれないが。
何の変哲もない、普通の建物しか建ててないぞ、俺。
「二日しか経ってないのになんで街一個丸々できてんだ!?」
あ、な〜んだ。
そんなことか。
「精霊術使えば誰でも出来るっしょ」
「できるねぇよ!!!」
ため息キャラが被らなくて安堵していたのに、ツッコミキャラが被ってしまったか。
どんまい。




