神さま、うっかりする。
折れた剣を悲しそうに見つめ、分かりやすく肩を落としている様子を見ていると、流石になけなしの良心が痛む。
三バカに加え村の人まで慰めだしたものだから、完全に俺が悪者状態だ。
喧嘩売ってきたのアイツらなのに!
俺はソレを買っただけなのに!!
そもそも買うなと言う話か。
ゴメンなさい。
鉱物の類も地の精霊管轄だし、致し方がない。
パパっと直してしまおう柄と切先、両方貸してもらう。
「そんな紙や布じゃないんだから。
糊でくっついたりしないよ」
引き攣りながらも笑顔で対応するあたり、アルベルトは紳士だねぇ。
そのアルベルトを盾にしながら「そーだ、そーだ」とヤジを飛ばしてくる三バカとは大違いだ。
視線を向けただけで黙るくらいなら最初から黙ってろ。
ったく。
強い魔物を素材にする程強い武具を作ることが出来る。
その理由は攻撃力や防御力のベース値が高いからと言う理由の他に、霊力がより多く入るから、と言うものがある。
霊力が入れば入る程、付与出来る効果や属性がその分多くなるので、強い武具を作ることが出来るというわけだ。
あくまで例えだが、ザコだと五枠しかない付与スペースが、強い魔物だと五0とか一00とか、遥かに多い枠を持っている。
相反する性質の素材を付与しようとすると、通常の倍以上その枠を消費してしまうので、枠がスグに埋まってしまう。
だから、相反する属性は付与は出来ないと思われている。
あとは、枠的には問題なくても、ザコ素材をベースにすると強い魔物素材の付与が出来ない。
魔物は死んだ後でも、強者は弱者に屈伏するような状態になるのを拒否するらしい。
ワガママである。
まぁ、余程思い入れのある武具じゃない限りはそんな勿体ないことしないだろうけど。
実際は、元素材の枠が少なくても、霊力でその元素材の枠を無理矢理拡げて押し込むことは可能である。
かなりの力技になるし、霊力の消費量も滅茶苦茶多くなるが。
あとは、相反する属性同士の間に緩和剤となる希少素材を挟み付与する方法なんかもある。
まぁ、労力と効果があまり見合わないのでやるだけ損だ。
色々カノンから教わった時、物は試しと散々マントへの付与でやりまくったから、感覚は覚えている。
んで、この折れてしまった剣は普通の鋼に、なんだろ、この魔物素材……う〜ん。
角狼の若い個体の角、かな。
鑑定眼で答え合わせ――うん、正解。
そのふたつを混ぜて鋳造したんだな。
地属性で、付与枠が二0ある鋼に、同じく地属性の大山猫の牙、硬質強化・付与:五と、そこに無理矢理、風属性の王冠鳥の羽根、物質軽量化・通常付与:五の所、相反する属性のため強制付与劣化効果:二が付与されている。
その無理矢理つけた風属性のせいで、硬質強化は弱体化しているし、物質軽量も効果があるとは思えない。 程に弱体化している。
枠に空きがあるのに何でこんなことしてあるんだろう?
コレの付与をしたヤツ、センスが壊滅的なのか、全く付与のことを知らずに適当にしたのか、どっちだ。
カノンが見たら激怒しそうな仕上がり具合である。
俺も、何度霊力に任せて無理矢理色んな属性を付与しては怒られたことか。
テルモに料理に例えられて教えて貰ってからはコツを掴んだし、力任せに付与しちゃいけない理由も分かったから、怒られたのは最初の方だけだけどね。
付与された性質を剥ぐのは実は簡単だ。
俺の場合は血と霊力があればベリっと剥せる。
他の人の場合は聖水があれば、聖水と大量の霊力を叩きつければ剥せる。
力技でイケるから、付与をするより余程楽である。
アレコレ考えなくていいし。
剥ぐのに関してはそれ以外の方法がない。
それに霊力を多く流せば流すだけ剥がれやすくなるので、多めに流してもカノンに怒られないのが良い。
という訳で、剣身を指でなぞって血を適度につけて、くっつけるのに邪魔な軽量化をベリっと剥がす。
ついでにろくな素材が使われていない硬質強化も剥がしてしまう。
大山猫の牙が悪いわけではないが、手持ちでもっと良い素材がある。
珠玉種の素材って全体的に高品質なんだよね。
実はアイツら強いらしいし。
しかも、軽量化や速度強化の付与効果を持つ魔物は基本的に風属性のことが多いんだけど、珠獅子のシッポは地属性なのに軽量化の付与が出来る。
折ってしまった詫びも兼ねてしっかり付与をし直してあげよう。
剣の断面にも血を塗ったくり、地属性に変換させた霊力を流し結合させた。
瞬間接着剤のようにすぐに固まる。
その後、日本刀造りに欠かせない技術、甲伏せのように、内側はそのまま比較的柔らかい鋼のままにし、外側を硬質化付与を施し硬くする。
日本刀って言うのは、鋼が炭素と結合することにより硬度が変わる性質を利用している。
炭素量を調節して柔らかい芯鉄を内側に、それを包み込むように硬い鋼の皮鉄を被せて造り上げるのだ。
その構造と適度な反りのお陰で薄く細い刀身でも強度があり、斬ることに特化した武器に仕上がる。
一振作るのに手間もかかるし熟練の技術を要する。
この手の大剣のような西洋剣は鋳造だ。
型に液状まで熱した金属を流し込んで造られる。
品質がある程度保証され、比較的安価で大量生産が可能になっている。
ただし、日本刀のようなしなやかさがなく、強度が均一なので刃こぼれしやすい。
ちゃんと刃こぼれしにくいように研いでくれるか、中央の溝を過不足なく刻み込んでくれているか。
そういう使い手目線の、鋳造後の処理の仕方によって職人の手腕が問われる。
中央の溝は剣を突き刺した時、相手から素早く剣を引き抜けるようにするための空気穴の役割を果たす。
浅すぎたら意味を持たないし、深すぎたら強度が心許なくなる。
鋳造の型に刻まれた窪みの処理の仕方で良い剣かどうかが分かる。
丁寧な仕事をしているかどうか、中央の溝は判断するのに丁度良い指標になるのだ。
その点、アルベルトが使っているこの剣は悪くない。
刃こぼれに関しては彼の手入れの仕方に問題があったり、長旅のせいで研ぎ直しが出来ていないせいだろうし。
鋼の質も悪くない。
角狼は決して強い魔物ではないが、若い個体の素材は使い込むことによって武具を成長させてくれると言われている。
実際どうかは知らんけど。
鋼と混ぜる素材の選択肢としては悪くない。
強くはないが弱くもないので、珠玉種の素材が付与する時に拒否しない程度だ。
問題なく手持ちの素材が使える。
良かった、良かった。
アッサリ直して付与の強化もされ、返却された大剣に咽び泣いて喜ぶかと思ったのに、「重さが変わったせいで感覚が変わった!」と何よりも先に文句を言われた。
この世界の住民は、礼を述べる前に文句を言わなければ死んでしまう呪いにでも掛けられているのだろうか。
まったく。
どいつもこいつも。
比較的マシだと思ったアルベルトでさえコレかよ。
教育的指導の名目のもと、ちょっと本気を出して回し蹴りを喰らわせたら、勢い良く空高く飛んで行って堀の水へとダイブした。
軽い運動の後だし、しっかり汗を流してこい。
泳げないのか、ガボガボ言いながら堀の中で暴れ回っているので、仕方なく浸けてあったクマと一緒に引き上げてやった。
そうしたら、目が合って開口一番に「何をする!?」と文句を言われたので、ニッコリ笑って陸に上げる前にアルベルトだけ精霊術を解除して落としてあげた。
水没するまで堀の中に放置しておくべきたろうか。
先程よりは低い位置からとはいえ、鎧を付けたまま二度も水中へ放り込まれたアルベルトは、暫く暴れる音がしていたのだが、数分と持たないうちにとても静かになった。
海で溺れたら真っ先に死ぬタイプだよね。
この世界にも鮫がいるかは不明だけど。
死なせてもいけないので引き上げて腹パン入れて水を吐かせたら意識を取り戻した。
その途端元気になって目を釣りあげたので「この期に及んで、まだ言うべきことが分からない愚か者なのか? お前は??」と問うたら、ようやく青い顔をして「……ありがとうございました」と礼を述べた。
最初からそう言っていれば苦しい思いをせずに済んだのに。
遠巻きに見ていた三バカと村の人たちも同様に青い顔をして後退っていたので、この場にいる皆まとめて教育的指導が一回で済んだようで良かったよ。
そうそう。
お前たちはアルベルトの屍を超えていけ。
死んじゃおらんが。
せっかく作った設備なのだから、どうせならオレが一番最初に使いたい。
そう思い冒険者ギルドの建物に併設した解体場にクマを運び入れようとして、気付いた。
「ここら辺に出る魔物って、このクマより大きいのっている?」
「くまって……
ペンナウルスは大型魔物の分類だ。
この辺りは初めて来るから何とも言えないが……」
「たまに偶蹄羊と呼ばれる大型魔物があらわれる。
あれは……どうかな。
間近でみたことがないからなんとも言えん」
「偶蹄羊なら毛のせいで大きく見えるが、中身はさほど大きくないぞ」
「……なるほど」
アルベルトの言葉を引き継いだ村長さんが代わりに答えてくれた。
つまり、このクマさえどうにか出来れば良いのか。
引き上げて始めて気が付いたのだ。
このクマさん、デカすぎて門を通れない。




